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サイクル ロードレース コラム 2011年7月9日

【ツール・ド・フランス2011】第7ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)とツールのラブストーリーは、この場所から始まった。3年前のシャトールーでは、「素敵だね。もう家に帰ってしまってもいい気分だよ!」と初々しくツール初優勝の喜びを語っていた。そして2011年のシャトールーでは、「なんてスペシャルな1日になったんだろう。初めて勝った場所で勝てたなんて、感激!」と顔いっぱいの笑みを見せる。思い出のこの町で今大会2勝目、ツール通算17勝目を計上。史上最大の自転車チャンピオン、エディ・メルクスが誇るツール最多通算区間34勝の、ちょうど半分に達したことになる。

どうあがいてもピュアスプリンター向けのコースだった。確かに右斜め前から強風が吹きつけていたし、ステージ折り返し地点まではプロトンは安全第一の徐行運転を心がけたものだ。しかしスタート直後に加速を切った4選手、ヤニック・タラバルドン(ソール・ソジャサン)、ミカエル・ドラージュとジャンニ・メールマン(共にFDJ)、そしてパブロ・ウルタスン(エウスカルテル・エウスカディ)は、一時最大の8分差をつけた以外は、残念ながらたいした見せ場は作れなかった。218kmの長い道のりには山岳ポイントなど1つもなかったし、中間スプリントだって背後のプロトンが繰り広げる接戦のほうがずっと面白いに決まっていたから無理もない(しかもカヴェンディッシュが後続トップの座を確保)。さらに、不運な出来事ではあったが、ステージ最終盤の大集団落車が全ての視線を釘付けにしてしまったのだ。

ツールの路上にまたしても大量の体が投げ出された。ゴール前35kmの、変哲のない広い道路での出来事だった。プロトンのちょうど半分が難を逃れ、残る半分は脚止めされた。「風のせいで誰もが集団前方に上がろうと試みた。区間を狙う選手も、総合狙いの選手も、それ以外の選手もみんな。でも前線に全員の場所なんかない。ピリピリした緊張感が走って、そして、落車が起こった」と、5日目のマイヨ・ジョーヌ生活を慎重に満喫したトル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)は語る。この彼のチームメートで、今ステージでスプリント勝利を狙えるはずだったタイラー・ファラーも後方に置き去りにされている。

区間勝利のチャンスを失うどころか、数人の選手たちは総合優勝を追い求める夢を棒に振ってしまった。2009年には総合4位に食込み、今年は完璧なる調整をつんでツールに乗り込んできたブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)は、鎖骨骨折でツールに別れを告げた。前日のチーム初区間勝利にわいたチームスカイは、一夜にして失意の淵に突き落とされた。「ツール表彰台は単なる夢ではなく、現実的な挑戦だったのに……」とチームマネージャーのブレイルスフォードは無念がる。しかもチーム内のほかの選手たちも、それぞれにブレーキをかけたり、またリーダーを待つためにあえて減速したり。もちろんリーダーが戻ってくることはなく、チームの残り8人全員が3分06秒遅れの集団でゴールした。ゲラント・トーマスはマイヨ・ブランを失った。「でも我々の挑戦はここで終わりではない。だってここはツールなんだから。前を向いて戦い続けるんだ」とブレイルスフォードの決意が痛々しい。

「3日前まではリーダーが4人もいたのに、今日は1人しかいなくなっちゃったよ!」とカラ笑いするしかないのは、チーム・レディオシャック監督のガロパンだった。第5ステージですでに、若きヤネス・ブライコヴィッチが鎖骨骨折でリタイアしている。この日はグランツール表彰台に過去3度上った経験を持つリーヴァイ・ライプハイマーが、3日連続で落車に巻き込まれた。すでに総合で4分29分もの遅れを喫し、2011年大会の表彰台争いは放棄すると断言せざるを得なかった。さらに39歳大ベテランのクリストファー・ホーナーが、12分41秒遅れの最終グルペットでフィニッシュラインへ到着。ツール医師団の発表によると、ホーナーは頭を強打して意識を一瞬失ったとのこと。チームマネージャーのブルイネールは「フィジカル面では何の問題もないようだ。でも自分がどこにいるのか分かっていないみたいだし、落車のこともまるで覚えていない様子だった」と心配する(ゴール後すぐに病院にて検査を受けている)。つまりは自動的に、ここまで何事もなく順調に走ってきたアンドレアス・クレーデンが、絶対的チームリーダーの座へと押し上げられることになった。ちなみにチーム・レディオシャックではこれ以外に3選手が落車しており、アシストたちもまた満身創痍である。

