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サイクル ロードレース コラム 2009年7月19日

【ツール・ド・フランス2009】第14ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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喜びと、むなしさの、同居した1日だった。スタートから高速のアタック合戦が巻き起こり、12選手が大逃げの切符を勝ち取った。セルゲイ・イワノフ(チーム カチューシャ)が見事な独走勝利を決め、アージェードゥゼール・ラ・モンディアルのチームメイトの尽力により、リナルド・ノチェンティーニは8回目のマイヨ・ジョーヌ表彰台へ登った。一方で、多くのものを手に入れる可能性があったチーム コロンビア・ハイ ロードは、最終的には何も手に入れることが出来なかった。

14km地点から逃げ始めた選手たちの中には、マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)の姿があった。ところが同時に逃げ始めた他の選手たち、特にゲラルド・チオレック(チーム ミルラム)やダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)といったスプリンターたちは、すでに区間4勝を上げている選手の同伴を好まない。結局はカベンディッシュがひとりプロトンに後退。チームからはジョージ・ヒンカピーが前線に留まり続けた。

ランス・アームストロング(アスタナ)の7連覇を全て影で支え、今ツールではカベンディッシュの強力な牽引役を務める36歳大ベテランは、前ステージ終了時点で5分25秒遅れの総合28位につけていた。そしてステージの90km地点で逃げ集団と後続メイン集団とのタイム差が5分30秒に広がると、ヒンカピーは「ヴァーチャル」マイヨ・ジョーヌの座に立つ。本物のイエロージャージなら、2006年ツールで1日だけ着ている。それでも元ボスであり親友でもあるアームストロングは、ヒンカピーのマイヨ・ジョーヌを望んだ。ステージ後に書き込んだTwitterによれば、「我々チームは彼にジャージを取らせるため、控えめなテンポで走った」とのこと。おかげでタイム差は最大8分50秒を記録する。

集団前方でスピードコントロールを請け負ったアスタナは、何も美しき友情のためだけに仕事をしていたのではない。この先の戦いに向けた「計算」も含まれていた。アームストロングと少々緊張関係にあると噂されるアルベルト・コンタドール(アスタナ)でさえ、「ヒンカピーのジャージ獲りをアシストすれば、明日(第15ステージ)の山岳では彼の助けが期待できる予定だったのに」と語っている。

そもそもアージェードゥゼール・ラ・モンディアルは、ステージ前半は積極的にジャージを守りに行く態度を示さなかった。すでに7日連続で精一杯働いてきたチームに、もはや監督陣もこれ以上の仕事は求めなかったのだ。ところが選手たち自らが、もう1日、マイヨ・ジョーヌを守りに行くことを決意。そしてゴール前50km、再びアージェードゥゼール・ラ・モンディアルの選手たちは集団前方を引き始めた。

この状況を無線で聞いたせいなのか。直後の逃げ集団内ではヒンカピーがアタックを試みている。ただし勝利へのアタックを決めたのは、ヒンカピーではなくイワノフ。「ライバル選手たちをよく観察し、彼らが疲れを感じ始める、その瞬間を襲った」とゴール後に語ったように、ラスト11km地点で満を持して飛び出した。優勝した今年のアムステル・ゴールドレースでは背後の追走を感じながらカウベルグの激坂を駆け上がったが(後続との差はたった8秒!)、この日もイワノフの勝ちパターンは同じ。後ろから襲ってくる集団を背負いながら、しかしほとんど後ろを振り返ることなく、ゴールラインに単独先頭でたどり着いた。イワノフにとっては2001年ツール第9ステージに続く、8年ぶり2度目の区間勝利。今季設立されたチーム カチューシャにとっては、もちろん、ツール初勝利!

イワノフから16秒後にゴールへたどり着いたヒンカピーは、表彰台裏で、食い入るようにTV画面を見つめていた。アージェードゥゼール・ラ・モンディアルが必死に引く集団前方には、残り10km地点でガーミン・スリップストリームの選手が3人加わっている。つまりはマイヨ・ヴェール争いにおける危険人物タイラー・ファラーが、区間13番目(=マイヨ・ヴェール用ポイントも13ポイント付く)を狙って上がってきた。すると、さすがのカベンディッシュが黙っていられなくなったようだ。チーム コロンビア・ハイ ロード全体がプロトン前方のポジション取りに動き出し、さらに現マイヨ・ヴェールのトル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)と真剣にゴールスプリント合戦を行い……。カベンディッシュが後方集団のスプリントを制したシーンを見届けると、ヒンカピーは頭を両手で抱え、がっくりと肩を落とした。マイヨ・ジョーヌまで、わずかに5秒、足りなかったのだ。

アージェードゥゼール・ラ・モンディアルの選手たちが抱き合って喜ぶ脇で、追い討ちをかけるようにチーム コロンビア・ハイ ロードに悪いニュースが伝えられた。フースホフトをフェンス側へ押しのけたという理由で、カベンディッシュに降格処分が下された。区間順位は13位から154位へ陥落。手に入れられるはずだった13ポイントも失い、マイヨ・ヴェール争いではフースホフトに18ポイント遅れを取ってしまった。

またツール一行に、悲しいニュースが伝えられた。後続プロトン通過直前にルートを横切ろうとした61歳の女性が、先導の警察バイクにはねられて命を落とした。ツール観客の死亡事故は、2002年以来7年ぶりの悲劇だ。


■セルゲイ・イワノフ(チーム カチューシャ)ステージ優勝

逃げ集団の誰もが考えていたはずなんだ。誰かがアタックを仕掛けるに違いない、最後はハードなアタック合戦になるはずだ、とね。そして最初のアタックが起きた。誰もがこの瞬間を待っていたよ。もちろんボクもだ。それからボクはギャップを縮めに行って、注意深く時が熟すのを待ったんだ。集団内の選手たちが疲れを感じ始める瞬間を、脚に痛みを感じ始める瞬間を待った。そして、最高のタイミングでボクはアタックをかけた。今こそ「その時」だ、と感じたんだ。

猛烈なスピードで追っ手が迫って来ていることは分かっていた。だからボクは全てのエネルギーを尽くした。前に進むためにボクの100%を出したんだ。後ろは数回しか振り向かなかった。だって半秒さえも失いたくなかったからね!とにかく前に進んだ。目の前にあるゴールラインの存在が、ボクを奮い立たせてくれた。

アムステルゴールドレースで優勝してから、ボクは以前よりリラックスしているし、自信がついた。あの勝利のおかげで、自分にはレースを勝つ力があると分かったんだ。ベルギー一周やロシア選手権、そしてツールのステージを制することが出来たのは、あのときの勝利のおかげなのかもしれない。うん、きっとボクは少し変わったね。自分の力を信じられる男になったんだ。


■リナルド・ノチェンティーニ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)マイヨ・ジョーヌ

チームメイトに心から感謝したい。今日も彼らは大いなる仕事をしてくれた。実はゴール前45kmで、チーム監督のヴァンサン・ラヴニュが選手に決定権を委ねてくれたんだ。マイヨ・ジョーヌをあきらめるか、それとも守るために走るか、と。ボクもチームメイトに決定権を預けたよ。だって彼らはここまで、本当によく働いてくれたから。そしてチームメイトは、このマイヨを守るために走ることを選んでくれたんだ。感激だよ。

明日はボクにとって、間違いなく難しい1日になるだろう。最大限を尽くすつもりだけれど、このマイヨ・ジョーヌをゴールまで守りきれるかどうかは分からない。難しいだろうね。とにかくベストを尽くすだけさ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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