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今シーズンのプレミアリーグで首位を独走し、間もなく優勝を決めようかというマンチェスター・シティが、チャンピオンズリーグの準々決勝ファーストレグで0対3のスコアで完敗を喫した。バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリード、バルセロナといった強豪が順当に勝ったファーストレグでの最大の「サプライズ」と言っていいだろう。
それも、マンチェスター・シティに土を付けたのは、同じプレミアリーグで3位に付けるリヴァプールだったのだ。もっとも、リヴァプールはプレミアリーグでの対戦でもマンチェスター・シティを破っているのだから、その勝利を「サプライズ」と呼んでは失礼かもしれない。しかし、前半の31分までに3点を奪ったその勝ちっぷりは、やはり「サプライズ」としか言いようがない。キックオフ直後から相手陣内の高い位置でプレスをかけるリヴァプール。「ホームのアンフィールドで決めてやろう」という強い意志を感じさせる立ち上がりだった。
だが、マンチェスター・シティが次第にポゼッションの時間を長くして、ゲームは落ち着き始めたかと思われたのだ。そんな12分、自陣深くでマンチェスター・シティのミスパスを拾ったリヴァプールがロング・カウンターを仕掛けた。 ハーフライン上で縦パスをもらったアハメド・サラーがドリブルで駆け上がり(実際にはパスが出た瞬間のサラーの位置はハーフラインを越えており、オフサイドだったのだは?)、パスを受けたフィルミーノがペナルティー・エリア内でシュート。こぼれを拾ったフィルミーノからサラーにパスが渡ってサラーが決めた。
このところ絶好調のサラー。これで気をよくしたこともあって、その後、サラーの仕掛けが何度も右サイドを切り裂くこととなった。そして、左サイドでもマネが呼応。両サイドの仕掛けにマンチェスター・シティも受け身となってしまったのである。そして、21分にはオクスレイド・チェンバレンが強烈なミドルシュートをたたき込み、さらに31分にはサラーの正確なクロスをマネがヘディングで決めて、リヴァプールが3点を連取したのだ。 圧倒的に攻め込んだようにも見えない中で、こぼれ球もリヴァプール有利に回り、マンチェスター・シティは浮足立った。
たしかに、ユルゲン・クロップ監督のチームは素晴らしい戦いをしたし、両サイドの仕掛けは強烈だった。だが、それにしてもなぜマンチェスター・シティほどのチームがあれほど混乱したのか。合理的な説明は難しそうであり、「場の雰囲気」によるもののような気がしてくる。そう、ここはアンフィールドなのだ!イングランドでは、ホーム&アウェーの感覚が強烈だが、そんなプレミアリーグの中でもアンフィールドほど熱いスタジアムは他にはない。
たとえば、マンチェスター・シティのホームであるイティハド・スタジアム(シティー・オブ・マンチェスター・スタジアム)は近代的なスタジアムであるが(あるいは、「近代的なスタジアムだから」というべきか?)、古くからのイングランドのフットボール・グラウンドが持つような熱さは感じられない。 やはり、そのアンフィールド独特の空気が、マンチェスター・シティの足を止めたようにしか思えないのだ。僕にとって、リヴァプールというクラブの最大の思い出は、あの「イスタンブールの奇跡」である。
リヴァプールがイタリアのACミランと対戦した2005年のチャンピオンズリーグ決勝。僕は、何故だか分からないが、この試合をどうしても見たくなってイスタンブールまで飛んで行った。しかし、前半にミランが3対0でリード。守備の堅いイタリアのチームが3点リードしてしまったのでは、試合は終わったも同然。スタンドで、僕は「なんでこんなものを見に、わざわざ遠いイスタンブールまで来たのだろう?」と自問自答していた。
ところが、後半に入るとラファ・ベニテス監督のリヴァプールが反撃を開始。54分から60分までの間に3点を奪って同点に追いつき、PK戦の結果、リヴァプールが勝利したのだ。 短時間に3点を奪ったマンチェスター・シティ戦のリヴァプールを見て、僕はあの時のことを思い出さずにいられなかった。
リヴァプールのチャンピオンズリーグ優勝はこの時が最後となっているが(2年後には再び決勝に進出したが、アテネでの決勝ではミランがリベンジを果たした)、チャンピオンズリーグの優勝は(チャンピオンズカップ時代を含めて)5回。リヴァプールというチームは「カップ戦に強い」という印象がある。 勝負強さは、1959年から74年までこのクラブの監督を務めたビル・シャンクリーが植え付けた精神力、勝負への執着心、あるいは破壊的な攻撃力などによってもたらされるものなのだろう。
もちろん、そんな過去の記憶がピッチ上に何かの影響を与えるはずもない。2018年4月にアンフィールドのピッチ上でマンチェスター・シティを破壊したのは、サラーやフィルミーノ、そしてマネの攻撃ラインの力であり、またフルパワーを集中させるクロップ監督の指導力のおかげでしかない。
だが、多少安定性は欠いても破壊的な攻撃力を築き上げたという意味では、ユルゲン・クロップ監督のチームはリヴァプールの伝統を見事に受け継いでいるということは明らかだ。 ホームで3点差を付けたリヴァプールが優位に立ったことは間違いない事実だが、マンチェスター・シティの力をもってすれば3点差をひっくり返すことも可能だ。まだまだ、勝負は決着していない。セカンドレグも熱い試合になることだろう。
それにしても、セカンドレグ中5日。しかも、その中間の土曜日に、リヴァプールはエバートンとのマージーサイド・ダービーを迎え、マンチェスター・シティはユナイテッドとのマンチェスター・ダービーを戦わなくてはならないのだ。 移動距離こそ少ないにしても、なんという強行日程! どんなスケジュールであろうとも、ダービー・マッチで力を抜くわけにはいかず、ましてシティにとって、ダービー・マッチは優勝決定もかかっているのだから……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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