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志田千陽選手(左)/松山奈未選手(右)
いつまでも3番手ではいられない。2024年パリ五輪を目指すバドミントン女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)が、世界の舞台で躍動し始めた。21年の東京五輪は日本勢3番手で出場権を得られなかったが、東京五輪に出場した福島由紀/廣田彩花(丸杉)、松本麻佑/永原和可那(北都銀行)の2ペアが負傷離脱した21年シーズン下半期は、女子ダブルスのエースペアとして期待を受けた。
団体戦の途中で志田が負傷したが、松山は2016年リオデジャネイロ五輪の金メダリスト松友美佐紀(日本ユニシス)と即席ペアを組む中で多くを学んだという。志田が復帰後は、インドネシアで2大会連続優勝。シーズン成績上位者が集うBWFワールドツアーファイナルズでも準優勝と躍進した。一方、世界選手権では、東京五輪の銀メダルペアに完敗し、課題を突き付けられた。パリ五輪の頂点を目指す2人は、21年シーズンで何を得たのか、リモートインタビューで話を聞いた(取材日:12月23日)。
■東京五輪で得た、トップ選手からの刺激
志田千陽選手
――最初に、東京五輪についてお聞きします。日本、韓国、中国のペアが有力視される中、ベテランのグレイシア・ポリー選手と若手のアプリヤニ・ラハユが組むインドネシアのペアが金メダルを獲得しました。志田選手は、各ペアの年上の選手の振る舞いに注目していたそうですが、それぞれ大会をどのように見ていましたか
志田:ダブルスは、海外遠征や合宿でずっと一緒に行動します。高みを目指す上で、互いにコート内外で指摘し合わないといけませんが、相手に嫌われたくないし、怒ってしまっても、その後ずっと一緒にいるのに、どうすれば……と思うことが多々あります(笑)。パートナーのストレスにならず、信頼される関係でありながら強くなるために、どういう伝え方や接し方が良いのか、何か参考にしたいと思いました。(銅メダルだった)韓国のキム・ソヨン選手は、パートナーがどれだけミスをしても、必ず目を見て話す姿が印象的。インドネシアのペアは、ラハユ選手が試合中に笑顔でプレーするようになり、目に見えて変わってきた印象があって、ポリー選手は、人に良い影響を与えられる選手なんだと感じました。自分もしっかりしなければと思いました。今は、パリ五輪に出て勝つことだけを考えていますけど、東京五輪が終わった後に「どんな結果でも、2人でやり切った、これで負けるなら仕方がないと思えるくらいの過程を作りたいから互いに頑張ろう」と松山に話をしました。
松山:最初は、五輪の直前合宿に参加できていなかったのですが、廣田先輩がケガ(右ひざじん帯断裂)をしたことで、急きょ参加しました。五輪に出る先輩たちを見て、直前の時期にどんな心境で練習をしているのかが感じられましたし「次の五輪に自分たちが出るなら……」と志田さんと話をできたのも良かったです。東京五輪では、中国の陳清晨/賈一凡(チェン・チンチェン/ジア・イーファン)がすごく強くて、決勝も勝つのではないかと思って見ていたのですが、決勝では何か少し違うように見えて、五輪は何があるか分からないなと感じました。ポリーさんは、みんなから尊敬される選手。そういう人がメダル取るんだなと思いました。
■松山「松友さんと組んだ経験が生きた」
――五輪後、9月末の男女混合団体スディルマン杯は、途中で志田選手が負傷しました
志田:最初は、マイナスの感情しか出ませんでした。周りの選手の活躍は嬉しいけど、悔しい。ケガで試合に出られない経験がなく、こんなに苦しいものかと感じました。ただ、マイナスのままではいけないので、強い身体で復帰するぞとリハビリを頑張ったり、先輩たちのプレーを見て、気になったところを質問したり、とにかく何かプラスにしようと思いました。応援もサポートも今しかできない経験と思い、乗り越えることができました。
松山奈未選手
――続く女子団体のユーバー杯では、松山選手が松本麻佑選手、松友美佐紀選手とペアを組みました。収穫は?
松山:最初に(予選ラウンドで)松本さんと組ませてもらって、スタッフから褒められるくらいに、良いパフォーマンスができました。心に余裕を持って入れたのが良かったと思います。志田さんとのいつもの「1本、ハイ!」という掛け声がない試合は、最初は違和感がありましたけど、流れが悪いときや、サーブ、サーブレシーブのとき、相手を待たせるくらいでもじっくりと自分のペースでできたような気もして、新鮮で面白いなとも感じました。(決勝トーナメントで)松友さんと組んで、印象的だったのは、準決勝の韓国戦。松友さんが後衛から打つクリア(コート後方へ相手を追いやる球)の質を肌で感じて、すごいと思いました。自分が後衛で高い球を打つときは、打ち下ろすスマッシュを打って攻める方が安心で(高い打球は打ち下ろされると考えて)クリアを打つ勇気がありませんでした。でも、松友さんは、攻守交代をさせない攻めのクリア。打ち下ろされても、相手の攻撃に対して準備ができるような(万全の状態では打たせない)絶妙な高さの球出し。打ち下ろす強打と頭を越すクリアの打ち分けに、相手が迷っていました。
――志田さんが復帰してからの個人戦では、インドネシアで3大会連続の決勝進出。2大会で優勝しました。手ごたえは?
