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女子シングルスで世界選手権2連覇の山口茜(再春館製薬所)
2024年パリ五輪の出場権を争う「五輪レース」が幕を開ける。バドミントン日本代表は、5月14日に開幕する男女混合国別対抗戦スディルマンカップが五輪レースの初戦となる。五輪出場権は、直近1年間の成績が反映される24年4月30日更新の世界ランキングに準拠。全5種目で世界ランク上位選手を抱える日本は、出場枠の最大活用が一つの目標だ。各種目で1カ国に与えられる出場枠は、最大2枠。シングルスは16位以内に2人以上、ダブルスは8位以内に2ペアが入ることが2枠獲得の条件となる。
■女子単の山口、混合複の渡辺/東野は、五輪メダル候補
世界選手権で2大会連続で銀メダルの渡辺勇大/東野有紗(BIPROGY)
現時点でパリ五輪のメダル候補に名前が挙がるのは、女子シングルスで世界選手権2連覇の山口茜(再春館製薬所)と、東京五輪で銅メダルを獲得した後、世界選手権で2大会連続で銀メダルの渡辺勇大/東野有紗(BIPROGY)だ。山口は、五輪で2大会連続の8強。これまで以上に有力選手としての立場を確立して臨む3度目の五輪レースになるが「五輪がほかの大会と違って特別だというのは分かったけど、その上で、東京を終わったときに『(五輪で)結果が出なかったので、次はパリ』と、すぐにはならなかった。五輪は特別だからどうしても五輪に、という気持ちも(五輪を)2回経験して、特にない。普段から(大会の)レベルは一緒だよという気持ちもなくはない」と泰然自若の構えだ。例年より注目度が増す中で、普段の力を発揮できるかが重要となる。
前回よりもポイントの高い国際大会が増え、五輪レースは過酷になっている。体調の維持も容易でない。混合ダブルスのメダル候補である渡辺/東野は、3月の全英オープンで渡辺が負傷。渡辺は「本当に(キレのある動きを発揮する、あるいは連戦で続けて好結果を出すための負荷と、負傷するリスクの)紙一重の所で選手はやっていると思うから、理解してほしいところ。プレッシャーをかけずに温かく見守ってくれたら。僕ももう一度輝きたい。しっかりと治して、レースは長いですけど、良い成績を残せるように頑張りたい」と復調を誓った。山口や渡辺/東野のように、安定して世界ランク上位にいる選手は、レースを通じてライバルや新勢力への対策を作り上げることもポイント。混合ダブルスでは、東京五輪で優勝した中国の選手がペアを組み替えており、東野は「まだ対戦したことがないので、対戦の機会があれば、しっかり作戦を練って戦いたい」と警戒した。
■混戦種目の男子複、保木/小林は前回レースの反省生かす
男子ダブルスは、保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)に期待
他の日本勢は、五輪出場権の確保とともに、メダルの有力候補に名乗りを挙げる成長が期待される。注目は、初の五輪を目指す新たな力だ。男子ダブルスは、保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)に期待。前回は日本勢3番手だったが、今回は日本のエース格。小林は「メディアの方に(五輪レースと)言われると、いよいよ始まるんだという気持ちが増えていく。もう少し練習したいなと記者会見の最中に考えたりもした」と緊張感を漂わせた。21年はBWFワールドツアーファイナルズや世界選手権を制して大躍進。22年から成績が伸び悩んでいるが、保木は「21年(の快進撃)は奇跡。そこを考えず、コンスタントに行くのが五輪レースを戦う中で一番大事。勝って満足していたら、あっという間にレースが終わっている。それが東京五輪だった。(19年の)前半戦、インドネシアOPでベスト4、世界選手権で2位になって、どこかで安心して、そこから急激に結果が出なくなった。勝っても、負けても、もう1回という気持ちが大事」と冷静に状況を分析。今後も続くであろう浮き沈みへの心構えを示した。既存勢力が健在の上、インドの長身ペアや、中国の若手ペアなどが続々と台頭し、最も混戦模様の種目。安定してベスト8以上の成績を重ね、ベースアップすることが期待される。
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■激戦の女子複、シード確保の志田/松山が初出場狙う
力をつけているのが女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)
同じく五輪初出場を目指し、力をつけているのが女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)と、男子シングルスの奈良岡功大(FWDグループ)だ。ただし、この2種目については、世界との戦いだけでなく、日本勢同士の争いも激化が予想される。女子ダブルスは、東京五輪でベスト8だった福島由紀/廣田彩花(丸杉)、松本麻佑/永原和可那(北都銀行)が健在。ともに五輪後は負傷が続いてコンスタントな大会出場ができていなかったが、要所で好成績を残して世界ランク上位をキープしている。そこに加わり1カ国最大2枠の五輪出場権を争う志田/松山は、厳しい戦いに臨む準備で、一歩先んじた。志田は「五輪レースが始まるまでに、世界ランクを4位以上に上げようという目標は、クリアできて良かった。しっかり準備できたかなと思う」と明かした。国際大会は、都度、最新の世界ランクを元に出場者やシードを決める。上位シードは、ランク上位者との早期対決を避けて成績を安定させるための大きな手がかりだ。22年は自国開催の世界選手権やダイハツヨネックスジャパンOPで早期敗退を喫するなど、大舞台のプレッシャーの中で実力を発揮し切れない課題も出たが、松山は「22年は、良い自分たちも悪い自分たちもすべて経験できた。今年のレースでしっかりと生かせたら強いのではないかと思う」と悔しさを成長の糧とする姿勢を示した。日本が最も厚い選手層を誇る種目で、3組の動向から目が離せない。
■奈良岡が台頭の男子シングルスも激戦必至
国際大会で急激に成績を伸ばした奈良岡
男子シングルスも日本勢同士の争いが激しくなる。22年後半に日本A代表に昇格し、国際大会で急激に成績を伸ばした奈良岡の台頭で状況は変わった。現在は、日本勢で唯一の世界ランク1ケタ。上位が期待される位置での五輪レース開幕は思い描けていなかったという奈良岡だが「去年は、五輪レースを回りたいという気持ちだけで頑張っていた。(それまでは)世界ランク48位とかだったので、絶対に回れないと思っていましたけど、やっと、回れる権利をもらえたかなと思います」と待望の舞台を前に充実感を得ていた。22年末のBWFワールドツアーファイナルズでは、世界王者のビクター・アクセルセン(デンマーク)を相手にファイナルゲーム終盤まで競る大健闘。短期決戦なら十分に上位を狙える。今後は、長いシーズンで安定して成績を出すために経験を重ねていく段階だ。「五輪レースは初めての経験。みんな、レースに向けて体力を温存しているのかなとか、まだ本気じゃない選手もいるのかなとか思う。(五輪レースで)みんなが目の色を変えてくるのでちょっと怖いですけど、自分は自分。楽しんでいこうと思います」と経験豊富な選手たちの動向を警戒しながらも、初めての五輪レースに臨む高揚感を漂わせた。男子シングルスは、桃田賢斗(NTT東日本)が20年の交通事故後から不調に苦しむ中、2大会連続の五輪出場を目指す常山幹太(トナミ運輸)が1月のマレーシアOP(スーパー1000)で4強入りするなど奮闘。また、西本拳太(ジェイテクト)も22年のジャパンOPでBWFワールドツアー初優勝を飾るなど成績を上げており、4人で2枠を争う形になりそうだ。
5月から五輪レースが始まり、7月には、東京・代々木第一体育館でダイハツジャパンオープン(スーパー750)も行われる。レースの前半戦、誰がリードや手応えを得るか注目だ。
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平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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