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5月31日に最終登録メンバー23人が正式決定し、6月2日に2018年ロシアワールドカップ事前合宿地のオーストリア・ゼーフェルト入りした日本代表。現地はミュンヘンから車で約2時間半、インスブルックから30分の場所にあるドイツ国境の高級リゾート地。標高1200mで、2月の平昌五輪で銀メダルを獲得したノルディック複合の渡部暁斗(北野建設)が五輪前のワールドカップ3連覇を飾ったジャンプ台も設置されている。夏場は欧州各クラブのキャンプ地として積極的に活用されていて、2010年南アフリカワールドカップで準優勝したオランダもこの地で事前合宿を張り、躍進を遂げていた。そういう好環境で、西野朗監督率いる日本代表も本大会に向けて勝負を賭けることになる。
現地の気候は、晴れている日中は20度超まで上がる爽やかな陽気だが、雨が降りやすい不安定な空模様が続いている。代表が到着した2日も昼間は汗ばむ陽気だったのに、夕方になると雷雨となり、気温も15度以下まで急降下した。日本代表は19時頃、宿泊先に到着し、この日はそのまま休養に充てるのかと思いきや、30分後にはいきなりホテルを出て練習場に直行。豪雨の中、30分ほどのランニングを行った。この抜き打ち練習には報道陣も大いに驚かされたが、西野監督は「予定通りです。遅延がなかったので」と涼しい顔で話していた。ガーナ戦翌日のクールダウンがキャンセルになったため、選手たちは丸3日間体を動かしていなかった。それを懸念して、いち早くコンディションを上げたいという思惑がコーチングスタッフの中にはあったのかもしれない。
6月19日の初戦・コロンビア戦(サランスク)まで2週間。日本代表は急ピッチで臨戦態勢を構築しなければならない。8日のスイス戦(ルガーノ)と12日のパラグアイ戦(インスブルック)と前日練習を除くと、ゼーフェルトで練習できるのはわずか7日しかない。そこで戦術的な徹底とコンディションの引き上げという重要な2つのテーマに挑むのだからハードルは高い。とりわけ、相手に走り勝てるフィジカルを作ることは非常に大事。5月21~28日にかけて千葉県内で行われた国内合宿では走り込みのような練習は皆無に近かったため、ここでは追い込む必要があるだろう。
標高1200mの環境で心肺機能を高めておけば、低地のロシアに行ってからは体がラクに感じられる可能性は高い。それは2010年南アフリカワールドカップの時に多くの選手が経験していることだ。8年前の代表は5月27日から標高1800mのスイス・サースフェーで事前合宿を張り、フィジカル的に追い込みをかけた。同時に高地順化を図るため、ハートレートモニターを使った計測や採血なども実施し、科学的データに基づいたアプローチを徹底させた。その成果が6月4日にスイス・シオンで行われたコートジボワールとのテストマッチで出る。この試合は45分×3本というイレギュラーな形式だったのだが、3本目に出たケガ上がりの松井大輔(横浜FC)は「スーパーボディを手に入れたと思うくらい体が軽かった」と述懐していた。
その松井や大久保嘉人(川崎)、本田圭佑(パチューカ)ら心肺機能のデータが良好だった選手を岡田武史監督(現FC今治代表)が抜擢。高地で走り勝てるチーム編成を重視した。もちろん当時は本田や遠藤保仁(G大阪)のように直接FKを決められる選手がいたことも大きかったが、フィジカル重視の徹底したアプローチが南アで成功を収めた最大の要因だったことは間違いない。
その経験値を生かすべく、今回のゼーフェルト合宿ではとにかく選手個々のコンディション引き上げを重視してほしい。国内合宿で走り込みをしなかった以上、ここで負荷をかけなければ、ベストな状態は作れない。とりわけ、長期間試合から遠ざかっていた岡崎慎司(レスター)や香川真司(ドルトムント)、乾貴士(エイバル)といった面々はそういったアプローチが必要不可欠ではないか。
国内組の山口蛍(C大阪)もガーナ戦後には「もっとコンディションを上げないといけない」と話していた。Jリーグとアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の過密日程もあり、彼らのトレーニング量も配慮がなされた様子だったが、国内組は国際経験値が下がる分、足で稼いで相手を凌駕する方向に持っていくしかない。とりわけハードワークがウリの山口や槙野智章、遠藤航(ともに浦和)らはそういう意識を高めることが肝要だ。 このゼーフェルト合宿が、西野ジャパンのロシアでの成否を左右すると言っても過言ではないだろう。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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