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サッカー フットサル コラム 2018年5月28日

サラーの負傷交代はきわめて残念 クロップ流のハイプレスは、主流たりうるのか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ヨーロッパ・チャンピオンズリーグ決勝で、スペインのレアル・マドリードが3連覇を達成した。チャンピンズカップ時代を含めても、「3連覇」というのはきわめて珍しい。1960年代末からアヤックス(オランダ)とバイエルン・ミュンヘン(西ドイツ=当時)が連続して3連覇を達成して以来の出来事だ。レアル自身はチャンピンズカップ最初期の5連覇という記録を持っているが、当時のチャンピオンズカップは必ずしもヨーロッパのすべての国が参加する大会ではなかったわけで、21世紀のこの時代に3連覇を達成したというのは、まさに信じがたい快挙である。

 

決勝戦自体は、けっして「完勝」というわけではなかった。 前半の立ち上がりはリヴァプールの前からのプレッシャーに押し込まれ、ロングボールを蹴らざるを得ない時間も長く、一進一退。後半は3対1とたしかに上回ったし、ギャレス・ベイルのオーバーヘッド・シュートは歴史に残るビューティフル・ゴールだったが、先制ゴールはGKのロリス・カリウスの不用意なスローイングにカリム・ベンゼマが足を出したという、にわかには信じがたいようなゴールだったし、ダメ押しのギャレス・ベイルのロングシュートも、無回転のボールに対してカリウスが処理を誤ったもの。さらに、カゼミーロがペナルティーエリア内で犯したハンドが見逃された場面もあり、リヴァプールにとっては不運な敗戦だった。

試合後にユルゲン・クロップ監督が語ったと伝えられている言葉のとおり、「サッカーとはそんなもの」なのだろう。 ただ、どうしても残念なのは前半の早い時間にリヴァプールのモハメド・サラーが負傷で交代を余儀なくされたことだ。 今シーズンのリヴァプールの大躍進は、もちろんクロップ監督のプレッシング・サッカーが浸透してきたことや、ジョーダン・ヘンダーソンをはじめとする後方の選手たちのサポートもあるが、やはりサラーの活躍によるところが大きい。まさか、サラーがバロンドールの有力候補となろうとは、シーズン開幕前に誰が予想できたことだろう。

そのサラーに対して、レアルももちろんしっかり対策は立ててきていたが(つまり、マルセロはサラーに関わらずに攻撃に出て、MFのトニ・クロースとセルヒオ・ラモスがサラーに対応する)、それでもサラーの脅威でレアルの守備ラインも押し下げられ、クロップ流のプレッシングが機能していたのだ。 流れが変わったのは、明らかにサラーの交代以後だった。

もちろん、サラーがそのままプレーしていたとしても、前半の30分を過ぎればプレッシングの圧力は低下していたであろう。前半の立ち上がりのようなハイプレスを90分間維持できないのは当然で、レアルはそれを計算に入れた上で戦っていたはずだ。 リヴァプールにとって不運だったのは、ちょうどプレッシングの圧が落ちかける30分過ぎという時間帯にサラーがいなくなったことだ。サラーがいれば、全体の運動量が落ちたとしても精神的な圧力をかけ続けることができたはずだ。

リヴァプールが目指しているハイプレスのサッカー。ドイツ語で「ゲーゲンプレッシング」という言葉で表されるサッカーは、現代サッカーの一つの重要なトレンドだ。ドルトムント時代のクロップのゲーゲンプレッシングは有名だし、ロジャー・シュミット監督(現・北京国安)時代のザルツブルグもハイプレスのサッカーでセンセーションを巻き起こした。 いずれにしても、ここ数年、ドイツを中心にこの「ゲーゲンプレッシング」のサッカーが世界を席巻しつつある。

日本でもチョウ・キジェ監督が湘南ベルマーレでプレッシング・サッカーを追及しているし、アンジェ・ポステコグルー監督の横浜F・マリノス、フアン・エスナイデル監督のジェフ千葉、さらには相馬直樹監督のFC町田ゼルビアなど、ハイライン、ハイプレスのサッカーに挑んでいるクラブがいくつもあるが、しかし、ハイラインの裏を狙われるという本質的な弱点を克服できず、結果にはつながっていない。

そんな「ゲーゲンプレッシング」が、これからのサッカーの主流になっていくのか、それとも、伝統的なバランスを重視したサッカーがやはり主流であり続けるのか、レアル・マドリードとリヴァプールの対戦には、そんなサッカーの将来を占うという意味もあった。

いくらハイプレスをかけたとしても、そのプレスをかわしてパスを回せるだけの技術を持った相手にはプレッシングははまらない。そうなったら、間違いなく裏を狙われてしまう。しかし、それなら、さらにプレッシングの圧を高めていけばいいのではないか……。 そんな意味で、モハメド・サラーという強力な槍を擁して、今ではプレッシングの圧力という意味で間違いなく世界最強と思われるリヴァプールのサッカーが、斬新な戦術こそ使わないが、選手の質あるいはバランスという面では世界最強と思われるレアル・マドリード相手にどこまで通用するか……。

前半の途中まで、その興味に釘付けになっていただけに、30分でサラーがピッチから姿を消してしまったのはとても残念な出来事だった。 サラーは靱帯損傷で、「ワールドカップには間に合う」と報じられているが、エジプトの関係者はさぞ肝を冷やしたであろう。ハムストリングを痛めて同じく交代を余儀なくされたレアルのダニエル・カルバハルも、ワールドカップを控えて心配だ。

負傷者はともかくとして、ワールドカップ開幕まであと3週間強。このチャンピオンズリーグ決勝を戦った選手にとっては、束の間の休養を取って代表に合流する厳しいスケジュールが待っている。海外組が合流して、思った以上にコンディションに問題を抱える選手が多く、苦労しているのが日本代表の西野朗監督のようだが、チャンピオンズリーグ決勝に出場した選手を迎える各国代表にとっては、さらに大きな不安材料となるのだろう。

そういえば、4年前のブラジル大会があった2014年のチャンピオンズリーグ決勝はレアル対アトレティコのスペイン対決(というか、マドリード・ダービー)だったが、おかげでスペイン代表はコンディション調整に苦しみ、グループリーグ敗退となってしまった。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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