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あの言葉は、本当だった。1年前のウインターカップ決勝戦、コート上で優勝インタビューを受けた福岡第一高校の井手口孝コーチは、こう言った。
「私たちは、11月3日に事実上の決勝戦(福岡県予選の決勝戦で、福岡大大濠高校に勝利)をやって来た。あれ以上のスコアで勝たなければいけないと思っていた」
県大会決勝で破ったライバルへのリスペクトだった。福岡大大濠のいない全国大会を、福岡第一はぶっちぎりの強さで優勝した。あれから1年。今度は、初めてウインターカップの決勝戦で両校の対戦が実現した。ウインターカップ2019第72回全国高校バスケットボール選手権大会の男子決勝戦、勝ったのは、福岡第一。初の連覇を成し遂げた。一方、敗れはしたが、福岡大大濠は最後まで食らいつき、今大会で唯一、福岡第一に控えチームでのプレーを許さなかった。
福岡大大濠は、昨年のウインターカップだけでなく、今年のインターハイにも出場できなかった。昨年は、インターハイの時期に年代別代表の活動が重なり、福岡県代表として出場した両チームとも早期に敗退。決勝進出によるウインターカップの出場権を得られなかった。そのため、県予選で潰し合いになった。今年は、ウインターカップの出場チーム数が増える一方で、インターハイはチーム数を削減。福岡県は2枠から1枠になったため、2位だった福岡大大濠は、全国にたどり着かなかった。強くても全国に出られないチームとしての悔しさをずっと抱えているチームであり、最強の王者は、それをよく知っていた。
福岡第一の井手口コーチが「全国で1、2番の力を持った2チーム」と評したのは、昨年の両チームだが、代替わりをしてもなお、王者の福岡第一にとって最大のライバルは、変わらなかった。前半は、福岡第一の長身留学生クベマ ジョセフ スティーブ(3年)のブロックをかわせずに苦しんだ福岡大大濠だったが、後半はスティーブにダブルチームを仕掛けてボール奪取から速攻を繰り出すなど反撃。最後は、横地聖真(3年)が3ポイントシュートを決めたが68−75とし、今大会で唯一、1ケタの点差まで福岡第一を追い上げた。
福岡大大濠の主将を務めた西田公陽(3年)は「昨年(福岡第一の)井手口先生が『福岡の決勝が事実上の決勝だった』ということを言われて、実質2位なんだと思った。でも、2位は1位じゃない。そこに悔しさも感じた。大濠は日本一を取るべきチーム。そのチームが全国に出られていないことが悔しかった。今まで何度も戦って来て、福岡第一さんのおかげで自分たちが成長できた部分もあるので、感謝しています」と雌伏の時もずっと同じ県で戦い、追いかけて来た相手との関係に感謝を示した。
試合でも、最後までライバルを追いかけた。背番号6の田邉太一(3年)は、相手のスピードスター河村勇輝(3年)に食らいつきながら、18得点を挙げた。平松克樹(2年)も ファウルトラブルに陥りながらも、スピードのある相手ガードに食らいついた。エースの横地は、攻撃面では何度もスティーブのブロックにあいながらアタックを止めず、守備面ではディフェンスリバウンド15本を取ってチームを助けた。2メートルの長身で外角シュートを得意とする木林優(3年)は「一番の敗因は、自分がスティーブを止められなかったこと。スリーも、確率良く決められる強さも必要だった」と悔しがったが、スティーブをマークしつつ、攻撃では3ポイントとドライブで相手を揺さぶった。ピンポイントで起用される高木寛大(3年)も良くチームの雰囲気を引き締め、苦しい場面では、主将の西田とエースの横地がよく声をかけていた。
片峯聡太コーチは、敗れた悔しさをかみしめながら「今年の3年生は、1年の頃は『我、関せず』。2年になると、わがままな集団。3年になり、ウインターカップが近付くにつれて、戦う個性派集団に変わっていった。大会の中でもチームとして成長できた」と選手の成長を称えた。力がある、という程度では、福岡第一を超えることはできない。
苦しんできた。県予選の前には、主将の西田とエースの横地が言い合いになったまま練習が終わった日があり、県予選では福岡第一に敗れ、チームの雰囲気は落ち込んだという。その期間に一部の主力選手が世代別代表活動で離れ、誰もチームを引っ張れず、責任をなすりつけ合う事態になっていた。そこで、ようやく一人ひとりが自覚を持った行動を意識し始めた。西田は「昨年は、ベンチから声を出してくれる選手がいたけど、今年は少ない。なかなか自分たちから行動するということができなかったけど、県予選が終わってから気付き出した。一人ひとりが自覚を持つようになって、この大会でも試合を重ねる毎に成長できた。特に、横地が変わった。ハーフタイムでもタイムアウトでも、横地が『もっとこうしよう』と声を出してくれるようになって心強かった」と最後の最後でチーム力が高まった経緯を明かした。
だから、最後の3ポイントは、誰が決めたのではなく、横地だった。
「自分が行きたいと思ったけど、選手もベンチも先生も、お前が行けと言ってくれた。最後、託してもらってスリーを決められたのは良かったし、あのスリーは、自分たちが頑張って来た成功の証。決め切れて良かったと思う」(横地)
最後までライバルを超えられなかった悔しさは、消えない。しかし、最大のライバルとして認められてきた力を全国の舞台で見せつけることはできた。史上初の福岡勢同士の決勝戦を生み、好勝負を作り出したのは、悔しさにまみれた超強豪校の歩みだった。
文:平野貴也
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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