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サッカー フットサル コラム 2018年9月3日

U-21日本代表にとっては、得難い経験 フル代表クラスでアジア大会を制した韓国

後藤健生コラム by 後藤 健生
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孫興民(ソン・フンミン)とのマッチアップとは、なんと贅沢な経験をしたことだろう! アジア大会に参加したU-21日本代表の選手たちのことである。 孫興民といえば、今やプレミアリーグ、トッテナム・ホットスパーのスター選手。チャンピオンズリーグでの活躍も期待される韓国代表のエースである。その孫興民をはじめ、GKの趙賢祐(チョ・ヒョヌ=大邱FC)、黄儀助(ファン・ウィジョ=ガンバ大阪)と3人のオーバーエイジを含む韓国のU-23代表。攻撃陣はオーバーエイジ以外にも黄喜燦(ファン・ヒチャン=レッドブル・ザルツブルグ)、李承佑(イ・スンウ=エラス・ヴェローナ)とフル代表が並ぶ強力布陣だった。

U-21代表として、これだけの相手と対戦する機会を得られることはなかなかない。金メダルを逃したのは残念だったが、弱い相手に勝って優勝するよりも、韓国フル代表クラスと真剣勝負の場で対戦する機会を得たことは、日本選手にとって金メダルよりも得難い貴重な経験だった。孫興民との何度も1対1の場面があった原輝綺(アルビレックス新潟)にとっては、一生モノの財産といってもいいはずの経験だった。

それもこれも、韓国がアジア大会での優勝を目指して本気で勝つことを考えたメンバー編成をしてきたことだ。その動機は「兵役免除」という非スポーツ的な理由だったが、おかげで日本はそのチームと決勝で対戦することで最高の強化の場を得ることができた。 「兵役免除」はオリンピックではメダル獲得(3位以内)が条件だが、アジア大会では「優勝」が条件となる。だが、競技レベルを考えれば、オリンピックでの3位よりアジア大会優勝の方がはるかに可能性が大きい。それが、彼らの本気度につながった。

選手にとって、キャリアのピークとなる20歳台に兵役のために2年近く競技の場を離れることは大きなマイナスとなる。「兵役免除」は、選手個人にとっては死活的な問題だ。そして、「兵役免除」は競技団体にとっても、また選手を保有する各クラブにとっても大きな利益になるから、最強布陣の代表の編成にはスポーツ界全体が全面的に協力する(それは野球でも同じで、韓国は「兵役免除」を目指すプロ選手による代表を派遣して優勝を狙いに来た)。

それは、国内クラブだけでなく、プレミアリーグのクラブにとっても同じようで、選手をリリースする義務のないアジア大会であるにも関わらず、トッテナムは孫興民の代表参加を承認した。 もっとも、そんな圧倒的なチーム力を誇る韓国代表は、絶対に勝たなければいけないはずのU-21日本代表の抵抗に苦しんだ。試合開始から一方的にゲームを支配して攻め込んではいたものの、日本の粘り強い守備を前にシュートがなかなか枠に飛ばない。そして、前半から飛ばしすぎた影響で、時間とともに韓国選手も疲労で足が止まり、さらに「勝たなければいけない」という意識が焦りを誘った。

勝負が決まったのは、90分のゲームをスコアレスで終えて突入した延長前半だった。疲労で集中が切れた日本の選手たちが致命的なミスを連発し、孫興民のドリブルが流れるところを途中出場の李承佑が蹴りこんで先制。さらに、孫興民のCKを黄喜燦が高い打点のヘディングで決めて勝負を決めた。

その後、韓国が守りに入ったのに付け込んだ日本が選手交代を使って攻勢をかけ、CKから上田綺世が1点を返し、その直後にも上田が決定機をつかむ場面もあったが、韓国がそのまま逃げ切った。 日本としては、90分終了まで交代カードを使っていなかったのだから、延長突入と同時に2、3人を交代させて攻勢に出ることもできたはずだ。実際、2点のリードを許した後には交代を入れたことで攻撃の形ができたわけで、ちょっと残念な気もする。

だが、これは結果論でしかないので、別に森保一監督を批判したいわけではない。たとえば、韓国の2点目、黄喜燦にヘディングを許した場面でマークに付いていたのは交代で入ったばかりの初瀬亮だった。まだ、ゲームに入り切れていなかったのだろう。交代を使うことには、そういったリスクも大きいのだ。

とにかく、試合は120分間の死闘となった。敗れた日本選手にとっても韓国選手にとっても、死力を尽くした試合となったはず(なにしろ、日韓の決勝戦は18日間で7連戦という過密スケジュールの最後の試合だったわけだ)。 帰国後は国際試合のためにJリーグは中断に入るので、日本選手はリーグ戦再開までの期間をリカバリーに充てられる。ところが、韓国選手の多くは、9月初めのフル代表の親善試合のためのメンバーにも選ばれている(韓国はアジア大会決勝から6日後の9月7日にコスタリカと、9月11日にはチリと対戦する)。孫興民をはじめ、アジア大会を戦ったメンバーはそのままフル代表の活動に参加しなければならないのだ。

トッテナムは孫興民が「兵役免除」を勝ちとったことでホッとしたことだろうが、ロンドンに帰ってきた孫興民は疲労をため込んだ状態のはずだから、すぐには起用できないだろう。チャンピオンズリーグの第1節に間に合うかどうか……。

日本は9月のフル代表には、ロシア・ワールドカップで主力として戦った代表レギュラー・クラスの海外組は招集せずに若手主体のメンバーを選出した。欧州クラブでの活動に集中させ、プレー機会を減らさないようにという配慮であろう。

だが、韓国は9月の親善試合にもロシア組を主体とした最強メンバーをそろえた。 もし、韓国が10月、11月の親善試合にも同様の方針で臨むとしたら、「海外組」には大きな負担となるはずだし、韓国選手がプレーしている各クラブにとってもマイナス材料になる。池東源(チ・ドンウォン)がプレーしているアウグスブルク、あるいは奇誠庸(キ・ソンヨン)のニューカッスルといったクラブである。 そして、2019年の1月にはアジアカップが開催され、アジアの代表選手は約1か月にわたってチームを離れることとなる。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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