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サイクル ロードレース コラム 2009年7月27日

【ツール・ド・フランス2009】第21ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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前日に荒涼たる禿山のてっぺんで死力を尽くした選手たちが、下界へ戻ってきた。3週間前には180人だったプロトンは、156人にまで減っている。もちろん!我らが日本の2選手、新城幸也(Bbox ブイグ テレコム)と別府史之(スキル・シマノ)も、最終日ゴール地パリ・シャンゼリゼへ向かって走り出した。

ステージ前半は、最終日おなじみのリラックスした風景が続く。シャンパンで乾杯、記念撮影、仲良し選手たちのおしゃべり……。マイヨ・ジョーヌ争いという肉体的な戦いに加えて、チーム内の覇権争いという精神的な戦いを勝ち取ったアルベルト・コンタドール(アスタナ)にも、心からの笑顔を取り戻していた。2年前のツールではライバルたちの相次ぐ大会追放という予想外の展開でマイヨ・ジョーヌが手元に転がってきたが、2009年は正真正銘のチャンピオンにふさわしい走りを見せての圧巻たる総合優勝。山頂フィニッシュ1勝、個人タイムトライアル1勝。チーム内の権力もアシストもほぼ全てランス・アームストロングに奪い取られている状況下にも関わらず、あらゆる難関山岳ステージで自らの絶対的優位を証明してみせた。しかも27歳の「ボス」は、2008年ジロ、2008年ブエルタと合わせて早くもグランツール4勝目。ツール7連覇のアームストロングが初めてツールを勝ち取ったのが27歳だから、「コンタドールはツール8勝に手が届くのでは!?」なんていう気の早い声さえ飛び出している。

もちろん、コンタドールに先を越される前に、来年2010年、アームストロングが自らの手で8勝目を取りに行く。2009年、37歳の挑戦は総合3位という結果に終わった。「7回の優勝を果たしたときと同じように自分の走りに満足しているし、何の悔いもない」と嘯いているが、王座を剥奪された大チャンピオンはリベンジに燃えているはずだ。そして新旧チャンピオンを擁するアスタナトレインが、先頭で栄光のシャンゼリゼ大通へと走り込んでいった。

1回目のゴールラインを越えた直後、脚をうずうずさせて待っていた選手たちが、今大会最後のアタックへと飛び出した。第2ステージのモナコでツール最初のアタックを打ったサミュエル・ドゥムラン(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)が、この日のシャンゼリゼでも最初のアタッカーとなった。そこにすかさず続いたのが……別府史之!「後ろを振り向いたら、決まっちゃった!やっちゃった!という感じ」という別府の後にさらに6選手が続くと、8人が世界一華やかな大通りで逃げ集団を作り上げた。

例年シャンゼリゼは、むしろアタック合戦で彩られる。飛び出しては吸収され、またアタックしては合流し、こうして集団はスピードを上げていく。ところが今年は、この8人が沿道に詰め掛けた観客の視線を長い間独占し続けた。2周回目、3周回目、4周回目……レースコメンテーターでおなじみのダニエル・マンジャス氏の「フミユキベップが逃げています」の声が幾度もシャンゼリゼに鳴り響いた。5周回目、6周回目、7周回目……、ツールを生中継している世界168国の自転車ファンが彼らの走りを見守った。そして最終周回、ゴールまでわずか残り5.5kmのところで8人の、別府の逃げは終わった。

しかし!世界中の目を釘付けにし、日本中のファンを絶叫させ、なにより本人が「興奮した!」最終日シャンゼリゼでの逃げで、別府史之は敢闘賞を手に入れた。敢闘賞とはツール5勝ベルナール・イノー、元世界チャンピオンのローラン・ジャラベール、そして「大逃げ」がトレードマークのジャッキー・デュランなど8人の審判員の投票により、「ステージを最も盛り上げ、最も勇敢な走りを見せた選手」に与えられる賞である。そして全精力を振り絞り、日本人選手として初めての「賞」を手に入れた別府は、静かに後方でゴールラインを越えた。

その前方では、最後の大集団ゴールスプリントへ向けて熾烈なポジション取りが繰り広げられていた。ガーミン・スリップストリーム、チーム ミルラムが前線へ勢力を送り込み、トマ・ヴォクレールや新城幸也が引っ張るブイグトレインも形作られた。ただし、いつも通りにパーフェクトな動きを見せ続けたのはチーム コロンビア・ハイ ロードの隊列。そしてコンコルド広場を抜けるころ、高速アシストたちの背後でタイミングを伺っていたマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)がひとり飛び出すと、シャンゼリゼでの栄光を手に入れた。2009年ツール・ド・フランスの平地ステージをことごとく独占して、今大会通算6勝目。……それでもキング・オブ・スプリンターの証は手に入らなかった。平地だけでなく、難関山岳でもポイント獲得に意地を見せたトル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)が、10ポイント差でマイヨ・ヴェールを死守している。

全てが終わった脱力感と開放感に包まれたシャンゼリゼの石畳の上を、3週間の戦いを終えた選手たちがパレードする。長く暑かった7月に別れを告げるように、観客にゆっくりと手を振りながら。そこには、日本人選手2人の爽快な笑顔もあった。


●マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)
ステージ優勝

魔法のような瞬間だよ。ツール・ド・フランス最終日のシャンゼリゼ優勝は、全てのスプリンターにとっての夢なんだ。凱旋門を見つめながら先頭でゴールラインを越えられるなんて、なんだかとんでもなく凄いこと。今日勝てなかったら、かなりがっかりしていただろうね。チームがまたしても素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。ボクの周りを囲むのは、スプリントに導くスペシャリストたちさ。彼らがあんまりにも完璧な仕事をするものだから、実はプレッシャーもかかる。ボクにはステージ優勝しなきゃならない義務があるのさ。

今ツールの第1目標は完走することだった。マイヨ・ヴェールを途中で何度か着たけれど、最後まで守りきることはできなかったね。でもステージ6勝もして、しかも最終シャンゼリゼで勝てたんだから、がっかりなんかしていられない。今年はマイヨ・ヴェールを本当の意味で争っていた選手が2人しかいなかった。これはちょっと特殊な状況だったね。でもこの先、ジャージ獲りのために自分が何をすべきなのか分かっている。3週間にわたってポイント獲りに奔走できるほど、ボクはまだ肉体的に強くない。だから今後は持久力を高めるトレーニングを積む必要があるね。フースホフトはあらゆる地形のステージでポイントが取れる選手だ。ボクにはまだそこまでの力はない。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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