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4度目の優勝飾った山口茜(再春館製薬所)
一時のブームで終わるのか、日本バドミントン界立て直しの一歩となるのか。バドミントンの国際大会、ダイハツジャパンオープンは8月25日に横浜アリーナで各種目の決勝戦を行い、女子シングルスは、山口茜(再春館製薬所)が同種目の史上最多記録に並ぶ4度目の優勝を果たした。大会のトリを務める最終試合として行われた一戦で、山口はブサナン・オングブンルングパン(タイ)を2-0のストレートで撃破した。入場から試合前の羽根打ちまで鳴り止まなかった「山口、1本」、「茜、1本」というコールを受けて試合に臨んだ山口は「嬉しいと同時に、ちょっとなんか泣きそうな気持ちになって、試合、大変だなという気持ちになりました」と苦笑いを浮かべたが、試合中も声援を受け続け、精力的なプレーを披露。積極果敢な攻撃と、テンポの早いラリーで相手を翻ろう。準決勝を不戦勝で勝ち上がった相手の方が先に息が切れる展開に持ち込み、圧勝した。パリ五輪の翌週で心身ともに試合の準備をするのは難しい中、山口も「準備不足」と話しており、動きのキレ自体は、好調時に比べると劣ったが、それでもアイデアあふれるアグレッシブなプレーで会場に集った4569人の観衆を魅了した。
今大会は、パリ五輪で2組の銅メダリストを輩出した日本バドミントン界が、次の歩みを踏み出す第一歩。五輪を通じて競技や選手に興味を持った、新たなファンを獲得できるチャンスでもあった。BWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアーで2番目に格付けが高いスーパー750の大会で、世界の強豪も集い、ハイレベルな競技の魅力が詰まった大会を、新たなファン候補に間近で見てもらえる絶好の機会だった。残念ながら、海外の有力選手は、少なくない人数が、五輪直後で調整不足であることを理由に大会を欠場した。言ってみれば、日本代表選手たちも同じ状態ではあった。しかし、競技の魅力をアピールできる機会のために、あるいは、普段は海外での試合が多く、なかなか生観戦ができない日本のファンのために、日本代表選手がズラリと集結し、できる限りのプレーを見せたことで、大会は次第に盛り上がりを見せていった。
ロス五輪目指す奈良岡、中西/岩永が初の4強入り
パリ五輪に出場した選手の中では、女子シングルスの山口が優勝したほか、男子シングルスの奈良岡功大(NTT東日本)が初の4強入りで存在感を示した。パリ五輪の決勝トーナメント1回戦で敗れた周天成(台湾)との再戦を乗り越えられずに準決勝で敗退したが、2028年のロサンゼルス五輪をターゲットとする23歳。再挑戦の第一歩を目撃したファンは、今後の歩みをより楽しめるようになったはずだ。パリ五輪出場選手では、まだロサンゼルス五輪への意欲を表明している選手が少ないが、女子ダブルスで初の4強入りを果たした中西貴映/岩永鈴(BIPROGY)は、パリでは果たせなかった五輪出場を追い続けるペア。世界ランク2位のペク・ハナ/イ・ソヒ(韓国)に準決勝で敗れ、岩永は「自分たちより上の、壁が厚いなと思った。アタックもレシーブも全然足りなかったので、練習して頑張りたい」と悔しさを募らせたが、第1ゲームでは世界トップレベルのアタックをしのぐ場面も多く、収穫も得た。中西は「たくさんのお客さんが見に来てくれて、すごく嬉しかった。声を出して応援してくれる方もいて、楽しく試合ができた。また来年、強くなった姿を見せられるように頑張りたい」と巻き返しを誓った。
混合複「ワタガシ」がラストダンス、最後の大会はベスト8
ラストダンスはベスト8に終わったワタガシ
大会前から注目されていた、パリ五輪の銅メダリストたちも、調整不足の中、プレッシャーも受ける立場を認識しながら、コートで奮闘した。特に、混合ダブルスの渡辺勇大/東野有紗(BIPROGY)は、今大会でのペア解消を発表しており、最後の戦いに注目が集まった。1、2回戦は快勝で力を見せつけたが、準々決勝は、楊博軒/胡綾芳(台湾)の強烈なドライブで押し込まれ、主導権を握れなかった。集大成の場として臨んだパリ五輪を終え、心身ともにピークアウトした状態での戦いは難しかったが、やり抜いた。富岡第一中学校での海外遠征で初めてペアを組んでから13年。互いへのメッセージを取材エリアで求められると、東野は「もう(同じ質問が)3回目ぐらい」と苦笑いを浮かべたが「13年間も組んできているペアは、ないと思う。ここまでやってこれたのは、本当に勇大君のおかげだと思っているので、感謝の気持ちしかない」と話した。渡辺も「ありがとう、しかない。ここまで長くやってこれたのは、僕らだから。一瞬の喜び、一瞬の優勝のためにここまで支え合いながらできたのは、2人だから」とパートナーに感謝を伝えた。
女子ダブルスで初の4強入りを果たした中西貴映/岩永鈴(BIPROGY)
女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)も、準々決勝で敗れた。中西/岩永(BIPROGY)との日本勢対決は、93分の激闘。攻守両面で戦える両ペアらしい一進一退の攻防に会場が沸いた。ただし、志田/松山は、五輪から帰国後間もなく、メディア出演等で多忙だったため調整不足は否めず、ファイナルゲームは力尽きた。試合中から腹痛に襲われていた松山は、試合後の取材対応を回避。志田は「負けてしまったけど、今、できることはやり切った上での負け。五輪が終わって、自分たちを知ってくださっている方が多いなと、試合をしていて感じた。応援にもっと応えられるように、また日本で試合をするときには、成長した姿を見せたい」と話した。
■五輪出場組が調整不足の中でも重視した、日本のファンへの恩返し
山口、奈良岡、渡辺/東野、志田/松山。上記で触れた選手は、パリ五輪から間もなく、調整不足のままでの出場だった。しかし、誰もが「日本のファンの前でプレーできる貴重な機会」と大会を重視。できる限りのパフォーマンスで声援に応えた。女子シングルスの大堀彩(トナミ運輸)も、その一人。準々決勝でブサナン(タイ)に敗れたが、負傷しているヒザが震える中でも弱気を見せず、25-23、19-21、21-23と3ゲームすべて競り続ける1時間29分の死闘を戦い抜いた。力を出し尽くした大堀は「何回も(気持ちが)折れかけたけど、子どもたちも見てくれている。自分が今やっている使命というか、小さい子どもたちに夢や希望を少しでも与えられれば、やっていることの価値があると思うので、良い背中を見せられるようにと思ってやっていた」と激戦を振り返った。
五輪出場組が無理を押してコートに立ち、その中から優勝者を輩出して盛り上がるほどの健闘を見せた。その価値を無駄にしてはいけない。2組のペアがメダルを取り、帰国後のバラエティー番組などでも存在感を示し、新たな関心が向いているのは朗報だ。一方、日本バドミントン界は財政難に直面し、今季後半は協会からの日本代表派遣を止めている状況でもある。世界を相手に、スキルフルで迫力や闘志を感じるプレーで立ち向かい、競技の魅力を伝えられる選手を抱えている状況と、選手が日本のために献身性を持っていることを最大限に生かすことが、日本バドミントン界の再興につながることが望まれる。
文:平野貴也
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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