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サイクル ロードレース コラム 2010年7月18日

【ツール・ド・フランス2010】第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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大会3度目のロングエスケープに乗ったシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)の右手首には、青いリボンが巻かれていた。「できるだけ前に飛び出して、このリボンを皆さんに見ていただきたい」とスタート地で予告してのアタック。実はスタート前に複数の選手に配られたこの青いリボンは、それは200日前からアフガニスタンで人質になっているフランス人ジャーナリスト解放を訴えるシンボルだった。ツール開催委員会もVIPカーに記者の写真を張り、解放運動への連帯をアピールした。ただし「残念ながら勝てなかったけれど」と、大会3勝目を逃したシャヴァネルはゴール後に語った。

シャヴァネルはスタートから4km地点で、ピエリック・フェドリゴ(Bbox ブイグ テレコム)とアントニオ・フレチャ(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)を伴って飛び出した。前夜の雨で気温が大幅に下がり、この日は快適なレース日和となった。背後ではチーム サクソバンクが静かにコントロールを行い、これまでツールで計6勝を上げている前の3人(シャヴァネル3勝、フェドリゴ2勝、フレチャ1勝)も淡々と逃げを続ける。50km地点でタイム差は5分まで広がった。

ここで後方のコントロール権が、スプリンターチームの手に渡った。まずは前日アレッサンドロ・ペタッキのマイヨ・ヴェールを失ったランプレ・ファルネーゼヴィーニが加速に取りかかる。アダム・ハンセン(第2ステージ途中棄権)とマーク・レンショー(第12ステージ後に除外処分)を欠くチームHTC・コロンビアは「もはや無理にはプロトン前線で隊列を組まない」(byアルダグ監督)と宣言していたのにも関わらず、やはり厳しいスピード制御を始めた。つまり逃げ集団の3人はこれ以上のタイム差を許されず、じわじわと両集団の距離は縮まっていく。

ところでスタート前にBbox ブイグ テレコム監督のディディエ・ルスは、こんな風にレース展開を予想していた。「タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)もリタイアしたし、コロンビアが2枚足りない。しかもゴール直前に峠がある。スプリンターたちは苦しめられるはずだ。だからエスケープは最後まで行く可能性があるし、もしくは最終峠でアタックが決まるのではないか」。ただしタイム差が5分以上に開かなくなった状況を見て、フェドリゴは「ああ、やっぱりスプリンターチームが動き出した。このリズムだと逃げ切りは難しいな」とすぐに理解したと言う。この読み通りに、残り10kmで逃げの3人は吸収された。……ならば次のオプションは、最終峠でのアタックである。

ゴール前7.5kmに立ちはだかる3級サン・フェレオル峠で、戦いの火蓋を切ったのはアレッサンドロ・バッラン(BMCレーシングチーム)だった。上りを利用して2008年世界チャンピオンが力強いアタック。一気に前方へと飛び出した。さらにルイス・レオン・サンチェス(ケースデパーニュ)など数選手が続く。そして山頂で猛加速し、下りの勢いを利用して一気に最前線へ出たのはアレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)だ!

フランスチャンピオンジャージのトマ・ヴォクレール(Bbox ブイグ テレコム)も下りで果敢な攻めを見せ、プロトン屈指のダウンヒラー、LLサンチェスとサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)がメイン集団を引っ張るが、わずか十数秒のタイム差を縮めることはできない。ラスト3kmの平坦ではチーム・ミルラムが必死に引くも、タイムトライアル巧者のヴィノを追い詰めることは不可能だった。「体は疲れていたけれど、頭は疲れていなかったんだ」と、揺るがぬ闘志でヴィノクロフがゴールラインまで13秒差を守りきった。

2005年シャンゼリゼ勝利以来となる区間4勝目。……いや、ヴィノクロフが天に両手を突き上げたのは、正確に記せば2007年ツール第15ステージ以来となる。ご存知の通り、その翌日に血液ドーピングが発覚し、アスタナのチームごと大会を追われた。そのせいで翌年2008年はアルベルト・コンタドールを擁するアスタナがツールから締め出しを喰らっている。本人は2年間の出場停止処分中に現役引退も口にしたが、ツールへの強い想いを胸に厳しいトレーニングを続けてきたのだった。復帰後の初ビッグタイトルとなった今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは、ゴールラインに飛び込んできたヴィノクロフには厳しいブーイングが投げかけられた。今回もさすがに満場一致の拍手喝采とまではいかなかったものの——小さなブーイングもあちこちで聞こえてきたが——、ツール関係者やファンたちから復活勝利を暖かく祝う声が聞かれた。

