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春の世界一決定戦で日本勢が3種目制覇の活躍を見せた。バドミントンのBWFワールドツアーで最高クラスのスーパー1000、全英オープン最終日が21日にバーミンガムで行われ、混合ダブルスで渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)が2年連続3度目の優勝を飾った。決勝戦では、東京五輪の金メダルペアであるワン・イーリュ/ファン・ドンピン(中国)をストレートで破った。女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)と女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)は、ともに初優勝を飾った。
バドミントンは、東京五輪後もコロナ禍の影響で各国の強豪選手の足並みが揃わない時期が続いていたが、今大会は久々に不参加国のないトップレベルの国際大会となった。まだ五輪後でパフォーマンスが戻り切っていないトップ選手がいる一方、次世代の選手が五輪後に勢いよく台頭しており、各種目とも勢力が混沌としている中、日本は2024年パリ五輪をターゲットとする世代が結果を残した(渡辺24歳、東野25歳、山口24歳、志田24歳、松山23歳)。
混合ダブルスの渡辺/東野は、連覇
渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)
混合ダブルスは、東京五輪で銅メダルを獲得した渡辺/東野が、全英2連覇を飾った。昨年末の世界選手権で銀メダルに輝くなど、五輪後も安定して好成績を挙げている2人は、2024年パリ五輪に向けて金メダル候補への飛躍を目指す段階にある。欧州遠征の第1戦だったドイツオープンでは、チームメートである金子祐樹/松友美佐紀(日本ユニシス)に敗れたが、全英オープンでは準々決勝で雪辱。準決勝では、世界選手権の決勝を含めて3連敗中だったデチャポル・プアバランクロー/サプシリー・タエラッタナチャイ(タイ)も破った。決勝戦の相手は、東京五輪の金メダリストだったが、前衛を務める東野が鋭いネットプレーを連発して試合を支配。後衛の渡辺が得意のドロップ(強打に見せかけて、ネット前に落とすフェイント)を決めて第1ゲームを先取。第2ゲームは中盤でリードを許したが、粘り強い返球でラリーを続けてミスを誘い、じわりじわりと追い上げて逆転に成功。最後は、渡辺のスピードショットが相手のラケットを弾いて勝利した。
21-19、21-19と拮抗したゲームを制し、渡辺は「第1、2ゲームとも劣勢だったけど、声を掛け合って諦めずにプレーできた。モチベーションを上げきれた。大会の中で成長できたと実感している」と当地でコメントした。2人にとって全英オープンは、2018年にシード下から勝ち上がって初優勝を飾り、世界で戦う自信ときっかけを得た、思い入れのある大会。勝利後、渡辺に続いてラケットを会場に投げ入れるファンサービスで喜びを表現した東野は「大好きな場所で2連覇ができて嬉しい。勇大君が良いロブを出してくれて良い形が作れた」とパートナーの配球に合わせて、狙いを絞れていた手ごたえを語った。1ゲームも落とさず、全5試合ストレートの勝ち上がりは、見事。東京五輪まで混合複は日本にとって手薄な種目だったが、いまや上位進出の有力種目だ。東野は「(大会を通じて)劣勢の場面、負けている場面で話し合って逆転できたのが良かった。今後は、サービス周りでもうちょっと優位に立てるようにしたい」とさらなる成長を描いた。
女子シングルスの山口は、次世代の代表格を撃破
山口茜選手
女子シングルスの山口も、安定して好成績を挙げている。東京五輪では、2大会連続のベスト8でメダルには届かなかったが、昨年末には世界選手権で初優勝を飾っている。今大会の準々決勝では、格上撃破を繰り返している高橋沙也加(日本ユニシス)との日本勢対決に勝利。準決勝では、東京五輪の金メダリストであるチェン・ユーフェイ(中国)にストレートで撃破した。昨年10月の男女混合団体のスディルマン杯、女子団体のユーバー杯に続き、チェンに3連勝だ。決勝戦では、東京五輪の直前からトップ戦線へ一気に浮上してきた若手の代表格、20歳のアン・セヨン(韓国)と対戦。持ち前のフットワークで主導権を握り、21-15、21-15のストレートで勝利を物にした。山口は「一度は取りたいと思っていたタイトルなので、優勝できてとても嬉しい。決勝はタフなゲームになると思っていたけど、我慢強くラリーをして、相手を見て、考えながらプレーできたのが良かった」と強敵を退けた一戦を振り返った。山口は、10代の頃から世界のトップ争いに加わり、長く活躍を続けている。ただ、女子シングルスは混戦模様が続いており、ライバルも多い。
東京五輪を制したチェン・ユーフェイも山口と同世代で、今後もタイトルを争う相手となる。次世代も台頭する中、優勝候補に残り続け、なおかつ、その中でも一段上の有力候補になっていくことが、パリ五輪のメダル獲得の可能性を高めるものになる。山口は「会場や相手に慣れるまでに時間がかかることが多かったので、対応力を上げたい。今回対戦していないトップ選手もいるし、比べて、まだ足りないところもたくさんある。より精度を高め、より自分が楽しいと思えるプレーをできるようにしたい」と課題を挙げていたが、世界選手権に続いて全英を制し、階段を一歩上がった印象だ。
志田/松山は、女子ダブルスの新エース候補
志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)
女子ダブルスで優勝した志田/松山は、東京五輪後に躍進を見せているペアだ。東京五輪の出場権争いでは日本の上位2組に及ばなかったが、その2組が五輪後は負傷などでコンディションが整わない中、実戦経験を積んで急成長を見せている。スーパー1000の優勝は、昨年11月のインドネシアオープンに続いて2度目だ。それでも、まだ世界トップクラスのペアとの対戦成績は下回るものが多いだけに、充実したラインナップの全英で、実績ある相手を破れるかどうかが一つの注目点だった。松山は「キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)と当たる組み合わせだったので、このペアの研究、サーブ周りの練習をしてきた」と準々決勝を一つのターゲットにしていたことを明かした。世界ランク3位のキム/コンは、東京五輪の銅メダルペア。志田/松山は、過去3戦全敗だったが、研究の甲斐もあってストレートで撃破。第1、2シードがベスト4に残らない波乱の中、壁を乗り越えて頂点まで勝ち上がった。志田は「(前週のドイツオープンを含めて)好きな球を打ってカウンターを受ける場面もあったので、もっと相手を見て冷静にプレー出来れば、もっと上に行けると感じた」と進化のヒントも得ていた。女子ダブルスは、日本が世界トップクラスの選手層を誇る種目。2人は、そのエースとなってパリを目指そうとしている。
日本代表は今後、4月末のアジア選手権や5月の男女団体トマス&ユーバー杯、5~6月の東南アジア3連戦(タイ、インドネシア、マレーシア)を経て、8月に東京で開催される世界選手権を目指す。昨年の東京五輪では、全種目にメダル候補を抱えながら銅メダル1個の獲得に終わり、自国開催で大きなアピールはできなかった。今度は、パリ五輪に向けて実力者がそろっていることを自国で示す機会となる。来年には、五輪レースが始まる。今年の東京で、そして2年後のパリで、今度こそバドミントン日本代表が輝く。2022年最初のビッグイベント全英オープンは、その先頭を走る選手たちの存在が光る大会となった。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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