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松永武士トレーナー
チームには選手が持てる力を発揮するため、裏方でプロフェッショナルなサポートをするスタッフがいる。今回は楽天イーグルスのコンディショニンググループでトレーナーとして活躍する松永武士(たけし)さんに話を伺ったので、お伝えしたい。
松永さんは小学生の時からいわゆる「野球肘」に悩まされ、その影響もあって高校生の時に肩も負傷。野球が大好きな少年だったが、思いっきりプレーすることができなくなった。だが、治療法を模索するうちにトレーナーと出会い、自身もその道を目指すようになったという。
ちなみに野球肘とは成長期の小・中学生などが、投球練習をしすぎることで生じる肘の障害の総称。靭帯や腱、骨や軟骨が損傷し、重症化すると、競技続行どころか日常生活にも支障をきたす場合がある。近年、野球をする子ども持つ親御さんや関係者・指導者の間で、野球肘について意識改革が高まりつつあるので、知る人も多いかもしれない。
◆「ケガで夢が断たれる子どもを減らしたい」
松永さんは、九州産業大学附属九州高等学校の野球部出身。同校は甲子園出場校でもあり、松永さんが所属した当時も部員100名ほどが、日々高い目標を掲げて練習を重ねていた。外部からトレーニングコーチも招聘していて、ハイレベルな環境にあったという。
「その頃には肘は治りましたし、肩もトレーニングのおかげで投げられるようにはなっていました。ですが、それ以上は目指していません。ケガのため、目指せませんでした。野球に対して満足いくプレーはできなくなっていたんです。それで高校2年の時、同じようにケガをしてスポーツの夢が断たれる子どもが少しでも減るように、自分が治療家になろうと決意しました」。
高校卒業後は、福岡リゾート&スポーツ専門学校のアスレティックトレーナー科へ。同校卒業後さらに、プロ野球のトレーナーになるべく、福岡医健専門学校の鍼灸科を修了して、国家資格である鍼灸師に。その後、治療院や公立高校で治療家やスポーツトレーナーとしての実績を積み重ねた。そして、2014年に楽天イーグルスの募集を知って応募。念願が叶ってプロ野球のトレーナーとなり、現在に至る。
◆こぼれる思いを拾うコミュニケーション
松永さんは主にケガの対応や予防を専門とするトレーナーだ。試合を観戦していると、選手がケガをした時に駆けつけるスタッフがいるのを見るが、正にそうした役割を担う。
「アクシデントが起きた時は、応急処置を行います。また、病院で診てもらうための対応全般や、本格的な治療をする際は、担当医師との連携も担います」と松永さん。
2015年から19年まで一軍に帯同していたので、その間に球場やテレビで見かけたという人もいるかもしれないが、2020年からは二軍を担当する。一軍と二軍の違いや、二軍ならではの難しさについて、こう語る。
「一軍にいる選手は、すでに自分で長くケアをしていたり、普段からセルフケアができている選手が多くいます。一方で二軍は、若い選手も多くいますので、ケガ予防のケアについて啓蒙していかなければなりません」。
「また、二軍にはベテラン選手やケガをしてリハビリ中の選手もいるので、それぞれ目標が大きく異なります。一軍でパフォーマンスが発揮できるように選手を送り出すには、各々さまざまなことを効果的にアドバイスしていく難しさがありますね」。
それぞれに細やかなケアをするため、松永さんが大切にしていることは日々の“声掛け”だ。
「もちろん、練習量やトレーニング関連の数値も見ていますが、声掛けをしていると日々の変化を察知できますし、そのなかで信頼関係を築けるよう心がけています。信頼関係があれば、些細なことでも『実はここの張りが…』とか『少しここが痛いような…』とボソッと言ってくれるようになるんですね。なので、大きなケガになる前に気づいたり、異変を拾えたりするため、声掛けをしています」。
◆スタッフ間の連携を大切に
練習量やトレーニング関連の数値は、疲労度を測る目安にもなるという。「日ごろの練習で、野手であればダッシュのタイムだったり、トレーニング関連なら重量が普段より挙げられなくなっていたり、脚を上げる角度が小さくなっていたり、ジャンプの数値が小さくなっていたり、というのを総合的に見ながら、筋肉の張りや疲労度を見るようにしています」。
「ともあれ、数値などはトレーニングを担当するトレーニングコーチやコンディショニングコーチのおかげです。定期的にコンディショニングミーティングをするのですが、計測した翌日には『誰々のこういう数値が少し落ちている』と細やかに教えてくれますから」。
これまで何度もお話を伺っている栄養士の長坂聡子さんも、「松永さんは選手やスタッフの誰とでも見事にコミュニケーションを取っている」と絶賛していた。私自身、2015年から折々で楽天イーグルスの方々を取材させていただいてきたが、松永さんはいつお会いしても気持ちよく挨拶を交わしてくれたことを思い出す。
ケガのためプレーヤーとして大好きな野球を続けられなかった松永さんだが、今の仕事を「天職です」「夢が叶いました」と言い切る。やりがいは「選手が元気な姿でプレーしている姿を見られること」。将来の目標はトレーナーを目指した時と同じ、「スポーツを楽しむ子どもたち、小学生、中学生、高校生みんながケガに苦しむことなく、楽しくのめり込んでいける世の中」と揺るぎない信念を持つ。
取材・文:松山ようこ/写真:東北楽天ゴールデンイーグルス提供
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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