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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引きずり込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。

栗村修の日常 2013年03月04日

新たな価値観へ

しゅ~くり~むら by 栗村 修
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現在、世界のロードレース界では様々な取り組みが模索されています。

その中の一つに 『World Series Cycling(WSC)』 プロジェクトと呼ばれているものがあります。

『オメガファルマ・クイックステップ』 のチームオーナーである ゼネク・バカラ氏 が提唱してきたもので、現在の 『UCI World Tour』 よりも更に商業的な部分に着目した興行性の高いスポーツイベントを目指したものとなっています。

先日、この WSC 構想に対して、世界的なメディア・コングロマリットである 『ニューズ・コーポレーション』 傘下の放送事業者 『BSkyB(British Sky Broadcasting)』 が興味を持っているとの報道がありました。

『BSkyB』 といえば、昨年ツール・ド・フランスを制した サー・ブラッドリー・ウィギンス が所属する Team SKY のメインスポンサーであり、その Team SKY 代表の サー・デイヴ・ブレールスフォード 氏が WSC 構想に対して以下の様なコメントを残していました。

『プロサイクリング界はチームや選手たちのための新しいビジネスモデルを構築していかなければならない。最高レベルのプロサイクリングリーグは、サッカーのプレミアリーグやアメリカの NBA、NFL のような商業的な要素を取り入れて運営していく必要がある。その新しいビジネスモデルには“放映権ビジネス”が含まれるべき。その他にも重要な要素がたくさんあり、それらのファクターをうまく統合して戦略的な計画を練らなければならない。これまでの自転車界の構造はビジネスモデルとして大きな欠陥があり、ただチームスポンサーが現れるのを待ち、そしてそのスポンサーは短時間で去っていってしまう。プロスポーツの世界に於いて“放映権ビジネス”は非常に重要な要素であり、それらがチーム運営と共にこのスポーツ全体をより安定的なものにする。』

自転車ロードレースというスポーツに関わる人たちというのは何故か 『現場脳』 の人たちが大半です。

日本については、そもそもこのスポーツ自体がまだビジネスとして成立していないこともあり、いわゆる 『デキル人たち』 に興味を持ってもらえず、長年 『ジプシーたちの溜まり場』 になってしまっているのはある意味で仕方がない部分でもあります。

しかし、本場のロードレース界というのは歴史も市場規模も決して小さいわけではないのに、なぜか長期間に渡って効果的な取り組みを放置してきました。

その原因の一つとして考えられるのが、レース主催者とチーム(選手)の 『日雇い労働形式』 でこのスポーツが発展してきたという歴史的側面なのでしょう。

現在、世界最高峰とされている 『UCI World Tour』 は、言ってみれば、既に世界に点在していたレースとチームを無理やり後付でまとめた 『ツギハギレースシリーズ』 です。

ですので、正直なところ 『UCI World Tour』 に対するステイタスは一向に向上していきませんし、各種の小競り合いが絶えないのも納得できます。

そりゃあそうですよね、本質的な意味では UCI が今のロードレース文化を創りあげたわけではないですし、後付のツギハギルールを設定しているだけではリスペクトされないのは当然ともいえます。

そして、これらは昨今のドーピング問題の一つの要因にもなっていると考えています。

現在の自転車界で大きな価値を持っているのはいくつかのメジャーレースです。

それらのレースに出場して勝つことで名誉と大金が手に入ります。

『バレなければ良いだろう』 と考えるのは泥棒や詐欺師の発想であり、いわゆる 『勝ち逃げ』 や 『一発屋』 などの発想を助長する構造がこれまでのロードレース文化そのものに含まれてしまっていたのだと思います。

今後、一つの巨大なリーグがコントロールする形で、『各レース主催者』、『チーム』、『選手』、『メディア』、その他関連事業が、一つのビッグバジェット(サー・ブレールスフォード氏が言う巨大放映権料の分配)下に置かれる状況となれば、皆が共通認識(利益)を持ったステークホルダーとなり、上記の泥棒的発想に対するアレルギーが急速に広がっていく気がします。

正直、このブログの記事を読んで心を踊らす関係者や選手が何人いるのかは疑問ですが、日本にも WSC 構想と同じような発想を持ち、水面下で行動を続けてきた(いる)人たちが極少数ですが存在しています。

世界のロードレース界に先じて、新しいビジネスモデルを日本で発表する日が来たなら、少なくとも僕自身は非常に心踊ります。

現役時代から 『強くなりたい』 という気持ちとともに、こんなことを考えていた自分はやはり変わり者だったのかもしれません。

しかし、こういった発想が 『変わり者』 と認識されているうちは、『ジプシー文化』 からの卒業もまずないと思われます。

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