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サイクル ロードレース コラム 2017年6月9日

【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】伝説的英雄をねじ伏せたインテリレーサー、ローラン・フィニョンの歓喜と絶望

ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸
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※本企画は2017年に実施されたものです。予めご了承ください。

世界中の自転車ファンを魅了して止まないTour de France。男たちの激闘の裏に隠されたHUMAN DRAMAに僕らは胸を打つ。ここに紡ぐ珠玉のストーリー21選があなたに届くとき、聞こえるのはきっと、ツールへの恋の予感

【STAGE 07】インテリパリジャン、ローラン・フィニョン(フランス)

パリ出身の自転車選手は今も昔もほとんどいないが、銀ぶちのメガネをかけたローラン・フィニョンが希少なパリジャンだ。1983年に5回目の総合優勝を目指すベルナール・イノーのアシストとしてプロデビューする。イノーはおかげで春のブエルタ・ア・エスパーニャを制したが、ヒザの手術を余儀なくされて7月のツール・ド・フランス出場を断念。フィニョンは初めてのツール・ド・フランスをそんな状況で迎えた。

イノーの欠場に有力選手が色めき立ったのは言うまでもない。上りに強いコロンビアのアマチュア選手がチームを組んで初参戦してきたのもこの年だ。前半戦はオーストラリアのフィル・アンダーソンが3年連続となるマイヨジョーヌを着用。ピレネーではそれに代わってフランスのパスカル・シモンが首位に躍り出た。スペインのイケメン山岳スペシャリスト、ペドロ・デルガドは区間優勝こそ果たせなかったが、テレビ画面で女性たちのハートをくぎ付けにした。

マイヨジョーヌを着たシモンは落車で左の肩甲骨を骨折したが、それでもレースを続行。子どものころからの憧れだったマイヨジョーヌにソデを通しているのだから、それにふさわしい走りを示さなければならない。激痛に襲われる脳裏は家族の顔や友人の激励などに支配される。しかし第17ステージの13時30分、シモンはその痛みに耐えきれずに棄権した。


アルプスのラルプデュエズがゴールとなったそのステージで、フィニョンが有力選手を置き去りにして首位に立つ。フィニョンは残りのアルプスで山岳スペシャリストに食らいつき、最終日前日の個人タイムトライアルを制してマイヨジョーヌにふさわしい存在であることを証明した。

こうしてフィニョンは初出場で総合優勝するという、歴代のコッピ、コブレ、アンクティル、イノーが達成した偉業に肩を並べた。

翌1984年。フランス勢が総合優勝を争った最後の時代。この世界最高峰の自転車レースを生み育てたフランス国民は両雄対決にすべての関心を奪われることになる。フィニョンはルノーチームのエースナンバー1を着用して登場した。ヒザの手術を終えたイノーは、ルノーを離れてラビクレールチームに移籍し、大会5勝目に挑んだ。

そして沿道に集結したフランスの大観客が目撃したこと。故障明けのイノーがフィニョンの挑戦者となり、攻撃の機会を一度も逃すことなくその実力をいかんなく発揮したこと。ところがフィニョンはパワーの絶頂期にあって安定した走りを見せつけたこと。

プロローグでマイヨジョーヌを獲得したのはイノーだったが、首位はめまぐるしく入れ替わり、第5ステージでフィニョンのアシスト役であるバンサン・バルトーへ。アルプスのラルプデュエズにゴールする前までマイヨジョーヌを守った。

このラルプデュエズでコロンビアの山岳スペシャリスト、ルイス・エレラが同国選手として初優勝。区間2位に入ったフィニョンが前年と同様にこの場所でマイヨジョーヌを獲得した。フィニョンはそれまでに2回の個人タイムトライアルで優勝して実力を見せつけていたが、3回目も圧倒的なパワーで優勝。マイヨジョーヌを着て最終日のシャンゼリゼに凱旋することになるが、イノー不在の前年よりもそれは価値のあるものだった。パリ出身のインテリレーサーがブルターニュの穴熊と呼ばれた伝説的英雄をねじ伏せたのである。

フィニョンが出場2回にして2連覇を達成したこの年、フィニョンのアシスト役として1人の米国選手がデビューしている。その名はグレッグ・レモン。フィニョン、イノーに続いて総合3位に入り、新人賞を獲得した。

フィニョンは1989年、3度目の総合優勝を目前にしながら最終日にわずか8秒の僅差でレモンに逆転負けを喫する。

「こんなはずじゃなかった」

と、ゴール後のフィニョンはシャンゼリゼの石畳の路面に放心状態で崩れ落ちた。

そして2010年、癌との壮絶な戦いに敗れて50歳の生涯を終えた。

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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