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【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引きずり込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。
(c)Tour de Sun luis
今期、宇都宮ブリッツェンからキャノンデール・プロサイクリングへと移籍した増田成幸選手のファーストレースとなるツール・ド・サンルイスが1月21〜27日の1週間に渡って南米アルゼンチンで開催されています。
第6ステージを終えた時点での増田選手の各成績は以下の通り。
全7ステージ/出走176名
第1ステージ(平坦) 145位 トップと同タイム(サガンやアエドのためにレース序盤〜中盤メイン集団を牽引)
第2ステージ(平坦) 101位 トップと同タイム(アエドがレース後のテレビインタビューで増田選手のアシストを評価)
第3ステージ(山岳) 81位 8分42秒遅れ(レース序盤〜中盤チームメイトのサルミエントのためにメイン集団を牽引)
第4ステージ(TT19km) 103位 3分38秒遅れ(コンタドールから2分41秒遅れ)
第5ステージ(山岳) 112位 20分59秒遅れ(仕事内容不明/約70名のグルペット内でゴール)
第6ステージ(山岳) 42位 3分35秒遅れ(今大会最後の山頂ゴール/優勝はコンタドール)
第6ステージ終了時点での個人総合順位は68位
今回、増田選手が出場している南米最大規模のレースを個人的に注目していました。
丸2年間国内のみで活動してきた努力型の選手が果たして世界トップクラスの選手たちが集まるレースでどの程度通用するのか…
出場選手は、総合系がコンタドール、ニバリ、ヴァンガーデレン、ヴァンデンブロック、ホアキン・ロドリゲスなどのツール・ド・フランスで優勝争いをするような一流選手たちが多く集まり、スプリンターもサガン、カヴェンディッシュ、ペタッキ、フースホフトなどのこれまたツールのマイヨ・ベール候補の選手たちが多数揃っています。
いきなりこの様なレベルのレースに出場しても満足な仕事はこなせず、毎日グルペット内でのゴールを繰り返してしまうのか?と若干心配していましたが、ここまでのレースを見る限りでは、増田選手は十分にプロトンの中の一プロ選手としてレースを走れている印象です。
もちろん、1月のレースということでトッププロ達のコンディションやモチベーションはそれほど高くはないのでしょうが、環境がガラッと変わり全てが初めての経験かつオフの最中も各種準備などに追われていた増田選手にアドバンテージがある状況でもありません。
むしろ増田選手のコンディションは、トップフォームに比べてまだだいぶ低いレベルでしょう。
本格的なシーズンに突入しないと明確な判断というものはできませんが、ここまでの6ステージを見るだけでもある種の事実を得ることができます。
一つ言えることは、時代は変わりはじめており、本場へのアプローチ方法にも新しい選択肢が生まれつつあるということです。
最近よく使う言葉に 『順応』 というキーワードがあります。
ロードレースは世界各地で行われていますが、地域やカテゴリーによってその内容は大きく異なっています。
本当に才能がある選手というのは、どの地域のどのレベルで競技をはじめたとしても、出場するレースで勝利を積み重ねていき、最終的にはトップクラスのチームに辿り着くことができます。
しかし、今いる環境で勝利を挙げることができない選手というのは、自分が最終的に辿り着きたい場所にできるだけ早い時期に潜り込む手段を考えた方がむしろ良い様な気がします。
もちろん、最低限の知識と経験、そして心と体の準備ができていることが必須条件ではありますが。
日本のレース、アジアのレース、欧州の中堅レース。
勝ち上がれないのであれば、そこに居続ける理由は 『そこで走る価値があるから』 しか残りません。
残酷な言い方ですが、いくらその場所で経験だけを積んでもそれが直接 『ツール・ド・フランス』 に繋がるわけではないのです。
この様に考えていくと、本当の意味での指導者というのは、勝ち上がっていくための才能を持った選手を発掘する作業を行なった人、もしくは、プロ選手として最低限の仕事をこなせる能力はあるものの、自力では勝ち上がれない選手にトップクラスに順応するための環境と時間を用意した人ということになります。
ここ数年、海外のトップクラスのレースで実績を残してきた日本人選手は4名。
別府選手 発掘者=家族 環境提供者=浅田監督、家族、本人
新城選手 発掘者=福島兄弟 環境提供者=浅田監督、福島兄弟
土井選手 発掘者=学校? 環境提供者=シマノ(今西前監督)
宮澤選手 発掘者=本人? 環境提供者=本人、浅田監督、大門監督
環境提供者に関しては浅田監督の功績が大きいのがよくわかりますが、発掘者に関しては運任せであることが浮き彫りになっています。
現状に於ける海外挑戦での成功という定義を 『本場で活動するプロコン以上のチームに加入する』 というものに設定するならば、それに準じた 『発掘』 と 『順応』 に力を入れていく必要があるということでしょう。