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サッカー フットサル コラム 2018年4月23日

耐えに耐えて勝った日本女子代表 オーストラリア戦の監督の判断は正しかったのか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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日本女子代表(なでしこジャパン)が、AFC女子アジアカップで連覇を達成した。 オーストラリアとの決勝戦は開始直後から押し込まれる苦しい展開となったが、GKの山下杏也加がPKをストップするなど好セーブを連発。DFも体を張った守備で相手のシュートをブロックするなど無失点で耐える。そして、途中交代で入った横山久美がワンタッチで相手DF2人をはずし、オーストラリア・ゴールの右上隅に完璧なゴールを決め、その「虎の子」の1点を最後まで守り切っての優勝。まるで2011年ワールドカップ決勝のアメリカ戦を思い出させる、ミラクルのような勝利だった。

最近は男子日本代表のハリルホジッチ監督が解任されたり、ACLでJリーグ勢4チームのうち3チームの敗退が決まったりと悲観的材料ばかりだった日本のサッカー界で、女子代表の優勝は久しぶりの明るい話題となった。

女子代表はグループリーグでもオーストラリアと対戦し、この時も押し込まれる時間が長かったが1対1で引き分けて2位で準決勝に進出している。今回のコラムのテーマは、そのグループリーグ最終戦でのオーストラリア戦の戦い方である。

状況はこうだ。 B組は「3強(オーストラリア、日本、韓国)1弱(ベトナム)」という展開となり、3強同士の戦いはすべて引き分けに終わり、3チームが1勝2分の勝点5で並んだのだ。当該チーム同士の戦績も各チームが勝点2で、もちろん得失点差も0だ。そして、総得点数が0(つまり、オーストラリア戦も日本戦もスコアレスドロー)の韓国が3位となり、総得点数が1で並んだ(つまり、直接対決で1対1で引き分けた)日本とオーストラリアはベトナム戦の結果によって、ベトナムを8対0で下したオーストラリアが1位、ベトナム戦が4対0だった日本が2位となったのだ。

日本とオーストラリアの最終戦は63分に坂口夢歩のゴールで日本がリードしたものの、86分に同点とされてしまう。すると、その後は日本がDFラインの間で延々とパスを回し続け、一方のオーストラリアも日本のボールを奪いに行かず、残り時間をそのまま経過させて1対1で引き分けたのだ。もちろん、場内からはブーイングも飛んだ。

考えていることは明らか。1対1のスコアのまま引き分ければオーストラリアの1位と日本の2位が確定し、ともに5位までに与えられるワールドカップ(2019年フランス開催)の出場権を手にすることができるからだ(当該チーム同士の成績が優先されるから、同時刻開催の韓国対ベトナムの試合結果に関わらず、順位は決まる)。さらに攻め合って勝負がつけば、負けたチームはグループ3位となり、ワールドカップ出場権をかけてA組3位のチームと「5位決定戦」を戦うことになる。 ともに、リアリスティックな選択をしたということができる。

だが、僕はこの場面では「日本代表は勝ちに行くべきだったのではないか」と思っているのである。 別に「試合は常に勝ちを目指すべきだ」とか「勝利を目指す方がフェアだ」などとナイーヴなことを言いたいわけではない。こういう、計算をしながら戦うこともサッカーの一部であり、僕は実はそんな「計算づく」の戦い方も大好きだ。日本のサッカー界もようやくこういった現実的な戦いができるようになったかと、見ていて嬉しかったのも事実である。

だが、「計算づく」というのであれば、さらに計算を働かせてほしかったのだ。よく考えれば、オーストラリア戦の終盤は勝負に行ってもよかったのではないか。 1対1で迎えた終盤。ここで攻め合って日本にとって得るものは大きかった。まず日本のグループ1位通過が決まる。1位で通過すれば、準決勝はB組2位のタイとの顔合わせとなる。そのまま引き分けて2位になれば相手は中国だ。当然、タイの方が楽な相手のはずだ(実際には、日本は中国相手に3対1で完勝。オーストラリアはタイ相手に大苦戦してPK戦での辛勝となったのだが……)。

さらに、もしオーストラリアを破ることができたら、オーストラリアはグループ3位となって準決勝進出が不可能になる。つまり、日本は決勝戦で最強のオーストラリアと顔を合わせなくてもいいのだ。つまり、グループリーグ最終戦でオーストラリアに勝つことができれば、日本の優勝の確率は大幅にアップするはずだった。

しかし、もし勝負に行って敗れてしまったら日本はグループ3位となってこの大会のタイトル争いから脱落してしまう。そして、ワールドカップ出場権を懸けた5位決定戦に回るのだ。それなら、やはりリスクは冒さない方が良かったのか……。

しかし、A組の順位はすでに前日に決定しており、5位決定戦の対戦相手はフィリピンと決まっていたのだ(この大会、B組が「3強1弱」の「死のグループ」だったのに対して、A組は「1強(中国)3弱(タイ、フィリピン、ヨルダン)」という、じつにアンバランスで不公平な組み分けだった)。

フィリピン相手に日本代表が敗れることはほとんど考えられないし(実際、5位決定戦でフィリピンと対戦した韓国は5対0で勝っている)。つまり、オーストラリアに敗れても、最低限の目標であるワールドカップ出場権は確保できるわけだ。 つまり、あのオーストラリア戦の終盤、リスクを冒して勝負して勝った場合のプラスと、敗れてしまった場合のマイナスを比較すれば、リスクを冒してみる価値はあったのではないだろうか。そう、僕は考えたのである。 「正解」は分からないし、あの時の高倉麻子監督の判断を批判するつもりも毛頭ない。実際、決勝では「最強の」オーストラリアと対戦して見事に優勝を飾ったのだから何の問題もないし、むしろ若い選手たちが厳しい試合を経験したことは今後のための大きな財産となる。

また、監督が引き分けでよしとした判断の裏には、その時のチームの調子や選手のコンディションなども材料になっているはずだ。 だから、「勝負に行った方がよかったのではないか」という僕の考えはただの思考実験でしかない。オーストラリアと仲良く引き分けた場合と勝負に行った場合の利害得失を考えてみたというだけの話である。

しかし、次に同じような状況が起こった場合にも、やはり戦略的な判断はよほど考えてみないといけないだろう。6月にロシアで開かれる大会でも、そんな判断が要求されるような場面があるといいのだが……。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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