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サイクル ロードレース コラム 2009年7月18日

【ツール・ド・フランス2009】第13ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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第1カテゴリー山頂の気温は9度。前日の気温35度・道路温度56度という酷暑が、なんだか幻だったかのような、季節外れの寒さがツールを襲った。しかも朝から冷たい雨が降りしきり、まるで「北のクラシック」のような悪天候だ。そして、まさに今年の春先にベルギーやイタリアのワンデークラシックで大暴れしたハインリッヒ・ハウッスラー(サーヴェロ テストチーム)が、ツールの舞台でも、高い実力を再現してみせた。しかも今回手に入れたのは2位ではなく……、念願の優勝だ!

スタートから3km地点でクリストフ・モロー(アグリテュベル)が仕掛けたアタックに、真っ先に反応したのがハウッスラーだった。今年のミラノ・サンレモとツール・デ・フランドルで2位に入り、3月末から4月序盤にかけて自転車界に話題を振りまいたハウッスラーは、複数の選手と共にハイスピードで逃げを試みた。

ところが、なかなか思い通りにエスケープは決まらない。逃げたい選手と、逃がしたくないプロトンの、タイム差はどこまで行っても30秒程度にしか広がらないまま。雨に濡れたアップダウンコースで延々と追いかけっこは続き、ステージ最初の1時間の走行時速はなんと47.5kmまで上がってしまった!確かに第12ステージも、序盤1時間は時速47.8kmの高速レースだった。しかし前日の空模様は文句のつけようがないほどの晴天、一方のこの日は、雨で路面が滑りやすく危険な状態だった。それにも関わらず、選手たちはとんでもない時速で走り続けたのだ。「ヤメテクレー」と別府史之(スキル・シマノ)が戦慄したのも当然だろう。

何度も加速を続けたハウッスラーは、ついに60km前後で、プロトンを振り切ることに成功する。シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)とルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)だけを引き連れて、95km地点では9分もの大量リードを奪った。第1カテゴリーの難関峠では少々のタイム差とペレスを、その下りではハンガーノックにやられたシャヴァネルを失ってしまうが、それでもハウッスラーだけはひたすらに1人で前進を続ける。

はるか後方のプロトン内でも、それぞれの戦いが繰り広げられていた。リナルド・ノチェンティーニ擁するアージェードゥゼール・ラ・モンディアルは、プロトン先頭でタイム差コントロールを必死に続ける。誰も協力してくれなかった前日に対して、幸いにもこの日はアスタナとチーム サクソバンクが進んでスピードアップに手を貸した。

また前日の逃げの友エゴイ・マルチネスデエステバン(エウスカルテル・エウスカディ)とフランコ・ペッリツォッティ(リクイガス)が、山岳ジャージを巡る激しいバトルを展開した。仲良く共に逃げた前ステージ終了時点で、2人のポイント差は17。この日最初の2級峠では赤玉を身にまとったマルチネスデエステバンが逃げ直後の4位通過を果たし、5位通過ペッリツォッティをさらに1ポイント突き放した。ところが続く1級峠ではペッリツォッティが4位通過で9ポイント獲得。苦しむマルチネスデエステバンはポイントさえ手にすることが出来ず。さらに畳み掛けるように、ペッリツォッティが最後の2級峠(ステージ最後の2・1・超級峠はポイント2倍!)で5位12ポイントを手に入れると、形勢は逆転。今ジロ3位のペッリツォッティが、3ポイント差で山岳賞ジャージを手に入れた。

