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サッカー フットサル コラム 2018年5月24日

ウナイ・エミリの下でアーセナルはどのように変貌していくのか

後藤健生コラム by 後藤 健生
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アーセン・ヴェンゲル監督が退任したアーセナル。後任監督として前パリ・サンジェルマン(PSG)監督のウナイ・エミリが選ばれたという。 ウナイ・エミリは46歳のスペイン人。正確に言えば、フランス国境に近いギプスコア県オンダリビア出身の生粋のバスク人である。

スペイン国内ではバレンシアやセビージャを率いて成功を収め、バレンシアをチャンピオンズリーグに導き、また、セビージャでは珍しいヨーロッパリーグ3連覇という記録を作っている。リーガでの優勝こそないが、レアル・マドリードとFCバルセロナという絶体の2強が存在するスペインでは最高級の実績といっていいだろう。

一方、スペイン国外のクラブではロシアのスパルタク・モスクワとフランスのPSGを率いたが、スパルタクでは1シーズン目の途中で成績不振のために解任されている。また、PSGでは2017-18シーズンにリーグアン優勝を果たしたものの、チーム力を考えれば「優勝」は当然の結果という印象が強い。就任初年度の2016-17シーズンにはリーグアンのタイトルを逃してしまったし、また上位進出を期待されたチャンピオンズリーグでは2シーズンともスペイン勢に逆転負けを許してラウンド16敗退。とくに、2017年のバルセロナとの戦いではファーストレグで4対0の勝利した後、1対6と大敗を喫して逆転負け。チャンピオンズリーグでは良い印象を残せなかった。

やはり、この監督のキャリア最高の実績はセビージャでのヨーロッパリーグ3連覇だろう。 当時、この大会ではスペイン、ポルトガルのイベリア半島勢が圧倒的な力を発揮していたが、大勝したかと思えば思わぬ敗戦もあり、紆余曲折のスリリングな戦いでの3連覇は見ていてとても面白かった(当時、僕はELでのセビージャの試合の解説を担当することも多かったので、記憶が鮮明に残っている)。

ウナイ・エミリにとってアーセナルは国外での3回目の挑戦ということになる。ロシアのプレミアリーグで結果を残せず、フランス・リーグアンでそこそこの成績に終わったウナイ・エミリ。果たして、イングランドでの運命は……。

ウナイ・エミリの印象としては、ゲーム戦術を駆使するタイプの指導者のように思える。試合ごとに選手の顔ぶれも、選手の配置も変えてくる。そして、それが当たる場合と当たらない場合の差が大きい。そんな印象だ。 ということは、たとえばセビージャ時代やPSG時代の試合を分析して、「このような指導者だ」、「アーセナルではこんな選手起用をするだろう」といった予想をするのは時期尚早と言える。サイドバックを高い位置に置いてサイドから崩していくといった基本は変わらないにしても、あくまでも現有戦力を見極めて、相手を分析して、戦い方を決めていくのがそのやり方なのだろうから。

戦術にはこだわって細かい指導をするあたりはイングランドにパス・サッカーを持ち込んだ前任者のヴェンゲル監督に近い印象だが、一方で自らの哲学、美学にこだわったヴェンゲル監督と比較すれば、より勝負にこだわってチームをいじる監督ということもできる。

ただ、もちろん「勝つことだけを考える監督」ではない。これまでも、その長い歴史の中でつねに新しいことを切り開いてきたアーセナルというクラブ(ロンドン初のフットボール・リーグ加盟クラブ。3バックの開拓。ナイトゲームやラジオ中継を手掛けたクラブ……)。クラブ側としては、このウナイ・エミリという指導者の下で再び何か新しいものを持ち込みたいのであろう。

ヴェンゲル監督やリヴァプールを率いたジェラール・ウリエがフランス式を持ち込んだことで始まったイングランドの近代化。何人かのイタリア人監督が成功を収め、ポルトガルの鬼才ジョゼ・モウリーニョが勝負に徹した戦い方でタイトルを取り、現在はスペイン人ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)とドイツのユルゲン・クロップ(リヴァプール)が覇を競っている。そんな中で、ウナイ・エミリはスペイン流(あるいはバスク流)を「サッカーの母国」に持ち込むのであろうか。

スパルタク・モスクワはロシア最大の人気クラブだった。そして、PSGは今ではその財政力を生かしてリーグアン優勝は当然。チャンピオンズリーグでも初優勝が期待される立場のクラブだった。ウナイ・エミリにとってプレッシャーも大きかったのではないか。

その点では、アーセナルはヴェンゲル監督の下で常に上位にありながら、ここ最近は優勝からは遠ざかっており、プレミアリーグの中では、3番手、4番手争いをしているのが現状。つまり、ウナイ・エミリがスペインでその手腕を発揮した当時のバレンシアやセビージャに近い立ち位置であり、ウナイ・エミリにとってはプレッシャーがかからず、やりやすい環境と見ることもできる。

もちろん、プレミアリーグはハイレベルの戦いであり、メディアからのプレッシャーも大きい。そんな中で、ウナイ・エミリの下でアーセナルというクラブがどのように変貌していくのか、僕たちも長い目で見守りたい。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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