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バドミントン コラム 2024年11月20日

山口茜が熊本マスターズ初優勝、日本代表それぞれの新たな道 | 熊本マスターズジャパン レビュー

バド×レポ by 平野 貴也
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同大会で日本勢初となる優勝を飾った山口茜(再春館製薬所)

同大会で日本勢初となる優勝を飾った山口茜(再春館製薬所)

バドミントンの国際大会「熊本マスターズジャパン2024」は11月17日に最終日を迎え、女子シングルスで山口茜(再春館製薬所)が同大会で日本勢初となる優勝を飾った。また、女子ダブルスの福島由紀/松本麻佑(岐阜Bluvic/ほねごり)、男子ダブルスの保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)が準優勝した。夏のパリ五輪を終え、世界各国の選手が新たな道のりを歩み始める中、日本代表選手もまた、それぞれの一歩を刻んだ。

山口茜、楽しませることを楽しむ姿勢は不変

パリ五輪直後のダイハツジャパンオープン同様、今大会も海外勢は主力の欠場が相次いだ。五輪は、多くの選手にとっての区切り。引退する選手もいれば、休養する選手もいる。五輪イヤーは、BWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアーの出場者が固まらず、不安定になりがちだ。その中でも、変わらないのが、日本勢で唯一タイトルを手にした山口だ。

五輪後の一時的なモチベーション低下を認めながらも「ジャパンオープンは、自分の中では相性の良い、力を発揮できる大会。(この大会も)そんな感じに、相性の良い大会になったら良い」と活動拠点である熊本での大会に向けて調整。スピードのあるフットワークで先手を取るラリーを展開した。準決勝では、ポンパウィ・チョチュウォン(タイ)と激闘。ファイナルゲームにもつれたが「相手の選手がしっかり我慢していた。相手が我慢できたということは自分もできる」と相手の闘志に刺激を受けて応戦し、21-18で競り勝った。決勝戦では、連覇を狙うパリ五輪銅メダリストのグレゴリア・マリスカ・トゥンジュン(インドネシア)に完勝。得意のダイビングレシーブで回転しながら受け身を取るスーパープレーを披露するなど会場を沸かせ、ファンを魅了した。地元で格好良いところを見せたいと話していた大会を終えて「優勝できたので、100点です」とはにかんだ。

試合後、五輪を終えた後もプレーを続ける意義を問われると「時には結果、時には楽しさを求めながらバドミントンをして、新しい発見やより求めたいものがあればいい」と変わらぬ姿勢を示した。良いプレーで、見る人を楽しませる。それを自分自身が楽しむ。大会のステータスよりも大事にしている山口のモチベーションは、不変だった。

パリ大会で初の五輪挑戦にたどり着いた大堀は、引退を表明

今年限りでの引退を表明した大堀彩(トナミ運輸)

今年限りでの引退を表明した大堀彩(トナミ運輸)

一方、五輪を機に大きな決断をした選手もいた。大堀彩(トナミ運輸)は、大会開幕直前に、今年限りの引退を表明。「本当に時間がかかったけど(五輪出場の)目標を達成し、自分では満足できるプレーができた。4年後と考えたときに、そういう気持ちにはなれなかった。残り数大会を自分らしくやりきれば、悔いはない思った」と理由を語った。

国内でプレーする最後の機会になった今大会では、緊張感でリズムを崩した初戦を切り抜け、準々決勝へ進出。山口との試合では、エンジン全開で第1ゲームを先取。痛めている両ひざが疲労で悲鳴を上げて逆転負けを喫したが、最後まで戦い抜いた。まだ国際大会が続くため「来週も再戦できたらいい」と気持ちを切らさなかったが「茜ちゃんの存在のおかげで、ここまで、踏ん張れたのもあると思う。国内での終わり方としては、本当に理想だった。ベストを尽くせたと思います」と日本のファンの前での戦いを、注目度と充実度の高い試合で締めくくった気持ちを表現した。

女子複の福島/松本、組み替えペアで生まれる新たな意欲

決勝に進出した女子ダブルスの福島/松本

決勝に進出した女子ダブルスの福島/松本ペア

そして、新しい意欲を見つけている選手もいる。女子ダブルスの福島/松本は、新ペア結成後、初の大会で準優勝となった。福島は、廣田彩花(岐阜Bluvic)との「フクヒロ」ペア、松本は永原和可那(北都銀行)との「ナガマツ」ペアで長らく戦ってきたが、パリ五輪後にペアを解消。組み替える形で新たなペアを結成した。開幕2日前に国内のS/Jリーグで対戦したばかりで、直前は練習できず、連係は不十分。負けて失うものはない立場だったこともあるが、終始2人笑顔の多い大会だった。初戦となった1回戦では、パリ五輪4位のタン・パーリー/ティナ・ムラリタラン(マレーシア)にファイナルゲーム15-19から追いついて23-21で競り勝ち、ポテンシャルの高さを見せつけた。難関を突破した後は、試合を重ねながら、福島が前衛に入る形から、松本が前衛に入る形へ変化するなど、少しずつペアとしての形を確立。しかし、決勝戦では、パリ五輪で銀メダルの劉聖書/譚寧(リュウ・シェンシュ/タン・ニン=中国)に完敗。第2ゲームは5点しか奪えなかったが、松本は「もうちょっと自分が暴れていいのかなというイメージがある。今までやってこなかったことを出してもいいのかなと感じた」と自分自身の新しい意欲と可能性をのぞかせていた。

組み替えペアでは、ほかにも女子ダブルスの櫻本絢子/五十嵐有紗(ヨネックス/BIPROGY)が国際大会デビューを飾った。2回戦でパリ五輪銅メダルの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)に敗れたが、五十嵐は「今の実力が知れた。修正点がたくさん見つかったので、これからどんどん良くなって行けると思う、という意味でも楽しかった」と刺激を受けていた。

男子複の保木/小林、蘇った野性味

優勝まであと一歩に迫った保木/小林ペア

優勝まであと一歩に迫った保木/小林ペア

男子ダブルスの保木/小林は、初の五輪挑戦を終えて、負けられない緊張感からの解放を攻撃力の向上につなげていた。得点時の表情が以前とは違った。取らなければいけない1点を取った安心感ではなく、互いの好プレーに対して驚きや喜びを表現することが多かった。保木は「(世界選手権を制するなど)飛躍した2021年は、楽しんで思い切ってプレーできていた。成績を残す戦いの中で、期待が大きくなり、自分たちのプレーを見失っていた部分もあると思う。今は、ペア結成初年度くらいの気持ちでやりたいと思っている」と試合に対するメンタルの作り方を変えていることを明かした。実際、終盤の競った場面で思い切りの良い攻撃で得点する場面は多かった。小林も「互いに個人の改善ばかり考えて苦しく、パートナーのショットを喜ぶとか普通のことができていなかった。今は、互いのプレーで盛り上がる。ラリーの中で、疲れも感じない。長年経験している自分たちが、そういう感覚でやっていけたら、また新しく勝てるようになるかなという実感がある」とプレッシャーとの付き合い方を変えた戦いに手ごたえを得ていた。23年8月の豪州オープン以来の決勝進出は、新たな歩み方に一つの手ごたえを与える結果となった。

2024年シーズンは、間もなく終わりを迎える。国内では12月に全日本総合選手権が行われ、25年の日本代表が決定する。選手たちが熊本で見せたそれぞれの前進の、その先にはどんな景色が広がっているのか。

文:平野貴也

平野貴也

平野 貴也

1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。

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