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2020年東京五輪の前年を締めくくる大会で明らかになったのは、桃田が依然として世界最強であることと、伝統国の中国が確実に追い上げを見せていることだった。15日に閉幕したバドミントンの国際大会BWFワールドツアーファイナルズにおいて、日本勢はすべての種目で準決勝に進出し、男子シングルスの桃田賢斗(NTT東日本)が優勝。女子ダブルスの松本麻佑/永原和可那(北都銀行)と男子ダブルスの遠藤大由/渡辺勇大(日本ユニシス)が準優勝となった。各種目の年間成績上位8人(8ペア)のみが出場するため、初戦からハイレベル。日本代表を率いる朴柱奉ヘッドコーチは「(3種目で出場した)決勝戦は、桃田選手しか勝てなかったのが残念で、もう1つ勝てれば良かった。ただ、この大会は最初から相手が強くて厳しい。全種目でベスト4以上に進めて良かった」と評価した。
桃田は、王者としての底力を示した。見応えがあったのは、劇的な逆転勝利を見せた決勝戦だ。相手は、戦う度に激闘を演じている好敵手のアンソニー・シニスカ・ギンティン(インドネシア)。桃田は、第1ゲームを落とした後、第2ゲームを苦戦しながら奪い返したが、ファイナルゲームで5-12とピンチを迎えた。中国の観衆は、挑戦者の味方。桃田が追い込まれる度に会場は沸き、明らかに敗戦ムードが漂っていた。ところが、桃田は「相手がいつもと違ってストレートではなく、スマッシュをクロスに逃げて来た。疲れているのか、勝ち急いでいるのか、変化があると感じた」と冷静に相手を分析。焦らず丁寧なショットで質の違いを見せ、7連続得点で追いつくと、終盤は相手をラリーで振り回して勝ち切った。苦境に陥っても勝てる底力は、王者の強さの証明だ。今季は、主要な国際大会で11勝。世界中のファンを魅了して今夏に引退した英雄リー・チョンウェイ(マレーシア)が2010年に挙げた10勝を超え、現代バドミントン界の中心であることを改めて実証した。
また、優勝には届かなかったが、男子ダブルスの遠藤大由/渡辺勇大(日本ユニシス)も存在感を示した。世界ランク1位のフェルナンディ・マーカス・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(インドネシア)を2度破り、長身ペアの前回王者リ・ジュンフイ、リュウ・ユチェン(中国)も撃破した。世界ランクで上にいる園田啓悟/嘉村健士(トナミ運輸)との日本勢対決にも勝利。遠藤は「昨年は守備だけで相手のミスを待つしかなかったが、今年の後半から攻撃に移る形ができている」と進化の手応えを語った。決勝戦も、終わってみればストレート負けではあったが、22-24、19-21と競った内容。準優勝で東京五輪の出場権争いに向けて大きなポイントを獲得しただけでなく、これ以上ない厳しい組み合わせの中で勝ち上がり、東京五輪でのメダル獲得の期待を膨らませる大会とした。
チェン・チンチェン/ジァ・イーファン(中国)
渡辺は、東野有紗(日本ユニシス)と組む混合ダブルスでも準決勝に進出。再戦では敗れたが、世界ランク1位のツェン・シーウェイ/ファン・ヤチョン(中国)と1勝1敗で互角に渡り合った。この種目を牛耳る中国2強からの1勝は価値が大きい。渡辺は「多少、相手にプレッシャーもかかるし、イージーな相手だと思われたくない」と話し、男子ダブルスも含めて「今回は(得られた)五輪レースのポイントも大きいけど、それ以上に得た物がたくさんある」と手応えを持ち帰った。
日本勢の連覇がかかっていた女子ダブルスは、期待値が大きい分、同じ準優勝でも手応えより課題の方が目立つ格好になった。世界選手権2連覇の松本/永原は、予選ラウンドで苦手としている韓国の2ペアと対戦して1勝1敗。予選ラウンドを2位で通過すると、準決勝で福島由紀/廣田彩花(アメリカンベイプ岐阜)に2-1で逆転。力強い勝ち方を見せた。ところが、決勝戦ではチェン・チンチェン/ジァ・イーファン(中国)に良いところなく0-2(14-21、10-21)で完敗を喫した。朴ヘッドコーチも「ちょっと心配。日本勢対決だった世界選手権は連覇しているのに、なぜ、良い試合をできなかったのか。メンタルコントロールが課題。ノーアイデアで動きがバラバラ。プレッシャーに勝てないようでは、試合に勝つのは難しい。良い試合のときに、どんなふうに臨んでいるかを考えてほしい」と好不調の波が激しいパフォーマンスについては、改善を促した。松本は「世界選手権を優勝して、その後もコンスタントに成績を残せているけど、負ける試合は、点数的にあっさり負けてしまうところが今の課題」と外国勢に対して主導権を握れない展開の中での対応策の不足を認めた。福島/廣田は、予選ラウンドで優勝ペアを含む3組に勝利したが、松本/永原には国際大会で4連敗。2週間前に国内で行われた全日本総合選手権の決勝でも敗れており、こちらも対策が急務だ。2組が出場し、準優勝と3位タイの好成績であるにもかかわらず、課題ばかりとなるのは、高橋礼華/松友美佐紀(日本ユニシス)に続く、この種目の日本勢連覇が期待されているためだ。五輪に向けて急速に仕上げてきている中国、韓国勢の成長度に負けずに力をつけていく必要がある。
女子ダブルスは、上記の中国ペアが優勝。女子シングルスも日本の奥原希望(太陽ホールディングス)と山口茜(再春館製薬所)はベスト4で、チェン・ユーフェイ(中国)が初優勝を飾った。中国勢が混合ダブルスと合わせて3種目を制したのは前回と同じだが、特に女子種目で巻き返しを見せた印象が強い。女子シングルスのチェン・ユーフェイ(中国)は、今大会の結果が反映された17日更新の世界ランクで初めて1位に浮上。女子ダブルスも、4月末に五輪レースが始まって以来、日本の福島/廣田と松本/永原の2組がずっと世界ランク1位を取り合っていたが、11月半ばからは中国のエースペアであるチェン・チンチェン/ジァ・イーファン(中国)に1位の座を奪われている。東京五輪のメダル争いという点では、日本は全種目で可能性を持つレベルにあるが、金メダルの争いを意識した場合、やはり伝統ある中国が五輪に向けて確実に力をつけている点は無視できない。2019年を締めくくるBWFワールドツアーファイナルズは、中国勢の仕上がり具合がうかがえる大会だったとも言える。桃田が優勝した男子シングルスでは、負傷離脱していた期間が長く世界ランクが27位まで落ちているシー・ユーチ(中国)も前回大会で桃田を破っている強敵で今後はランキングを上げてくる可能性がある。東京五輪の頂上決戦を見据えると、対中国の試合は、ますます重要性を増すことになりそうだ。
福島由紀/廣田彩花ペア(手前)
写真・文:平野貴也
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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