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必要以上の重圧に苦しんだ志田/松山ペア
体験してみなければ分からないものがある。バドミントン日本代表、女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)は、初めての五輪レースで重圧を感じている。5月に2024年パリ五輪の出場権獲得レースが開幕。4つの国際大会を戦い、志田は「自分たちのプレーが、まず、できない状況になってしまう。想定内だったけど、ここを超えないといけないなというのは、一つ見えた。試合に入る前もいつもより緊張するし、コートの中でも勝たなきゃ、勝たなきゃって思い過ぎてしまう。無意識に力が入ってしまい、自分らしくできない。意識してしまっているんだろうなと思いました」と思うような成績を出せなかった序盤戦を振り返った。
2024年パリ五輪の出場権は、直近1年間の成績が反映される24年4月30日の世界ランキングで決まる。1年をかけた長い戦いで、日本勢では、女子ダブルスの出場権争いが特に激しい。世界ランク上位に何組もひしめいているからだ。各種目とも同国から五輪に出場できるのは、最大2枠。ダブルス種目は、同国勢が世界ランク8位以内に2組以上入ることが2枠適用の条件となる。日本のペアは、日本勢で1番手になるか、あるいは2番手以内でなおかつ世界ランク8位以上に入る必要があり、各大会で上位に入るだけでなく、他の日本勢より多くポイントを稼ぐことも重要となる。
■志田「考え過ぎているなと、すごく思った」
志田/松山は、21年東京五輪の直後から世界のトップクラス入りを果たしたペアだ。21年、22年にインドネシアOPを連覇。22年3月の全英OPも優勝するなどBWFワールドツアーで最も格付けの高いスーパー1000を制してランキングポイントを獲得。五輪レース開幕前の4月25日更新時点で世界ランク2位となり、日本勢1番手でレースに臨んだ。4月の時点で、志田は「レースが始まるまでに4位以内に入ろうという目標でやっていた」と話しており、22年後半は自国開催の世界選手権やジャパンOPで結果を出せずに苦しんでいたものの、有力選手との早期対決を避ける第4シード以内を確保してレースを迎えたところまでは、想定内の出来だった。
しかし、レースが始まって1カ月で世界ランクは11位まで後退。五輪レースの争いも日本勢3番手でライバルに先手を奪われた。男女混合国別対抗戦のスディルマン杯では2勝を挙げて日本の4強入りに貢献。だが、マレーシアマスターズ(スーパー500)では、まだ勝ったことがなく苦手のベク・ハナ/イ・ソヒ(韓国)に敗戦。続くシンガポールOP(スーパー750)でも同じ韓国ペアにファイナルゲーム21-23の大激戦で惜敗し、ともにベスト8止まり。さらに、3連覇を狙ったインドネシアOP(スーパー1000)では、櫻本絢子/宮浦玲奈(ヨネックス)との日本勢対決に敗れて初戦敗退となった。志田は「直近のインドネシアOPでは、韓国のペアと久々に組み合わせが分かれて、チャンスがあるところで、今までにないくらい緊張しましたし、自分の中でプレッシャーをかけ過ぎて(動きが)硬くなってしまった部分があった。考え過ぎているなと、すごく思いました」と先々までが気になり、必要以上の重圧に苦しんだことを反省した。
■強打を打つのは「安心するため」か「相手を崩すため」か
神経を研ぎ澄ますレベルの緊張感は必要だが、理想や希望を描き過ぎれば、不安を増長させる。そして、メンタルはプレーを支配してしまう。21年後半から1年半以上も世界のトップで戦い続け、身につけてきたものは確実にある。ところが、不安を感じると得意なプレー、やりたいプレーに頼ってしまう。ワールドツアーの合間、6月下旬に出場した全日本実業団選手権では、決勝戦で即席ペアの中西貴映/東野有紗(BIPROGY)に敗戦。志田は「やれることは増えているはずなのに、うまくいかなかったり、攻略されてしまったりしたときに、同じやり方を貫いてしまうところがある。試合の中で試さないとできるようにならないと分かっているけど……。今日も、結局、自分たちのプレーに戻してしまって、相手に慣れられてしまった。思い切ってプレーの幅を広げてみるのが課題かなと思う」とプレッシャーの中で一本調子になりやすい状況にあることを感じ取っていた。
攻めていないと不安になる部分があるのだろう。決まりにくいと分かっていても、強打に頼ってしまう。しかし、あえて上から打たせている相手からすれば、同じ速さのアタックばかりになればカウンターを狙いやすくなる。プレー面での課題は、松山も似たようなところを感じている。
「自分たちは、全部速くて頑張るプレーが多いけど、海外の選手はカットだけでつなぐとか、自分で自分たちを楽にしている。そういうのができないと、連戦を戦い抜けない。そういうプレーは、1点を取るショットではなくても、相手のペースを乱せると見ていて感じる。意識的に緩急を使えるようになりたい。攻めれそうと思うと、攻めてしまう。自分をコントロールしながらやれば、楽な試合も増えると思う」(松山)
■7月最後は自国開催のジャパンOP、昨年の雪辱で手応えつかめるか
一つでも手応えを得られれば、余裕が生まれて事態が好転する可能性はある。しかし、タフな五輪レースでは、手応えをつかむこと自体が難しい。7月はカナダOP(スーパー500、7月4日開幕)、韓国OP(スーパー500、7月18日開幕)、ジャパンOP(スーパー750、7月25日開幕、代々木第一)の3戦を予定している。松山は「もちろん優勝したいですけど、今の自分たちに何かを得られる大会になればいい。勝ちながら、自分たちの良い物を見つけて終われるのが一番良い」と好転の材料をつかむことを最優先のテーマに掲げた。
ジャパンOPは、昨年は初戦敗退。気負い過ぎて表情が強張り、力を出し切れずに負けた。重圧との戦いにおける成長ぶりを示したいところでもある。志田は「(五輪レースのポイント差を)見ても焦るだけ。まずは、自分たちが置かれている状況があまり良くないと思うし、自分たち次第のところが大きい。まずは目の前のやるべきことが大事。ジャパンOPは、シードがない状況になるけど、一つひとつ向かっていく気持ちで。昨年は悔しい思いをしたし、メンタル的にも普通にできず、背負ってしまった。ここで払拭できるように、絶対に結果を残していやるという気持ちで頑張りたい」と意気込みを語った。
五輪レースは、先行有利ではあるが、まだ先は長い。強敵を撃破するか、好成績を残すか。厳しい戦いの中で成長のきっかけを得て、重圧を乗り越える。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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