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ラファエル・ベニテスとマウリツィオ・サッリという、かつてイタリア・セリエAのナポリを率いた両指揮官の対戦となったニューキャッスル・ユナイテッド対チェルシーの試合は、ある意味でまるでセリエAのような戦術的な戦いとなった。
つまり、「弱者」の立場であるニューカッスルがチェルシーに対して非常に戦術的な抵抗を図ったのである。 ベニテス監督はこれまでのフォーバックではなく「スリーバック」を選択した。いや、「スリーバック」ではなく、「ファイブバック」と言うべきだろう。最前線にソロモン・ロンドン一人を残して、「5-4-1」の布陣でしっかりしたブロックを作ってチェルシーの攻撃を受け止めた。
特筆すべきは、その「5-4」のブロックを構成するプレーヤーが前後、左右の距離感をしっかり保ったことだ。 チェルシーの方は、こちらは確信犯的にパス・サッカーで崩そうとする。ショートパスを回して、相手の守備に綻びを見つけようとするのだが、ニューカッスルの守備陣はチェルシーのパスにちょっかいを出しながらも、けっして不用意にスペースを与えるようなことはしない。
チェルシーはサイド攻撃に活路を見出そうとするのだが、ニューカッスルとしてはそれも織り込み済み。チェルシーは、本来ならエデン・アザールのドリブルで崩したいところかもしれないが、アザールのコンディションも上がり切った状態ではない……。
しかも、ニューカッスルはただ守っているだけではなかった。 ただ単純に追い回してボールを奪うのでは、せっかくボールを奪ったとしても後のパス・コースがなくなってしまい、すぐに回収されてしまう。だが、この試合のニューカッスルのように、適度な距離を保ちながら、狙いどころを持って組織的に守ることができれば、ボールを奪った瞬間にしっかりといくつかのパス・コースを作ることができるから、効率的にカウンターを仕掛けることができる。
チェルシーの中盤はアンカーのポジションのジョルジーニョの前にエンゴロ・カンテとマテオ・コバチッチを置いたすばらしくバランスが取れたものだったが、そのジョルジーニョの両サイドにできる小さなスペースにMFが顔を出して、ニューカッスルは守備的な布陣から効果的なカウンター攻撃を見せる。 こうして、0-0で折り返したニューカッスル。後半も守備陣は崩れなかった。 均衡を破ったのは、チェルシーの左サイドバック、マルコス・アロンソの強引なドリブルだった。アザールに一度預けてから、再びボールを受けてペナルティーエリアに入ったところで、ファビアン・シェアのファウルを誘ってPKをゲットしたのだ。後ろからスライティング・タックルを仕掛けたシェアの足は確かにボールを触っていたが、その後でマルコス・アロンソと足が絡んでしまった。
アザールのPKが決まってリードを許したニューカッスルだが、勝負は終わっていなかった。ベニテス監督は、すぐにファウルを犯したシェアに代えて、3人目の交代として武藤嘉紀を投入。アタッカーを増やして反撃に出る。そして、83分には実際に同点に追いついて見せたのだ。GKからのロングボールを右サイドで受けたディアンドレ・イェドリン からのクロスに頭で合わせたホセルが決めた。
そのわずか4分後に、FKからの流れからチェルシーのマルコス・アロンソにシュートを撃たれ、同点ゴールをお膳立てしたイェドリンの足に当たってオウンゴールとなってしまった。第3節を終えて、ニューカッスルは1分2敗と結果は出ていない。だが、ニューカッスルの2失点はPKとオウンゴールによるもので不運な敗戦と言っていいだろう。内容的には、しっかりした守りからのカウンター。さらに、失点してからの反発力も示しており、このチームの潜在力を感じさせるものだった。
ニューカッスルは、イングランド北部(スコットランドとの国境も遠くない)の古豪である。ホームタウンはニューキャッスル・アポン・タイン。「アポン・タイン」というのは「タイン川の」という意味。つまり、ニューキャッスル(新しい城)というありふれた名前の街なので、他の「ニューカッスル」と区別するために「タイン川の」という言葉が付いているのだ。タイン川上流には炭鉱があり、河口のニューカッスルは石炭の積み出し港であり、また、かつては造船業でも栄えていた(産業革命期には、まだ大量輸送機関がなかったから、工業地帯は鉄鉱石や石炭の産出地の近くにしか存在しえなかった)。
1863年にフットボールの統括組織「フットボール・アソシエーション(FA=協会)」が発足。この新しいスポーツはたちまちイングランド北部の工業地帯の工場労働者の間で盛んになっていった。そして、プレミアリーグの前身である「フットボール・リーグ(FL)」が、こうした北部の労働者たちのクラブによって1888年に結成された(1893年にアーセナルが加盟するまで、ロンドンにはFL加盟クラブがなかった)。
つまり、ニューカッスル・ユナイテッドはイングランドのフットボールの歴史を象徴したようなクラブなのだ。 ホームの「セント・ジェームズ・パーク」も、この街の中心に立地し、ニューカッスルという都市を象徴するような施設である。
イタリア・セリエAでは「南部のチームが強いと面白い」と言われている。同様に、イングランドの場合は「北部の強豪」が強くあってほしい。かつて、イタリアでその南部の象徴のような存在であるナポリを率いたベニテス監督には、ニューカッスルの復活を果たしてもらいたい。
3試合を終えて1分2敗と結果には結びついていないニューカッスルだが、2敗はトッテナム、チェルシーという強豪相手のもの。開幕から強豪との試合が続いたのが不運だった。そして、第4節でもニューカッスルはマンチェスター・シティに挑戦する。ベニテス監督が、どのように王者に挑むのか注目したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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