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サイクル ロードレース コラム 2011年5月21日

【ジロ・デ・イタリア2011】第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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5日前には誰もがこんなふうに危惧を抱いた。エトナでジロが始まり、そして終わったのだ、と。シチリアの火山で見られた構図は、オーストリアのチロル一帯でも再現されてしまった。恐れはさらに強まっている。小さなヴェネズエラのヒルクライマーと、痩せたスペインのオールラウンダーの併走シーンこそが、2011年ジロ・デ・イタリアを象徴するイメージとなってしまうのだろうか。

ドロミティ3連戦は恐ろしいだけでなく、選手たちのモチベーションもかき立てる。山頂フィニッシュを獲るためにはスタート直後からロングエスケープを仕掛けるしかない、そんな決意を胸にした多くの勇者たちが、猛スピードで飛び出し合戦を繰り広げた。そして41km過ぎに出来上がったのが、大量16人の逃げ集団。これだけの人数が一致団結しあって協力すれば、さらにメイン集団の有力選手たちが少しでもお見合い状態を始めれば、もしかしたら逃げ切りだって夢ではなかったかもしれない。しかし総合6分58秒遅れのパブロ・ラストラスが滑り込んでいたのが、エスケープ集団の不幸だった。マリア・ローザ擁するサクソバンクは、タイム差を4分程度でコントロールすることに決めた。また当のラストラスが、この日最初の峠クローチェ・カルニコからの下りでアタックを仕掛けたものだから、集団内の協力体制もどんどんゆがんで行く。ロベルト・キセルロウスキーが単独走行を試み、さらには第5ステージで区間とジャージのダブル制覇を果たしたピーター・ウェーニングが2度目の快挙を探しに行ったが、最終登坂の途中で全ては夢と消えてしまった。

エウスカルテル・エウスカディも、やはりやる気に満ち溢れていた。2分21秒差で総合11位につけるイゴール・アントンを前方へ送り出すために、クローチェ・カルニコの上りで隊列を組み始めた。山を越えるとそこはバスク地方……ではなく、オーストリアだったのだけれど!とにかく統一150周年を祝うイタリアを一旦抜け出したプロトン内では、ミケーレ・スカルポーニ擁するランプレ・ISDも加速に協力し始めた。コンタドールのアシストたちを振り切って、マリア・ローザをできるだけ早く孤立させようと、少なくともこの日のライバルたちは積極的に動いたのだ。

ちなみに最後から2番目の峠、イセルスベルグパスまで来ると、プロトン内の多くの人間が山と加速に耐えられなくなっていた。千切れ始める者が続出し、徐々にグルペットが形成されていった。それにしても前夜6人のスプリンター&アシストが大会を去り、しかもエトナ後に2人+第11ステージ中に2人のスプリンターが消えている。つまり180人に小さくなったプロトンには、普段からグルペットリーダーを務めるタイプの選手がほとんどいなくなってしまった。このことに不平を漏らす選手も多いとのこと。まだまだこの先も難関山岳は多いというのに……。先頭で巻き起こる優勝争いはもちろん、後方でのタイムアウトとの戦いもまた一段と厳しいものになりそうだ。

メイン集団で最初に攻撃に転じたのは、「総合は狙っていない」と断言するホセ・ルハノだった。ラスト10.5km地点のこの攻撃に、チームメートを働かせてきたスカルポーニやアントンは、すぐさま食いついた。しかしコンタドールは「全てのライバルのアタックに反応しているわけにはいかないから」と、距離を開けられても慌てない。自分のテンポで淡々と上って、静かにライバルたちに追いついた。ならば、とスカルポーニとルハノが再チャレンジに行くと、今度はコンタドールもしっかり反応を見せた。しかも単に反応しただけでなく、ラスト8.5kmで——勾配が10〜14%と最も厳しいゾーンだ——自分でアタックをかけて飛び出していってしまったのだ!「ルハノのテンポに、ニバリとスカルポーニが苦しんでいるのが見て取れた。そこでひらめいたんだ。今だ!ってね」。ルハノはしがみつき、スカルポーニはピクリと反応するだけにとどまり、それ以外の選手たちは反応さえも見せられなかった。

コンタドールとルハノの併走。5日前と少しだけ違ったのは、凍えるような寒さと雨、山肌に残る雪、遠くに見える白い頂、なによりも2人が協力体制をとったこと。エトナステージではほぼコンタドールだけが前を走り、振り切り、勝利を奪った。しかしチロルの名山では、ルハノも積極的にリレー交代に加わった。タイム差をできる限り開きたいコンタドールにとっては、非常にありがたい手助けだった。そして自らに力を貸してくれるものにはグランツール5勝チャンピオンも寛大な心を見せるのか——すでにグランツール11勝のエディ・メルクスのように、イタリアメディアからは「カニバル=人食い」と呼ばれ始めているが——、ルハノがちょっとだけ早めにステージ勝利を喜び始めてしまった後ろで、静かにフィニッシュラインを越えた。あらゆるライバルたちを1分半近くも突き放したおかげで、ボーナスタイムも2位の12秒を手に入れるだけで十分だったようだ。

