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サイクル ロードレース コラム 2010年7月19日

【ツール・ド・フランス2010】第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ツール通過100周年記念を祝うピレネー4連戦の初日。「超級パイエール峠でアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)がアタックを仕掛けるに違いない」と多くの関係者が予想していた。ところが予想は完全に覆される。しかもパイエール峠ではアスタナが高速で牽引し続けたこと、2008年ツール王者カルロス・サストレ(サーベロテストチーム)の飛び出しが見られたこと以外(最終峠でメイン集団に吸収される)、特別な動きは見られなかった。その後の1級アクス・トロワ・ドメーヌへの上りではようやく戦いが勃発しかけるも……、奇妙な終わりが待っていた。

ゴール後のシュレクは「今日は仕掛けず、コンタドールの後輪に張り付いてくことに決めていたのさ」とさらりと言い放ったではないか!「精神的にはボクのほうが有利だね」と語っていたコンタドールの自信を逆手にとって、シュレクが心理戦を挑みかけたのだ。「危険なゲームだったって?でも3位以下とのタイム差は十分に開いていたから、ボクにはゲームを楽しむ余裕があったのさ。ツールを勝つためには、リスクをあえて冒すことだって必要だ。ボクはツールを勝ちたい」

心理戦のおかげで形に残る利益を得たのは4選手。1人目はもちろん、区間勝利を手に入れたクリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)だ。スタート2kmで逃げ始めた3選手を、20km地点から他の5選手と共に追走をかけた。首尾よく合流を果たすと、9人で協力し合ってプロトンに最大10分程度のタイム差をつける。そしてパイエールの山頂間際で単独先頭に立ち、ゴールまでの30km以上に渡って険しい山道をたった1人で切り開いた。「最後の1kmまで『勝った』と思い込まないように、『ボクは勝つんだ』と自分自身に言い聞かせた」とゴール後に語ったリブロンは、ラスト1kmでは何度もガッツポーズを見せ、抑えてきた喜びを爆発させた。トラック競技では世界選手権で2つの銀メダルを獲得してきたが(2008年ポイントレース、2010年マジソン)、ロードにおいてもついにビッグタイトルを手に入れた。

2人目は山岳賞ポイントをわずかながら増やしたアントニー・シャルトー(Bbox ブイグ テレコム)。パイエール峠で激風が吹き荒れなかったおかげで、うまくメイン集団から飛び出すことができた。「まだポイントが残っていると分かっていたから、集団内ではよく食べて、よく飲んで、体力を残しておいたんだ」と赤玉ジャージも板についてきたシャルトー。8ポイントを加算して、2位ジェローム・ピノー(クイックステップ)との差を13pへと開いた。

残る2選手はデニス・メンショフ(ラボバンク)とサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)。区間優勝したリブロン以外の全ての選手——特に総合5位以下の選手——から、14秒を奪い取ったのだ。アンディvsコンタがにらみ合っている隙に、残り2.5kmでメンショフが猛加速。サンチェスも後に続いた。その結果、サンチェスは総合首位から2分31秒差、メンショフは2分44秒差へとほんの少しだけタイムを縮めた。……いや、むしろ5位ユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)とのタイム差をサンチェスは1分に、メンチョフは47秒に広げ、総合3位争いで優位に立ったと言ったほうが正しいだろう。なにしろシュレクとコンタドールの2人以外は、もはやマイヨ・ジョーヌ争いをほぼ諦めざるを得ない状況である。現実的な狙いは、未だ行方が決まっていない総合3位の座なのだ!