ちなみに前日エスケープに乗りながらもゴール前わずか1.7kmで優勝の望みを絶たれたヴィノクロフは、ゴール後、ハンドルを叩いて悔しがっていた。面白いことに、この日は歓喜のポーズでフィニッシュラインを超えた後、ハンドルを叩いてこらえきれない嬉しさを爆発させた。さらにリーダーのコンタドールと抱き合って喜びを分かち合う。前ステージ最終盤のいきさつで意地悪なメディアからは確執もささやかれたが……「前夜、2人の間に緊張感なんかなかったよ。ただヴィノクロフは自分に勝つ力がなかったことにフラストレーションを抱えていただけ。選手なら当然の感情だ。でもこの勝利で全ての気持ちが前向きに解放されるはずだ」(アスタナ現場責任者エディ・セニュール)。ヴィノクロフ本人も、この先は100%コンタドールのために尽くすと語っている。

13秒遅れでたどり着いたメイン集団では、2位争い=マイヨ・ヴェール争いのスプリントが行われた。最終アシストのいないマーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)が戦いを制し、区間3位のペタッキが1日で緑色のジャージを取り戻した。ポイント賞ランキングは首位ペタッキ187p、2位トル・フースホフト(サーベロテストチーム)185p、3位カヴェンディッシュ162pと未だに先が読めない大接戦状態だ。残るゴールスプリントチャンスは第18ステージと最終20ステージのわずか2回だけ。

つまりそれ以外の5日間は、全てマイヨ・ジョーヌ争いに費やされる。そう、翌ステージからいよいよツール一行はピレネー決戦へと突入する。現在総合首位のアンディ・シュレクはピレネー4日間(第14〜17ステージ)の初日からすでに「強豪間で激しくタイム差がつくだろう」と武者震い。最大のライバルとなるはずのコンタドールは、その第14ステージについて以下のように分析する。「最初の峠、パイエールは非常に厳しい。勾配がきつく、下りはスピードが出る。アクス-トロワ・ドメーヌの上りは短いが厳しい。かなりのタイム差がつくはずだ」。


●アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)
区間勝利

昨日のロングエスケープで確かに体は疲れていたが、頭は疲れていなかったよ。最後の峠のことはよく知っていたから、トライする可能性があると思っていたんだ。バッランが飛び出したから「OK、いけるぞ」とボクも動いた。

美しい勝利だ。アマチュア時代に、ツールの区間は毎日が世界選手権のようなものなんだ、とよく聞かされていた。だからツールの区間勝利というのは本当に大きな勝ちなんだ。昨日の努力が、今日の勝利で報われた。それに友達、家族、そして昨日のステージでがっかりしたであろうカザフスタンの人々も喜んでいると思う。コンタドールも喜んでくれた。昨日は2人とも勝利を逃してしまって、ずいぶんがっかりしていたんだ。だから今日の勝利でチームのモチベーションは大いに上がったと思う。ピレネーに立ち向かうため、マイヨ・ジョーヌ獲りに立ち向かうためのモチベーションがね。

ツールに出場できただけで、ボクにとってはすでに大勝利だった。さらに本物の勝利を取ることができたなんて、本当に幸せだよ。沿道の観客は昨日も今日もボクを応援してくれた。ヴィノ!ヴィノ!と声をかけてくれた。それがボクの背中を押してくれたんだ。

今日がおそらく区間勝利をとれる最後のチャンスだったのかもしれないね。この先の山岳では100%リーダーのコンタドールのために尽くすから、区間を獲りに行くのはほぼ不可能だろう。まずはポーまでの3日間、マイヨ獲りに集中する。ボクにはそのための脚がある。チームにはモラルがある。ああ、そうそう、まだシャンゼリゼでの区間勝利の可能性もあるよね!


●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ

昨日はずいぶん難しい1日だったから、今日のチームはなるべく働かないようにしたんだ。幸いにもスタート直後にアタックが決まって、20km過ぎからスプリンターチームがしっかりとコントロールしてくれたからね。ボクらにとってはお休みのようなものだった。

でも間違いなく、明日は緊張する1日になるだろう。すでにボクも少しナーバスな気分になっている。もちろん自信はある。チームもいい仕事をしているし、ボクの体調も良い。前線で戦うことができるだろう。でもピレネー初日だから、やっぱり少し緊張するんだよ。非常に大切なステージなんだから当然さ。ツールが最終週、つまり決定的な週に突入するんだからね。コンタドールも緊張しているんじゃないかな。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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