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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2023年12月06日

よく、「前乗り」「後乗り」と聞きますが、これについてメリットやデメリットなどを教えてください。

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栗村さん。はじめまして。よく、「前乗り」「後乗り」と聞きますが、これについて教えてください。ポジションを出すとき、膝の位置はペダル中心の垂直線上に合わせるものだと思っていますが、そうすると、「前乗り」「後乗り」の意味が分からなくなります。「前乗り」「後乗り」はこの合わせ方を無視してサドル位置を前へ、後へと合わせるということですか?こうすることで効率は悪くならないのでしょうか?メリットやデメリットなどありましたら教えてください。また、サドル位置に時代毎のトレンドみたいなものはありますか?ポジションは奥が深いですね。

(男性 会社員)

■栗村さんからの回答

栗村さん

サドル位置についてはさまざまな理論が現れては消えていきました。今はバイクフィッティングの精度が上がっていますから、その通りにすれば、少なくとも大きく失敗することはないでしょう。

「前乗り」「後乗り」はおっしゃる通り、サドル位置がセオリーよりも少し前や後ろに位置するポジションのことを指します。80年代〜90年代は後ろ乗りの時代でした。クリートを浅くしてサドルを後ろに引くポジションが効率が良いとされていました。ハンドル位置も遠かったですね。そして選手たちはこのポジションで重たいギアをペダルを後ろから前へ押し出すようにペダリングしていましたが、体を揺らして無理に重いギアを踏むので膝の故障などは多かったようです。

この後ろ乗りポジションにも当時なりの合理的な根拠がありました。80年代は今とは違ってフランスが科学的アプローチの最先端にいたのですが、そのフランスから広まったのが後ろ乗りだったんですね。当時のチャンピオン、ベルナール・イノーが所属するルノー・エルフというプロチーム(2010年代のスカイのような存在です)が当時の運動生理学などを駆使して導き出したのが後ろ乗りでした。フレームのシート角は72度と極端に寝ていて、更にそこからサドルをめいっぱい後ろへ引く後ろ乗りポジションです。イノーは上りではハンドルのフラット部分を持ち、重いギアで後ろから前に押し出すようにじわじわとペダリングをしていました。ちょうどボート競技のような感じです。今とは正反対ですが、軽いギアがなかった当時のバイク(42x21Tで大抵の山岳コースをこなしていました)ではこれが正解だったのかもしれません。

一方、アメリカを中心に流行りはじめていたトライアスロンでは、ロードレース界と逆行するように極端な前乗りが主流になっていきましたが、結果的には当時のトライアスロン界の主流が、特にタイムトライアル種目を中心に現代のロードレース界のスタンダードになってきたともいえます。

20230718TDF0032-A.S.O.jpgTTバイクで前乗りポジションをとるマチュ―

近年はパワーデータを見ながら効率の良いポジションを追求するやり方が主流になり、結果的にクリートを深くセットし、サドルを前に出し、ハンドル位置は近いポジションが増えました。これはギアがワイドになり、ハイケイデンスの走りが主流になった影響もありそうです。

また、フレームの素材が鉄からカーボンへと変わったこと、あとレース展開の変化もポジションに大きく関係していると思います。

効率やメリット/デメリットですが、一概に前乗りが正解とは言えないと思っています。ハイケイデンスで効率よく速く走りたいなら前乗りが有利なんでしょうが、のんびりとサイクリングを楽しみたい方は、昔ながらの後ろ乗りポジションの方が向いているかもしれません。旅用自転車のランドナーなども、昔から後ろ乗りの設計が多かったですから。

ちなみに、膝の位置について触れてらっしゃいますが、その「膝の位置」の測り方自体が変わってきていることをご存じでしょうか。当時のフランス式は膝の皿の骨の前から糸を垂らしていましたが、今は膝関節の中心を基準にするようになっていますよね。つまり、ここでも膝がちょっと前に出ているわけです。

もちろん、サドルに座る位置を変えることで、同じサドルポジションでも前乗りや後ろ乗りをある程度調整できますので、選手たちはシチュエーションに合わせて座る位置を変えていたりします。ですので、質問者さんも意識的に座る位置を前後させて自分の走りに合っている前後位置を探ってみると良いかもしれません。

このようにポジションについての理論は時代によって変わります。最先端のカーボンロードバイクで速く走りたいなら前乗り気味が正解だと思いますが、スポーツバイクの楽しみ方は色々です。時代のトレンドから外れたところにご自分にとっての正解を見出す方だっていると思いますよ。

文:栗村 修・佐藤 喬

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