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サイクル ロードレース コラム 2017年6月13日

【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】 笑顔の裏に秘めた圧倒的闘争心、大会3連覇を目論む絶対王者クリス・フルーム

ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸
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※本企画は2017年に実施されたものです。予めご了承ください。

世界中の自転車ファンを魅了して止まないTour de France。男たちの激闘の裏に隠されたHUMAN DRAMAに僕らは胸を打つ。ここに紡ぐ珠玉のストーリー21選があなたに届くとき、聞こえるのはきっと、ツールへの恋の予感

【STAGE 09】現絶対王者、クリス・フルーム

クリストファー・フルームはケニアのナイロビで英国人の両親の間に生まれ、南アフリカで育った。現地のホテルで立ち話をしても謙虚で紳士的。2013年から4年連続で「ツール・ド・フランスさいたま」のために来日しているから、その温かみを知る人も多いはずだ。

その一方で、勝てるところは全部持っていくという栄冠への強い執着心を感じる。ケニアの首都ナイロビで生まれ、南アフリカで育ったという特異な境遇をもつが、その人格形成において品行方正ながらもやるべきところは他に譲らないという二面性を築いていったのである。

プロ1年目の2007年にツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージで初勝利したときは南アのコニカミノルタに所属し、ケニア国籍だった。そのときは「暑さには強いんだ」と語っている。そしてロンドン五輪直前に英国籍へ。ケニアに五輪出場枠がなかったからだ。

ツール・ド・フランスの記念すべき第100回大会となった2013年のツール・ド・フランスはフルームの圧勝だった。窮地があったとすれば、途中で補給食が摂れなかったことでエネルギー不足のハンガーノックになったラルプデュエズ。そのゴール直後のテレビインタビューでは、「好感度を高めるためにわざと?」という質問さえ飛び出たほどで、フルームはキユーピー人形のような屈託のない笑顔で「そんなことはないよ」と返すのだった。

ところがロードバイクにまたがると別の側面がかいま見られる。2012年はスカイチームでブラッドリー・ウィギンスのアシスト役だったが、遅れがちなウィギンスを振り返りながら「ついてこられないの?」とばかりの表情。さらに「早く来いよ!」とばかりの手振りまで見せつけた。

連覇に挑んだ2014年のツール・ド・フランスは大会4日目にアクシデントが発生した。フルームは第4ステージで落車して、右手首を痛めたが、激痛は押し隠した。翌日は「北の地獄」と呼ばれる石畳区間が待ち構えていた。石畳はレース後半に設定されていたが、右手首を痛めていたフルームは雨に濡れた前半の舗装路で2度も落車。ついに手首を骨折してリタイアした。


「2度目の落車をしたときに、もう走れないと悟り、悲しい気持ちでいっぱいになった」

大会は第10ステージでフルームのライバル、アルベルト・コンタドールも落車骨折でリタイア。最終的にイタリアのビンチェンツォ・ニーバリが優勝する。

優勝を逃したフルームとコンタドールは2カ月後のブエルタ・ア・エスパーニャで一騎打ちを展開し、地の利で優るスペインのコンタドールがフルームを振り切った。ツール・ド・フランスで痛恨のリタイアをしたときは互いに激励のメールを送ったという間柄で、23日間の長丁場で総合優勝を争う過酷さを知り得ているだけに相手をリスペクトする気持ちを共有する。

「コンタドールに敗れて2位になっても、すがすがしい気分だ」。

戦いを終えたフルームはいつものように品行方正な姿に戻る。今後も自転車界の頂点を争う熾烈なバトルを展開していくに違いない。

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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