2005年ジロの山岳賞は、2006年ジロで突如詳細不明のリタイアをして以来、第一線から長らく姿を消していた。クイックステップやケースデパーニュに合流したこともあったが、やはりつかみどころのない理由で、その小さな姿はレースであまり見られなくなっていた。しかしアンドローニジョカットリのチームマネージャー、サヴィオ氏との出会いが、29歳のルハノを変えた。喜びの記者会見中に、ルハノは幾度となくサヴィオ氏に対する感謝の言葉を繰り返す。それを聞いていたサヴィオ氏は、こう付け加えた。「彼はただ、精神と肉体のバランスを見失っていただけなんだ。以前から素晴らしい才能にはあふれていた。ようやく成熟のときを迎えて、本来の才能を再び開花することができたのさ」。

そしてマリア・ローザは何度も繰り返す。「ジロはまだ終わってない」。しかしエトナでもオーストリアでも何もできなかった総合2位ヴィンチェンツォ・ニバリは、コンタドールからの遅れを1分21秒から3分09秒にまで広げてしまった。逆に常に攻撃的なスカルポーニは3分16秒差。また3分25秒差ダビ・アローヨや3分29秒差ロマン・クロイツィゲルが表彰台の2番目と3番目の位置を脅かす……。チームメートと一丸になって戦ったアントンは、コンタドールとの差こそ4分02秒と大きくなったが、最終盤での単独アタックで多くのライバルを蹴散らし、総合11位から7位にジャンプアップ。また第11ステージ勝利に飽き足らずトップ10入りを狙うジョン・ガドレは、山岳アシストのユベール・デュポンとのデュオ攻撃を成功させ、総合8位へと食込んだ。

それでも「ジロはまだ終わってない」。いまだ難しいステージが8つも残っている。山頂でプロトン到着を待っていたカニバル本家、メルクスは「ライバルたちがマリア・ローザを奪還するチャンスは、極めて少ないだろう」と分析しながらも、しかし、警告も発する。「ただし、誰にでも調子の悪い1日がある。2009年パリ〜ニースで大失速を起こしたことを忘れてはならないよ」。これについては本人も分かっている。「明日のような厳しいステージでもしも空白の1日が訪れたら、簡単に15分くらい失ってしまう可能性があるからね」。

プロトンがオーストリアの山のホテルで1日の疲れをいやしている頃、未舗装ダウンヒルが話題を呼んだクロスティス峠の中止が発表された。もちろん欧州で3本の指に入る難峠ゾンコランが、プロトンをてぐすね引いて待ち構えている。


●ホセ・ルハノ(アンドローニジョカットリ)
区間勝利

エトナステージでは最終盤でメカトラブルに襲われて、勝利をつかむことができなかった。でもジロ、ツール、ブエルタを全て制したビッグチャンピオンについていけたことだけでも、十分満足だったんだ。今日はさらにハッピーだよ。だって勝利を手に入れられただけじゃなく、コンタドールの前でフィニッシュラインを越えることができたんだから!もちろん2人の間では、同意のようなモノがあった。彼は総合のため、ボクは区間のために、後続を突き放そうと協力し合ったのさ。

ここまで戻ってくるのに、ずいぶん時間がかかってしまったね。でも今は何の問題もなくなったし、きっといい成績が出せるに違いないと、ジロが来るのを楽しみにしてきたんだ。今はすごく澄みきった気分だよ。今のチームマネージャーと監督が、ボクを心から信頼してくれて、ボクを全力でサポートしてくれた。おかげでこうして復活できたんだ。今日も監督の指示をよく聞いたおかげで、いい走りが出来たんだと思う。本当に感謝しているんだ。


●アルベルト・コンタドール(サクソバンク)
マリア・ローザ

目標は2つあった。総合ライバルからタイム差を開くこと、そして区間優勝だ。でも今日のルハノは非常に強かったから、彼と協力して走ることに決めたんだ。残念ながら区間優勝はできなかったけれど、タイム差はしっかりと開けたね。ひどく苦しかったけれど、苦しんだ甲斐があったよ。今日はライバルチームたちがボクを振り落とそうとハードなレースを仕掛けてきた。でも全員のアタックには応えることなんてできなかったから、様子を伺っていたんだ。そしてルハノがアタックしたとき、ニバリとスカルポーニがついていけない姿を見た。だから、今だ!と直感してアタックしたのさ。エトナで感じたときのようにね。

かなり大きなタイム差が開けたと思う。この先のステージでライバルたちが攻撃をしかけてきたときには、この差がアドバンテージとなるだろう。でもまだまだ、たくさんのことが起こりえるんだ。それがどの山になるのかは分からないけどね。明日はまた、別の1日なんだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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