松山:今までは「(攻め急がず)我慢だよ」と言われても、頑固だからか「我慢できているのに」と思ってしまっていたのですが(笑)、今回は、スタッフにもよく我慢したと言われたので、ちょっとは成長したかなと。松友さんと組んだときに「ここで(強打を)打たないんだ」と思った経験が生きたと思います。打ち下ろす球だけで攻めるより、クリアも混ぜた方が相手の体が前後に動くので(イージーな)ミスもしてくれる。それでも1点。スマッシュを打ち続けても1点。松友さんと一緒にプレーして、1点の取り方が変わったかなと思います。
志田:今まで、自分に自信がなくて、スタッフのアドバイスも「え?良い感じだと思っていたのに、もしかして、違うの?」とネガティブに感じてしまう部分がありました。でも、テイさん(中島慶コーチ)に「笑顔で!」と言われて、とりあえず笑顔でやってみたら、どのアドバイスもネガティブには聞こえなくて、すごく楽で、プレーも前向きに取り組めました。1週目の大会(インドネシアマスターズ)の準決勝でタイのペアと対戦したとき、長身の相手のショットにタイミングが合わず、焦って集中力が散漫になりました。翌日の決勝戦で同じようにならないか不安でしたが、笑顔でポジティブに捉えたら良いプレーで勝つことができ、これが、自分の良い状態なんだと感覚をつかむことができました。
■中国ペアとの対戦は「リードしても勝っている気がしない」
松山奈未選手
――世界選手権では、東京五輪銀メダルのチェン/ジア(中国)に敗れてベスト8。世界のトップとの距離の感じ方は、変わりましたか
志田:中国ペアは、五輪で久しぶりに見たときに完成度が高過ぎて驚きました。対戦しても本当に強くて、特にサービス場面で隙がない。リードしても勝っている気がしなくて、ずっと怖かったです。ネット前の球への詰めの速さでプレッシャーをすごく感じました。焦りで見える範囲が狭まって、癖だけで動いて相手に先読みされました。でも、採り入れたい部分がたくさんあって、良い意味でもっと成長できるとモチベーションが上がりましたし、対戦できて良かったです。
松山:インドネシアで2つ優勝できて多少は自信になっていたのですが、中国ペアは本当に強くて「まだまだ、だな」と思いましたし、反省点を生かしたいです。早く追いつきたいし、倒したい気持ちが強くなりました。
――同じチームの山口茜選手は、女子シングルスで優勝しました
志田:茜は、あまり感情を見せないタイプですけど、すごく優しいし、周りへの思いが人一倍強い。東京五輪は、自国開催で、応援してくれる人への思いが強すぎるからこその悔し涙だったと思います。五輪が1年延期したとき、ずっとモチベーションがきつそうだなと感じましたけど、チームでは頼られるエースだからか、表に出さないように頑張っていると感じていました。「こんなに頑張っているのに……」と思っていたので、やっと報われた、良かったと、いつも以上に嬉しかったです。
■志田「五輪レースの前年、世界ランク4位以上でシードを取りたい」
志田千陽選手
――22年シーズンは、2月に熊本開催のS/Jリーグからのスタートですね
志田:どんな相手にも挑戦する姿勢を持てるのが私たちの良さだと思っているので、それを忘れずに臨みたいです。久しぶりに国内で有観客の試合をできるかなと思いますし、会場で元気な姿を見せて、見てくださる方に楽しんでもらえる試合ができたら良いなと思っています。
松山:団体戦が好きですし、熊本開催なので、すごく楽しみです。コロナ禍で大会の実施が減っていて、あまり試合をできていないチームメイトもいるので、仲間の試合を見られるのも楽しみです。
志田千陽選手(左)/松山奈未選手(右)
――2022年の目標・抱負と、ファンの方へのメッセージをお願いします
志田:五輪レースの前の年になるので、世界ランク4位以上に入って、シードを取りたいです(※国際大会のシード順は、世界ランクに準ずる)。いつまでも上の2ペアに付いていく気持ちでは絶対にダメ。日本のエースダブルスと言われるように、たくましくなりたいです。急成長が必要な勝負の年なので、ギアを入れ直して頑張りたいです。国内で悠観客の試合に出られなくて、皆さんに会場でお会いすることができませんでしたが、SNSを通じていただくメッセージは、すごく大きな力になりました。ケガをしたときも優しさや勇気をもらえる言葉が多く、ありがとうございましたという気持ちしかありません。今後も、もっと上を目指して頑張っていくので、少しでも応援してもらえたら嬉しいです。
松山:日本勢でも松本/永原ペアは、まだ(永原が負傷明けで)本調子ではないですし、これから福島/廣田ペアも戻ってくると思います。しっかり付いていけるか不安はありますけど、まず日本の1番手になりたいというのが、今の目標です。21年の下半期は、世界選手権をはじめ、開催地との時差もある中、たくさんの方がSNS等を通じて応援してくれて、そのありがたさを身に染みて感じました。やっぱりお客さんがいた方が盛り上がるし、楽しいので、次は熊本、東京で応援してほしいです。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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