たった1人の先頭選手に向かって、たった1人でアタックしていく選手たちもいた。2007年ツールで難関山岳ステージ単独勝利を決めたリーナス・ゲルデマン(チーム ミルラム)は、最初の2級峠からの下りを利用して飛び出した。同年のスーパー敢闘賞アメッツ・チュルーカ(エウスカルテル・エウスカディ)、さらに今ツール第7ステージで独走優勝したブリース・フェイユー(アグリテュベル)も、あえて孤独な戦いに打って出た。……残念ながらゲルデマンはメイン集団と共にゴールへ到着。チュルーカとフェイユーも決してハウッスラーを脅かすことは出来なかった。ただしフェイユーは今回のアタックで総合26位から20位へとジャンプアップ。プロ入り1年目ツール初出場にして目標をなんと「総合トップ10」に定める野心家は、前日体調不良でリタイアした兄ロマンのためにも、パリまで積極的に攻め続けてくれるに違いない。

降り続く冷たい雨の中、自宅ドイツ・フライブルグからわずか30kmほどしか離れていないゴール地コルマールへと、ハウッスラーは黙々と自転車を漕ぎ続けた。逃げ切りがほぼ確実になった後、最後の数キロは、落車のリスクを避けて慎重に走った。「これはツールなんだ。今度こそ絶対に失ってはならない。もう2番は嫌だ」と自分自身に言い聞かせながら。そしてフラムルージュを1人先頭で潜り抜けると、もはや感情のコントロールは聞かなくなってしまったようだ。自然に笑みがこぼれ、TVに投げキッスをしたかと思えば、ゴールライン通過と同時に顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。

メイン集団は6分43秒後に到着。パリの総合表彰台を争う選手たちは仲良く同時にゴールし、ノチェンティーニは7枚目のマイヨ・ジョーヌを手に入れた。驚くべきことにトル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)がスプリントで区間6位に入り、マイヨ・ヴェールをマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)から奪い取っている。


■ハインリッヒ・ハウッスラー(サーヴェロ テストチーム)
ステージ優勝

ゴールラインではあらゆる感情が爆発してしまった。だってツール・ド・フランスだよ!キャリアで一番ステキな勝利さ。それにボクはここから30km程度の場所に住んでいるんだ。今日のステージは、いわゆるボクのトレーニングコース。同じ道を何度も走ったことがある。だからこの地で勝てたことは本当に気分がいいね。おまけに雨と寒さは、ボクにとってはパーフェクトな天候なんだ。暑いのは大嫌い。それでも1級の山頂ではあまりに寒くて、凍えちゃったけど。

来年からはオーストラリア選手として走る。ボクの両親はドイツ人だし、ドイツで教育も受けてきた。自転車の本場はやはりヨーロッパだから、そのためにドイツに渡った。それにゲロルシュタイナーはドイツチームだったから、ボクはドイツ選手として走ったんだよ。でも今のサーヴェロは国際的なチームだし、別にボクの国籍なんて気にしていないんだ。それにボク自身は生まれ育ったオーストラリアのほうに、より母国として愛着を感じている。子供時代の思い出もあるし、友だちもたくさんいるからね。引退したらオーストラリアに帰るつもり。今回の勝利だって、オーストラリア人の勝利なんだ。


■リナルド・ノチェンティーニ(アージェードゥーゼール・ラ・モンディアル)
マイヨ・ジョーヌ

今日もまたハードな1日だった。だって昨日は30度を超える暑さだったのに、今日はこの雨と寒さ。酷い天気だったね。でもボクにとっては全てがうまく行ったんだ。総合本命たちの危険なアタックもなかったし、チームはまたしても素晴らしい仕事をなしとげてくれた。アスタナはプロトン前線に留まっていたけれど、特に加速も見せなかった。何の問題もなかった。

明日は地図を見る限り、ボクはマイヨ・ジョーヌを守りきれると考えている。出来れば日曜日の夜まで守りたいな。でも日曜日はヴェルビエへの山頂ゴールだ。有力選手たちのアタックにボクが耐え切れるとは思っていないし、マイヨ・ジョーヌを守り切る可能性はそれほど大きくないだろう。だってコンタドールとは6秒差、アームストロングとは8秒差。タイム差があまりに少なすぎるよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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