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山口茜(再春館製薬所)
バドミントンの国際大会は、激動の2021年シーズンを終えた。最後の大舞台は、東京五輪の1年延期によって夏から冬へとスライドした世界選手権。日本は、女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)、男子ダブルスの保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)がともに初優勝。混合複の渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)が初の銀、山下恭平/篠谷菜留(NTT東日本)が初の銅、女子ダブルスで3連覇を狙った松本麻佑/永原和可那(北都銀行)が銅メダルとなり、計5つのメダルを獲得した。
振り返れば、ジェットコースターのような1年だった。コロナ禍で大会が少なかった上半期にトップ選手が出場した大会は4つ。ゆっくりと静かに東京五輪というヤマへ向かった。しかし、五輪が終わると、一転して超過密日程となった。延期されていた大会を一気に消化するカレンダーで、日本代表は9月から3カ月の長期遠征で8大会に参加。夏の東京五輪は、渡辺/東野が獲得した銅1個のみだったが、下半期は多くのメダルを獲得した。
山口は、男女混合団体のスディルマン杯、女子団体のユーバー杯で東京五輪の金メダリスト陳雨菲(チェン・ユーフェイ=中国)を2度破り、日本のエースとして活躍。個人戦では欧州2大会(デンマークOP、フランスOP)で連続優勝を飾った。世界選手権の決勝では、持ち味のフットワークと多彩なショットで東京五輪の銀メダリスト戴資穎(タイツーイン=台湾)をストレートで撃破。「世界選手権という大きな大会で勝てたことは、これからどんどん自信になっていくのかなと思う。今年の後半は特にたくさん試合があって、プレー面でも、精神的な部分でも、感じることは多かった。来年以降に自分なりにつなげて、より成長できたらと思う」と手ごたえを語った。
混合ダブルスの渡辺/東野は、安定して実力を示した。個人戦出場6大会すべてでメダル(金2、銀3、銅1)を獲得。年間成績上位者が出場するワールドツアーファイナルズ(以下WTF)と世界選手権では、初の銀。東京五輪の銅メダル獲得で自信がついたという東野は、前衛で鋭い攻撃を連発。後衛で得意のドロップショットを駆使した渡辺は、タフな1年を振り返り「コンスタントに成績を残せたことに一番、手応えを感じている。連戦だったので、フィジカル面がもう少しだったかなとは思っているけど、できる限りのことはできたかなと思う」と話した。
保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)
山口、渡辺/東野は、東京五輪の日本代表だが、新たに台頭する選手も現れた。筆頭は、男子ダブルスの保木/小林だ。19年の世界選手権で銀メダルを獲得しているが、成績が安定しないのが課題だった。しかし、21年下半期は、目覚ましい活躍を続けた。スディルマン杯と男子団体トマス杯では、東京五輪で銅メダルを獲得したアーロン・チア/ウーイック・ソー(マレーシア)に2勝1敗と互角以上に渡り合った。保木は、彼らに勝利できたことが自信になったという。個人戦では、デンマークOPで優勝。東京五輪で金メダルの李洋/王斉麟(リー・ヤン/ワン・チーリン=台湾)も撃破した。さらにインドネシアOPも制すると、最後はWTF、世界選手権も続けて優勝。世界にその名を轟かせた。小林は「以前は、何回も自分が決められたり、それが保木のプレッシャーになって(カバーを意識するあまり)取れない球が多かった」と改善点を明かした。タン・キムハーコーチの下、代表チーム練習後に約1時間、レシーブの個人練習を積んできた成果を感じ取っていた。
ただ、タフなシーズンを戦い抜いて結果を得た選手の活躍は素晴らしいが、各国の足並みが揃わず、各大会の評価が難しい部分もある。シーズン序盤は日本がタイの3大会を欠場。中国は、コロナ禍以降にフルメンバーを派遣したのは五輪、団体戦、世界選手権のみ。インドネシアは、12月の世界選手権を欠場した。五輪以外の個人戦は、いずれも「どこかの国がいない」大会ばかりだった。
また、シーズン後半は連戦の疲労が明らかで、負傷離脱者も多かった。世界選手権の直前に行われたWTFでは、男子シングルスで同じ組の桃田賢斗(NTT東日本)、ラスムス・ゲンケ(デンマーク)がともに初戦で棄権。4人で2枠を争うグループラウンドで自動的に準決勝進出者が決まる展開となった。桃田は11月のインドネシアマスターズで、交通事故にあった20年1月以来1年10カ月ぶりの優勝を味わったが、腰痛を理由にWTFを途中棄権。3連覇がかかっていた世界選手権も欠場した。21年下半期は、多くの国際大会が行われたが、観衆を魅了するパフォーマンスに必要なコンディションの維持がなされなかった。コロナ以前のように、定期的に健全な競争を展開するツアーは、蘇っていない。
それでも世代交代は進んでいく。男子シングルスでは、24歳のロー・ケンイゥ(シンガポール)が世界選手権で初優勝。初戦で東京五輪王者のビクター・アクセルセン(デンマーク)を撃破し、一気に頂点へ駆け上がった。女子シングルスでは、19歳のアン・セヨン(韓国)がWTFを優勝して世界ランク4位まで上昇。女子ダブルスでは、日本勢3番手の世界ランクを持つ志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)も活躍した。志田がスディルマン杯で負傷して出遅れたが、インドネシアマスターズ、インドネシアOPで連続優勝。WTFでも準優勝と躍進した。初出場の世界選手権は、優勝した陳清晨/賈一凡(チェン・チンチェン/ジャ・イーファン=中国)に敗れて8強止まり。志田は「結果が出てきて手ごたえをつかむところもあり、成長した1年と素直に思う。来年は世界ランク5位以内に入って、日本の一番手になれるように頑張っていこうと話している」とシーズンを振り返った。
元々、五輪イヤーは、多くのトップ選手が夏にピークを迎えるため、シーズン後半は活動は抑え気味になり、若手が一気に台頭する。日本は、男子ダブルスの遠藤大由(日本ユニシス)、園田啓悟/嘉村健士(トナミ運輸)が東京五輪で代表活動を引退し、保木/小林が台頭してきた。中国勢のように五輪後はあまり動きのない選手もおり、女子シングルスの奥原希望(太陽ホールディングス)も東京五輪後は国際大会に出場していない。女子ダブルスの福島由紀/廣田彩花(丸杉)は、右ひざを負傷した廣田の復帰待ちで五輪以降、ペアでの試合ができていない。松本/永原は世界選手権で復帰したが、永原は痛めている右肩がまだ本調子ではない。今後は、国内外の実績ある選手が戦列復帰する流れと、現在躍動している若手がさらに実績を重ねていく流れが重なっていくことになる。
22年夏には、東京で世界選手権が行われる。大会が継続して行われれば、東京五輪を経てさらに進化する選手、新たに台頭する選手の融合で、24年パリ五輪の風景が少しずつ見えてくるだろう。本来は同じ年に行われない五輪と世界選手権、スディルマン杯とトマス&ユーバー杯がすべて1年で行われ、個人戦ではトップ選手が揃わない大会が続く混沌としたシーズンで見えてきたのは、その変化の序章だ。東京五輪という大きなヤマを越えて、新世代の光が見えてきた。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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