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4年後の2022年カタールワールドカップを目指す新生・日本代表の指揮官に森保一監督が就任した。今回の2018年ロシアワールドカップを西野朗監督の下、コーチとして経験した人物の内部昇格ということで、極めて順当な人選と考えていいだろう。
森保監督と言えば、93年10月28日の94年アメリカワールドカップアジア最終予選・イラク戦で後半ロスタイムに2-2に追いつかれた「ドーハの悲劇」の経験者。ワールドカップに行けなかったことで、日本代表の重責を痛感した経験を持っていることは大きい。サンフレッチェ広島時代に風間八宏監督(現名古屋)とともにボランチを形成し、94年Jリーグ第1ステージ制覇を果たした時の印象も非常に濃いものがある。
この時のチームには高木琢也監督(現長崎)、森山佳郎U-16日本代表監督ら優れた日本人がいて、外国人もイワン・ハシェック、パベル・チェルニー、ノ・ジュンユンら能力の高い選手を揃えていた。完成度の高いチームで森保監督は地味だが効果的な仕事をしていた。そのひたむきさと真面目さ、有能さは指導者になってからも変わらない。彼の人柄を多くの日本代表選手や関係者が高く評価しているのは間違いない。
日本人監督が次の4年間を視野に入れてワールドカップ直後に就任するのは、93年Jリーグ発足以降では初めてのこと。森保監督を抜擢したハンス・オフト監督が招聘した92年以降、日本サッカー界は外国人指導者を第一に考えてきたからだ。
ドーハの悲劇の後は、かつて「ブラジル黄金の中盤」を形成したパウロ・ロベルト・ファルカン監督にチームを託したし、98年フランス大会の後はフィリップ・トルシエ体制に移行。2002年日韓大会の後はジーコ(鹿島テクニカルディレクター)、2006年ドイツ大会の後はイビチャ・オシム、2010年南アフリカ大会の後はアルベルト・ザッケローニ(現UAE代表)、2014年ブラジル大会の後はハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチといずれも外国人だった。
ファルカン解任を受けて加茂周(現解説者)、岡田武史(現FC今治代表)も監督、オシムの病を受けて岡田、ハリルの解任を受けて西野という形で日本人が指揮を執ったこともあったが、Jリーグと日本代表の両方でプレーした日本人監督は初めてだ。日本サッカー協会の田嶋幸三会長も「Jリーグ発足から25年が経過し、日本人監督が就任するべき時期」という発言をしていたが、それは多くの関係者の共通認識だろう。ワールドカップと海外リーグの経験を併せ持った人物がいれば、なお理想的ではあったが、まだそこまで望むのは時期尚早なのかもしれない。森保監督という選択肢はベターなものだろう。
森保監督はこれから2020年東京五輪とカタールワールドカップの両方を視野に入れながら2つの代表監督を兼務することになるが、参考になるのはトルシエ時代だ。2002年日韓大会が予選免除だったため、トルシエは最初の2年間は五輪に軸足を置き、2000年以降本格的な世代間の融合を図っていった。
2002年日韓大会メンバー23人のうち、シドニー五輪世代に該当するのは12人。三都主アレサンドロは帰化選手であるため五輪には行っていないが、ほぼ半数が下から上がってきた若手だった。当時は小野伸二、稲本潤一(ともに札幌)ら傑出した才能を持つ20代前半の選手が数多くいたから、トルシエも仕事がやりやすかったはずだ。
その一方で、トルシエは上の世代を軽視したわけではなかった。森保監督と同じドーハ組に該当する中山雅史(沼津)をわざわざ最終メンバーに入れ、98年フランス大会初出場の生き証人だった秋田豊(現解説者)も最後の最後に選んでいるのがその証拠だ。大会中にケガをした森岡隆三(前鳥取監督)が「試合に出れなかったベテランが率先してチームをサポートする姿にどれだけ助けられたか分からない」と語っていたが、トルシエはベテラン選手の価値も理解したうえで強固な結束力のある集団を作った。こうしたチーム作りは今回のロシアに共通する部分でもある。森保監督もぜひ参考にしてほしい。
90年代から2000年代前半にかけては日本サッカー界が最も勢いに乗っていた時代。当時の勢いを取り戻したいというのは、多くの関係者の強い願いでもある。当時の日本代表がどのようなものだったかを改めて学ぶことも森保ジャパンの行く末を探るうえで重要ではないか。現在、J SPORTSで放送されている「蹴球日本代表監督史」は1つの大きな手掛かりになるはず。より多くの方この放送を見ていただき、日本代表の歴史に思いを馳せてほしいものだ。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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