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【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】ツール・ド・フランス史上初の5勝男、ジャック・アンクティルが刻んだ伝説
ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸※本企画は2017年に実施されたものです。予めご了承ください。
世界中の自転車ファンを魅了して止まないTour de France。男たちの激闘の裏に隠されたHUMAN DRAMAに僕らは胸を打つ。ここに紡ぐ珠玉のストーリー21選があなたに届くとき、聞こえるのはきっと、ツールへの恋の予感
【STAGE 01】ツール史上初の5勝男、ジャック・アンクティル(フランス)
ツール・ド・フランス総合優勝の歴代最多記録は5。ジャック・アンクティル(フランス)。エディ・メルクス(ベルギー)。ベルナール・イノー(フランス)。そしてミゲール・インデュライン(スペイン)の4人しかいない。個人タイムトライアルで圧勝し、山岳でスペシャリストと互角に渡り合う。そんな勝ちパターンを構築したのがアンクティルである。
1953年、アンクティルは19歳のときにフランスの強豪チームであるラ・フランセーズ・ダンロップでプロデビューした。しかし当時のツール・ド・フランスはナショナルチームによる参加形式で争われたので、そのときだけ企業チームを解散させ、選手は国籍別に再編成された。現在は広告宣伝効果を期待した企業色の強い国際大会として成功しているが、当時はナショナリズムを前面に打ち出して観客を熱くさせようという主催者のねらいがあったのだ。
当時のフランスチームにはルイゾン・ボベがいて、1953年から史上初のツール・ド・フランス3連覇を達成。1956年はヒザを故障して欠場し、復活をかけて1957年のシーズンに臨むのだが、23歳になったアンクティルがツール・ド・フランスに初参戦することを表明した。
アンクティルはすでパリ~ニースで総合優勝するなど実力はダントツ。しかしエリート気取りのところもあり、さらには徒弟制を地で行くような古い体質がまとわりついたボベと、同じフランスチームで走ることを拒否。当然のようにボベは気分を害し、ツール・ド・フランスを自ら辞退した。栗色の髪をなびかせ、長い四肢を屈曲させたエアロフォルムを形成して走るアンクティルに、ボベ自身が次世代の到来を予感したことが、ツール・ド・フランスから離れる決意となったことは言うまでもない。
写真:2006年大会ステージ15に設けられたボベのモニュメント
若返ったフランスチームでアンクティルはその実力をいかんなく発揮した。第3ステージで優勝し、その2日後に初めてマイヨジョーヌを手中にした。一時は他選手に首位を譲ったが、アルプスでマイヨジョーヌを奪還。得意とする個人タイムトライアルで圧勝し、マイヨジョーヌをパリまで手放さなかった。
ボベは出場6回目でようやく初優勝したのだが、アンクティルは初出場で総合優勝してしまったのだ。
ツール・ド・フランスはその後、国別対抗から企業チーム形式に戻る。アンクティルはさらに1961年から3連覇し、ベルギーのフィリップ・ティス、ボベの持つ通算3勝の最多記録を更新。そして1964年に5勝目をかけて開幕に臨んだ。
この年、フランスにはレイモン・プリドールがいて、国民の人気を二分した。しかもアンクティルはジロ・デ・イタリアを、プリドールはブエルタ・ア・エスパーニャを制して7月のツール・ド・フランスに乗り込んできた。
そして2人は大会史上に語り継がれる激闘を演じるのである。
戦いの舞台は中央山塊。フランスには珍しい旧火山帯で、噴火によって溶岩ドームが形成されたピュイドドームが雌雄を決するゴールだった。
50万人の大観衆は2人がヒジをぶつけ合うように上ってくるのを目撃した。デッドヒートはまったくどちらが勝つとも分からない壮絶なものだった。
プリドールは頂上まで2kmのところでアタックし、アンクティルに42秒差をつけた。
しかしマイヨジョーヌには14秒届かなかった。
アンクティルは最終的に総合成績でプリドールに55秒差をつけて大会史上初の5勝目を挙げることになる。プリドールは1962年から1976年まで合計14回ツール・ド・フランスに出場して、総合2位3回、3位4回。ポディウムと呼ばれるパリでの3位までの表彰台に7回上っているが、総合優勝は一度もできなかった。アンクティルが常に栄冠の前に立ちはだかったからだ。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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