ゴール前12km地点でエスケープ集団を吸収したメイン集団内では、HTC・ハイロードの8両編成のトレインがうなりを上げた。前方に残ったのはわずか80人ほどだったから、この列車の優位性たるや火を見るより明らかだろう。他のチームにはまるで付け入る隙を与えぬまま、1600mの最終ロングストレートへ先頭で突入。見事な連携で予定通りに1つずつ車両を切り離して行き、ラスト150mで、チームのスプリントリーダーを発射した。「チームメートたちの素晴らしい仕事を締めくくる大役を任せてもらえて、本当に誇らしく思うんだ。そして彼らの努力に報いることが出来たことを、心から満足している」と、いつにも増して——毎回、チームメートへの感謝の言葉を語り始めると止まらなくなるのが常だが——カヴェンディッシュは熱弁をふるった。その一方で「元」チームメートで、HTC・ハイロードの仕事っぷりを熟知しているアンドレ・グライペル(オメガファルマ・ロット)は右大外からカヴを出し抜こうと仕掛けたが、わずかに足りず3位に終わっている。

色々なことが起こりすぎた2011年ツール1週目はこうして幕を閉じた。8選手が早くも大会を去り(この日はトム・ボーネンも棄権)、ディフェンディングチャンピオンのアルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)は相変わらず総合ライバルたちから1分半ほどの遅れを喰らっている。そして翌第8ステージから、いよいよ道は険しさを増す。天候や落車などの不運な要素にはぜひ少しだけ遠慮してもらって、ただ純粋に地形の難しさだけが、勝負を面白くしてくれるよう願いたいものである。


●マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)
区間優勝

チームメイトは1日中、信じられないほど力を尽くしてくれた。みんながボクを常に守ってくれたから、風さえまったく感じなかった。だからボクにとってはかなり楽だったんだよ。ラスト150mまで、1mもペダルを踏まずに済んだほどさ。まるで暴風壁に囲まれているような感じだったね。でも特に練習の成果というわけではないんだよ。風除け対策を全員で練習する機会はほとんどないからね。むしろ信頼と連携の賜物なんだと思う。あんなに働いてもらったんだから、勝利を取らないなんてあり得ないことなんだ。彼らを本当に誇りに思うよ。

最多勝利記録を狙っているわけじゃない。ただ出来る限り勝ち続けたいだけ。数はまるで気にしていないんだ。ボクはエディ・メルクスじゃないんだよ。ツールにはこの先もできる限り参加したいと思っている。もちろんできる限り絶好調で、できる限り最高のチームと共にね。ツールはあまりにも大切な大会だから、これまでも、そしてこれからも、区間勝利が目標であり続けるんだ。

中間スプリントルール変更で何か変わったかどうかよく質問される。ボクもそのことについて色々と考えたし、もちろん変更にあわせていかなければならないと思っているよ。でもボクにとって最大の問題は、集団スプリントで終わるステージが少なすぎること。新システムはむしろジルベールやロハスのような、攻撃的な選手向きだと思うんだ。でも努力していかなければならないね。

●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
マイヨ・ジョーヌ

確かに今年のツール第1週目は、例年とは違う気分だね。なにしろボクはずっとマイヨ・ジョーヌを着て過ごしているんだからね。イエロージャージを守り続けてきたことは、ボクにとっては非常に大切なパフォーマンス。嬉しいし、誇らしいよ。個人的に足りないのは区間勝利だけれど、でもこうしてマイヨを着ていられることだけでも十分にファンタスティックな出来事なんだ。明日は総合首位を守ることは出来ないだろう。最終峠はもちろん、ステージ全体を通して非常に難しい。だから明日はマイヨを守るための仕事はしないつもり。総合狙いのチームが、おそらく主導権を握ってくるだろう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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