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【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引きずり込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。
今年最後の更新となります。
2012年は宇都宮ブリッツェンにとって非常に素晴らしい年となりました。
しかし、これは一つの通過点に過ぎず、その位置は富士山に例えるとまだニ合目以下だと認識しています。
一方で、我々が 『将来の夢』 として意識している世界のレース界では大きな闇が一気に噴出しました。
自転車レースの世界を超越して、世界的なアスリートとして大きな実績を残してきた ランス・アームストロング のツール7連覇を含む主要タイトルの剥奪が決定したのです。
2002年スポーツ・イラストレイテッド誌の年間最優秀スポーツマン、2002、2003年AP通信年間最優秀男性アスリート、2003、2004年のESPNのESPY賞最優秀男性アスリート、2003年BBC年間最優秀スポーツ選手賞海外選手部門などを受賞し、文字通り世界最高峰のスポーツ選手として認められてきた ランス・アームストロング の1998年8月1日以降の全てのタイトルの剥奪が確定しました。
また、ランス・アームストロング の一件に関係する形で、UCI(国際自転車競技連合)がドーピング隠蔽に関わったのではないか?という憶測すら飛び出しています。
ランス・アームストロング同様に、USADA(全米反ドーピング機関)から永久追放勧告を受けたドクター・フェラーリの裁判に関わったロベルティ氏のコメントが印象的です。
彼は、本場の自転車レース界の状況は殆ど改善されていないと言い切っています。
『EPO Z』 だの、『AICAR』 だの、現在のドーピングコントロール技術では検出されない薬品が多数あり、それらがトップレーサーの一部で使用されているというのです。
また同時に、プロレベルだけではなく、ドーピングコントロールの緩いアマチュアや、更にはグランフォンドライダーの間でも色々な薬物使用が蔓延していると…
『世界を目指す』 ということがどういうことなのか、我々が世界挑戦を開始する前にハッキリさせなければならないと強く感じます。
私の知る限り、現在海外でレース活動を行なっている日本のチームのなかで、明確なアンチ・ドーピングポリシーや、チーム内にドーピングコントロールシステムを保有しているチームは皆無です。
これまでも何度かブログで書いてきたように、日本国内で活動している限りは禁止薬物の使用に踏み切る可能性は殆どありません。
これは日本が元々島国で、ヨーロッパなどに比べて医療行為に対する法律が厳しかったことも関係していると思います。
しかし、本場の文化に触れた日本人選手の一部が、これらに手を出さないという保証は一切ありません。
というよりも、本場に順応させていく過程で、日本側の指導者が明確かつ厳格なアンチ・ドーピングポリシーを強制しなければ、その選手たちがどういう行動をとるかは誰にもわからないのです。
現在、本場のプロチームの中には、厳格なアンチ・ドーピングプログラムを保有しているチームが数多くあります。
しかし、莫大な予算が必要となるため、これができるのは比較的大きなチームのみとなっています。
小規模のプロコンチネンタルチームや、そもそもバイオロジカルパスポートを持たなくて良いコンチネンタルチーム、更には星の数ほどあるクラブチームについては野放し状態と言っていい状況です。
この様な状況下で、日本の若い選手たちに安易に 『世界を目指せ』 というのは、あまりにも無責任だと感じる人は少なくないでしょう。
それは暗に 『本場には覚えなければならないことがたくさんあるんだよ』 ということを選手たちに伝えているようなものなのですから。
前出のロベルティ氏は、改善策としてこんな表現をしています。
『自転車界全体が世代交代し、文化そのものを刷新しなければならない。1980〜1990年代に本場で活動した選手や関係者は皆リスク要素を持っている』 と…
そして、名将といわれている リース監督 の名前を挙げ、『過去のドーピング使用を告白した人物がツール優勝のタイトルを剥奪されず、今もなお最高峰であるワールドツアーチームを運営していること自体がおかしい』 と厳しく指摘しています。
自転車という乗り物は、そもそも 『転倒リスク』 という他のスポーツ以上にケガをする可能性が高い要素を持っています。
『怪我をするリスクが高く、本場での活動の裏には薬物使用のリスクがある』
そんなスポーツに果たして未来はあるのでしょうか?
この現実から目をそらして、今後も自転車界でずっと仕事を続けていく勇気など私にはありません。
これらがある意味でキレイ事であるのは理解しています。
しかし、このままでは全てが縮小する方向へと向かっていくことになるでしょう。
現在国内にあるワークス系のトップチームもいずれ全て消滅します。
何故なら、社会という倫理観にも、経済という歯車にも、殆どタッチできていないからです。
2012年最後のブログは、完全にネガティブキャンペーンとなってしまいました。
ただし、いま行動を起こさなければ、我々に未来がないことは明白です。
自転車レースは、近い将来再びヨーロッパのローカルスポーツに戻ってしまうかもしれません。
そうならないためにも、なるべく早い時期に行動を起こす必要があるということなのです。
2日に1回更新ノルマではじめたこのブログも、なんとか3年が経過しました。
生きていると色々あるので、このノルマを守ること自体結構大変です…
あと何年走り続けることができるかはわかりませんが、その時が来るまではしっかりと前に進んでいきたいと思います。
今年も一年間大変お世話になりました。また来年もどぞよろしくお願いいたします。
それでは良い年末をお過ごしください。