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「運」の要素はもちろん否定できない。あの最初の場面のことである。
縦へのボールに絡んだ大迫がうまくターンしてゴール前まで侵入してシュート。ここまでは「前への意識」と大迫勇也のテクニックによるものだ。「アグレッシブに」という西野朗監督の意識付けによるプレーでもある。だが、そのシュートがGKのオスピナに弾かれ、拾った香川真司のシュートがカルロス・サンチェスのハンドを誘うとは……。
香川のPKが決まって6分でリードを奪い、さらに相手は1人少なくなってしまった。「裏付け」はあったにしても、これを「幸運」と言わざるをして何を幸運と言おう。
もっとも、サッカーというスポーツでは、どんな試合でも運に左右されるもの。幸運によって勝利したとしても、それはそれで素直に喜んでいい。まして、日本チームがこの「幸運」を勝利につなげることができたのは、その後のクレバーなゲーム・コントロールによるものだったのだから。
「個人の能力」で比べれば、日本とコロンビアの間に圧倒的な差があったことは間違いない。
たとえば、コロンビアが同点ゴールを狙ってきた前半の30分過ぎの試合展開を思い出してみよう。数的優位にあるにも関わらず、日本代表は完全に押し込まれてしまっていた。前線で守備をしようにも、アタックしてはかわされることの繰り返し。押し込まれ、組織が崩壊し、守備の致命的とも言えるようなミスが相次いだ。同点ゴールにつながったFKを与えたのも、そんなドタバタした状況の中での長友佑都のクリアミスからだった。そして、今度は長谷部誠が不運なファウルをとられたのだ。
西野監督は、試合後に「ポジショニングの優位」という表現を使った。つまり、11人対10人で全体としては数的優位にあっても、正しいポジショニングをしなければ局面では優位ではないという意味だ。「デュエル」で劣勢に立っていては、11人対10人の優位は局面での優位をまったく保証しないのだ。
だが、個人能力の差はすぐにはどうしようもない問題だ。育成から見直して、いずれは個人能力でもコロンビアに引けを取らないチームを作るべきなのは当然だが、今は現有戦力で戦うしかない。
同点ゴールを決められた前後、つまり前半の後半は押し込まれた日本代表だったが、後半には完全に立て直すことに成功した。
数的劣勢のコロンビアは90分間を通じて前からプレッシャーをかけ続けることはできないので、引き気味になってしまう時間ができる。日本代表は、この状況を利用して後方でゆっくりボールを回す。そして、大きくボールを動かすことによってコロンビア選手の体力を奪い、最後までゲームの支配権を渡すことはなかったのだ。
前半6分という早い時間に1点をリードするゲーム。もちろん、リードを奪えば精神的に余裕をもって戦えるはずだ。だが、逆に1点をリードしたことによって、守りに入って引き気味になってしまうこともあれば、逆にイケイケで前がかりになって仕留められてしまうこともある。もっと極端に言えば、リードしたことで恐れを抱いて慌ててしまう場合もある。かつて、Jリーグが開幕したころ、サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸で監督を務めていたスチュワート・バクスターは「日本の選手はリードすると怯えてしまう」といったことを言っていた。
もし、日本代表がこの試合でそんな展開で逆転されてしまっていたら、「だから、日本人選手はナイーブすぎる」と大いに批判されていたことだろう。その点で、リードした後に状況を考えながらプレーできたあたりは、日本のサッカーの成熟度が多少は上がったと考えてもいい(まあ、平均年齢が20歳代後半というベテラン中心のチームなのだし、多くの選手がヨーロッパのトップリーグでプレーしているのだから、当たり前と言えば当たり前のことなのだが……)。
というわけで、幸運をうまく利用して勝ち点3を奪ったことは、まず素直に喜んでおくべきだろう。
しかし、前半の同点に追いつかれた前後のプレーはもちろん、ゲームをコントロールしていた後半でも、プレッシャーをかけられたときにあまりにも簡単にミスをしてしまう場面が目についた。もちろん、サッカーに技術的なミスはつきものだが、行くべき時に前に行かないとか、パスのコースが自分の意図とズレてしまったときにすぐに足を止めてしまう。あるいは、ぶつかり合いで倒されたときにすぐにレフェリーの顔を見てファウルをアピールして起き上がらない。そんなプレーは意識の持ち方で改善できることだ。
「自らボールを扱える選手を起用することによって、リアクション・サッカーにならないようにしたかった」という西野監督は、香川真司と乾貴士といったテクニシャンを起用した。香川は期待通りのプレーを見せ、しっかりボールをつないでゲーム展開を落ち着かせた。戦うことのできる原口元気が入った右サイドも、後半になって酒井宏樹との関係性が改善されて活性化した。そんな中で、ミスが目についたのが乾だ。簡単にボールを奪われ、しかも奪われた後にすぐに追えない場面もあったし、弱気なプレーも目についた。
南米代表のコロンビアに続いてヨーロッパ代表のポーランドもセネガルに敗れたことによって、グループHは予想通りの大混戦の様相を呈してきた。厳しい戦いが3試合続く中で、ボールを扱えるテクニシャン・タイプと、競り合いで戦えるファイター・タイプをどのような比率で配するのか。
1点のリードをうまくマネージして勝利に結びつけたのに続いて、今度は勝ち点3というアドバンテージをどのようにマネージしていかにグループリーグ突破につなげるのか。西野監督の手腕に期待したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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