肝心のアンディvsコンタの心理ゲームは、実は、コンタドールが先に仕掛けたものだったようだ。パイエールでアスタナ山岳アシストが強烈に引き始めた時だった。「アスタナは前を引いているのに、コンタドールが集団の後方に沈んでいたね。あれは『コンタドールは調子が悪い』と思わせるためのブラフだったのさ。コンタドールの不調を信じ込ませて、ボクがアタックをかけるように仕向けたかったんだと思う」とアンディ・シュレクは分析する。

ならば、とシュレクは徹底的にコンタドールの後輪についた。ゴール前6kmでアレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)が猛加速し、多くの表彰台候補を引きちぎったときも、シュレクはただコンタドールの背中だけを見つめ続けた。いよいよ痺れを切らしたコンタドールが、残り5kmから2回のアタックを打ったときには、まるで糸でつながれているかのように迷わず後を追った。もちろんコンタドールが蛇行してスピードを落とし、一方でメンショフを筆頭とする強豪たちが加速を切ったときも、アンディ・シュレクはライバルと運命を共にした。なにしろメンショフやサンチェスとのタイム差は約2分半。シュレクにとっては恐れるべき数字ではなかったし、恐れるべきライバルでもなかったのだ。そして2人のピレネー第1日目はニュートラルなままで終了した。両者のタイム差は前日と変わらず31秒差。

ゴール後、チーム サクソバンクとアスタナの両陣営の雰囲気は対照的だった。「奴ら心理戦を挑んできやがって」とアスタナのマルティネッリ監督は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。一方でサクソバンクのリースは、たくさんのジャーナリストに質問攻めにあいながらも、笑いながらのらりくらりと答えをはぐらかすだけ。2010年ツールのマイヨ・ジョーヌの最終的な行方は未だ不明だが、とにかく、第14ステージの心理戦勝者はサクソバンクとアンディ・シュレクだった。「言っておくけれど、このタイム差ならタイムトライアルでボクが有利なんだよ」。2009年ツール覇者コンタドールは再び自らの優位性をアピールすることを忘れない。


●クリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)
区間勝利

無線は「よし、よし、勝ったぞ!」と連呼していたけれど、ボク自身は最後の1kmまで「勝った」と思い込まないようにしていた。「ボクは勝つんだ」と自分自身に言い聞かせるようにした。だって後ろの状況を考えると、何が起こるか分からなかったから。もちろん、チームカーがボクの後ろにいるということは、タイム差が十分に開いているという意味だったんだけど……。とにかく「勝った」と決め付けることは、最後の1km地点まで自分に禁じたんだ。

昨日は少し落ち込んでいた。ツール前の目標は総合上位だったのに、序盤2週間でまったく思い通りの走りが出来なかった。この2、3日は気分的に辛かった。こんなツールにするつもりなんてなかった、前線でも争えない、区間勝利も取れないツールなんて嫌だった。でもゼネラルマネージャーのラヴニュが、昨夜、ボクのモチベーションを上げてくれた。お前は大会3週目にこそ力を発揮できる男だ、とね。彼はボクを信じて励ましてくれたんだ。

6歳の頃からツールを見始めた。そしてその頃からプロで大キャリアを打ち立てるという夢を抱いたんだ。今のボクには大キャリアはさすがに不可能だけれど、決して恥ずかしくないキャリアを少しずつ築き上げていると自負しているよ。


●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ

確かにボクはリラックスしていたけれど、イージーに走っていたわけじゃないんだ。内心はすごくナーバスなんだよ。マイヨ・ジョーヌを着て走るというのは、すごく難しいんだ。プレッシャーも感じる。でもボクはプレッシャーで潰れてしまうような人間じゃない。

パイエールでアスタナが引き始めたときも、ヴィノクロフが加速をしたときも、ボクらは彼らのすぐ側にいたんだ。だから彼らが何をしたいのか良く分かっていた。彼らはボクがアタックを打つよう仕向けたかったんだ。コンタドールの調子が良くない、今こそが攻め時だ、と思い込ませようとしていたんだね。でもボクには十分な経験があったから、アスタナの意図くらいすぐに見抜けたさ。

もちろんメンショフは危険人物だ。でも今のところ、メンショフもサンチェスも2分半ほどのタイム差がついている。だからボクにとってはゲームをする時間が十分にあったんだ。ツールのようなレースを勝ち取ろうと思ったら、リスクをあえて冒さなくてはならないときがある。ボクはツールを勝ちたいんだ。だから今日の作戦に出た。明日はまた別の日だ。別の戦いが繰り広げられるだろう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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