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【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】謙虚に戦い続けた、エリック・ツァベルの「真のキングオブスプリンター」への道
ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸※本企画は2017年に実施されたものです。予めご了承ください。
世界中の自転車ファンを魅了して止まないTour de France。男たちの激闘の裏に隠されたHUMAN DRAMAに僕らは胸を打つ。ここに紡ぐ珠玉のストーリー21選があなたに届くとき、聞こえるのはきっと、ツールへの恋の予感。
【STAGE 14】謙虚さが強さの秘訣、エリック・ツァベル(東ドイツ)
東ベルリン生まれのエリック・ツァベル。1990年にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツ統合されると、これまでトラックレースでしか活躍の場がなかった東ドイツ勢がプロロードチームに相次いで加入してきた。トラック競技でスピード力を磨いてきたツァベルもロードスプリンターとしての道が開けた。
1992年にドイツのマイナーチームと契約し、翌年に一流チームのドイツテレコムに引き抜かれた。1995年にツール・ド・フランスで区間2勝。1996年にはビャルネ・リースがチーム入りし、さらに前年にチーム入りしていたヤン・ウルリッヒの台頭もあり、ツール・ド・フランスでは総合優勝をねらうチームの中で、孤軍奮闘して区間優勝を積み重ねていく。
1996年は結果的に初めてのポイント賞を獲得している。その後もツァベルはポイント賞を獲得し、2000年にはそれまでショーン・ケリーが持っていた最多勝の4回を上回る5年連続の受賞を果たした。しかし5回目のポイント賞を獲得したものの区間勝利は1つしかなく、「真のキングオブスプリンターとは言えない」と陰口をたたかれていた。
だから2001年は、ツァベルにとってはポイント賞を獲得するだけではなく、絶対に勝利を量産しなくてはならないツール・ド・フランスだった。しかしチームの布陣はツァベル向きではなかった。チームには王者ランス・アームストロングに戦いを挑むウルリッヒがいて、チーム態勢はウルリッヒをサポートするアシスト選手で固められていた。ツァベルの発射台だったジャンマッテオ・ファニーニはメンバーから外され、孤軍奮闘で区間勝利とポイント賞を戦わなければならなかった。
2001年のツール・ド・フランス最終日。総合優勝はアームストロングが圧倒的なパワーで大会を独走して不動のものにしていた(後にドーピング違反で全成績はく奪)。しかしこの年の最終日はいつもより緊張感が漂っていて、パリ・シャンゼリゼに向かう集団のペースも例年になく速かった。
それはポイント賞争いが大接戦で、だれのものになるのか決着していなかったからだ。最終日のスタート地点で緑色のマイヨ・ヴェールを着用しているのはクレディアグリコルのステュアート・オグレディ(オーストラリア)だった。それを2点差で追うのがツァベル。この年は積極的なレース展開で旋風を巻き起こしたオグレディに最終日前日までポイント賞のトップを明け渡し、最終日のラストチャンスにかけたのだ。
最終ステージは大接戦となった。最初のスプリントポイントでツァベルが1着となり、この時点で2人は同点に。2つ目のスプリントポイントもツァベルが1着で4点をリードした。そして最後のゴール勝負は2人のけん制を巧みに利用してランプレのヤン・スフォラーダが抜け出して優勝。ポイント賞争いでリードするツァベルはオグレディに先着されなければよかったので2位でゴール。オグレディは3位で、ツァベルが6度目のマイヨ・ヴェールを大逆転で獲得した。
逆境がツァベルを強くしたとも言える。23日間の長丁場を完走できる総合力があり、山岳スペシャリストが活躍する上り坂でも大きな遅れを取らない実力を備えていた。ゴールスプリント時にアシストに頼らず、持ち前の感覚で勝負するタイプ。ワンデーレースにも積極参戦し、きっちりと実績を残すタフネスさ。そしてエース待遇のウルリッヒに嫉妬することなく、常に謙虚に戦う姿勢が人間として実に魅力的だった。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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