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サイクル ロードレース コラム 2011年5月15日

【ジロ・デ・イタリア2011】第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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イタリアの複数のオンラインベッティングサイトでは、1番人気がアレッサンドロ・ペタッキ、2番人気がマーク・カヴェンディッシュとなっていた。またジロではジャーナリストたちの予想投票を受け付けているが、ガゼッタ・デッロ・スポルトの主任記者はカヴェンディッシュを優勝候補に上げたという。……つまり第8ステージは集団スプリントゴールで締めくくられるだろうと、ほとんどの人間が予想していたのだ。しかし実際は、ゴール前1.95km地点でプロトンを待ち構えていた650mの上り坂が、あらゆる予想をひっくり返してしまった!

2011年ジロには、データ上では、たった5回しか集団ゴールスプリントのチャンスがない。この第8ステージはそのうちの3回目。「どうしても5つのうち1つは勝つ。今年は3大ツールの全てで最低1勝したいから」と開幕前に語っていたカヴェンディッシュは、未だにその1勝が上げられていない。だからどうしても、休養日前最後のチャンスとなるこのステージで勝って、心静かに残された日々を満喫したかったはずだった。2km地点でレオナルド・ジョルダーニとミルコ・セルヴァッジというイタリア人2選手が飛び出し、リードが最大11分差まで広がると、HTC・ハイロードはプロトンの前の方で静かに準備を始めた。そしてタイミングのよい吸収と集団ゴールを目指して、美しい海岸線を横目に、チーム全体でスピードコントロールに取り掛かった。

幸いにもラボバンクが、マリア・ローザのピーター・ウェーニングのために牽引の一部を担ってくれた。さらにはフランチェスコ・キッキとゲラルド・チオレックという実力派スプリンターを抱えるクイックステップも、途中から熱心に協力してくれた。さらにはタイム差が1分半ほどに縮まったラスト15km、なんとサクソバンクさえも前方ポジションでスピードアップを始めた。この珍しい光景を前にしたとき、きっと落車や分断のリスクからリーダーのアルベルト・コンタドールを守るために違いない、と誰もが考えていたのだが……。とにかく複数チームの尽力したおかげで、ゴールまで7.5kmを残した地点で、ジョルダーニとセルヴァッジの逃げは静かに終了した。

ラスト3kmに突入すると、突然、道幅がひどく狭くなった。しかも急カーブが連続で登場。必然的にプロトンは縦に長く長くのび、チーム単位でのきっちりしたトレイン作りは難しい状況に追い込まれた。それでもHTC・ハイロードは、エーススプリンターを引き連れて、集団前方を死守しようと試みていた。カヴェンディッシュの姿も、確かに、前方で見られた。

ただし前述した上り坂で、HTCのあらゆる努力を一瞬で無に帰すような、2つのアタックが発生する。それはまた、ファルネーゼヴィーニとサクソバンクの仕事が美しく実を結んだ瞬間でもあった。最初に飛び出しを決めたのはオスカル・ガット。チームメートのジョルダーニが逃げに乗ってくれたおかげで、他チームのように追走作業に加わる必要がなかった。つまり余計なエネルギーを使わずに済み、坂道で爆発的な加速を切る体力が十分に残っていたのだ。

ガットは常々「登れるスプリンター」と評判が高く、第5ステージの「白い道」起伏コースでも区間5位に入っている。しかも2011年1月末には、今ステージの舞台となったカラブリア地方で行われるレース、ジロ・デッラ・プロヴィンチャ・ディ・レッジョ・カラブリアの第2ステージ——まさにこの日のゴール地トロペアへと続くヘアピンカーブを通過して、30kmほど先でゴールするステージ——での集団スプリントを制していたのだ。体力も、脚質も、地の利もあった。そしてインスピレーションの赴くままにアタックを決めると、イタリア半島のブーツのつま先でグランツール初めての勝利を手に入れた。

さて、ラストの上り坂で2番目にアタックを仕掛けたのは、ほかでもない、アルベルト・コンタドールだった。一瞬だけ勾配が8.5%以上に跳ね上がる付近に差し掛かると、まるで難関山岳の重要な勝負どころで見せるような、強烈な加速を行った。トレードマークの軽快なダンシングスタイルで。それは前を行くガットの活躍がついつい霞んでしまうほどの、とんでもなく大きなサプライズだった。

ただし驚いたのはあくまでライバルやメディア、ファンたちだけであり、コンタドールとサクソバンクにとっては「予定通り」の行動だったとのこと。「今日のアタックは偶然ではない。あの坂道で仕掛けようと、あらかじめ考えていたんだよ」。そして残念ながら区間勝利こそ逃したものの、後続集団を5秒引き離すことに成功し、さらには区間2位のボーナスタイム12秒も獲得した。「昨日はスカルポーニが強いところを見せつけた。今日はボクが、自分にできることを見せつけたんだ」と、第7ステージでやはり12秒のボーナスタイムを懐に入れたスカルポーニと、その他たくさんの総合ライバルたちに、グランツール5勝王者の恐ろしさを改めて認識させた。「まあライバルたちにどれほどの痛手を喰らわすことができたのか分からないけれど」と語るコンタドールだが、この日回収した17秒のおかげで、総合首位ウェーニングから13秒差の総合5位へと順位を上げた。最終マリア・ローザを狙う選手の中だけなら、2008年ジロ王者は、早くも総合トップだ。

そして、ヒルクライムに強い現役最強オールラウンダー、ときには「山頂でスプリントができるヒルクライマー」とも呼ばれるコンタドールの後ろで、ひっそりと集団ゴールスプリントが執り行われた。スプリントを制し、区間3位に入ったのは、区間1番人気のペタッキだった。ポイント収集には興味を持たないカヴェンディッシュは、自分にとって意味のないスプリントにはまるで加わろうともしなかった。


●オスカル・ガット(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットーリ)
区間勝利

ボクはスプリンターだけど、軽い上り坂で非常にテクニカルな、今日のようなラストが好きなんだ。最後の上りではすごく調子が良かったんだ。だから直感的にアタックをかけた。飛び出してからフィニッシュラインまで、ぼくは4回後ろを振り返った。最初に振り返ったときは、誰も見えなかった。2度目に振り返ったときに、サクソバンクの選手が見えた。もしかしたらコンタドールかもしれない、とは思ったけれど、でも、やっぱり本当に彼なのかどうか信じれなかったよ。とにかく「ただ前に進め、後ろにいるやつのことを考えるな」って自分に言い聞かせて走り続けた。そしてフィニッシュライン直前に振り返ったときに、ようやく自分の勝ちを確信したんだ。ジロで勝てただけでも素晴らしいことけれど、コンタドールを破って手にいれた勝利なんだから、よりいっそう素晴らしいね!

●ピーター・ウェーニング(ラボバンク)
マリア・ローザ

今日はボクにとってもチームにとっても簡単な1日だった。唯一、フィニッシュ間近だけが厳しかったね。プロトン前線にたくさんのクライマーがいたから、ボクも前に留まり続けなければならなかった。下手をすれば大きなタイム差がつきかねなかったんだから。ボクは脚の調子がまだまだいい。エトナへの登坂ではどう動けるか見ていこう。そして明日の夕方に、まだマリア・ローザを守ることができていたら、もちろん、この先の目標は変わってくる。とにかく明日はボクにとって非常に大切な1日だ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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