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後半戦にしてようやく、満を持してエース渡部暁斗(北野建設)が名門のラハティW杯で今シーズン初優勝を遂げた。後続有力選手の追いすがりをはねのける王道の走りだった。アキトはラハティの勢いをそのままに、得意とする次のオスロ・ホルメンコーレンW杯で打倒ノルウェー勢をめざした。
その前後にはノルディック複合W杯最終戦が予定されていたショーナッハ(ドイツ)が雪不足のために中止となっていた。
そのためホルメンコーレン大会(ノルウェー)が急遽、W杯の最終戦になってしまってたのである。
「はなから試行錯誤のシーズンでした。もともと今季は身体を作り直す計画にありました。まずはクロスカントリーをより速くすることを考えていて、もちろんジャンプも遠くへ飛ぼうとしてのパワーづくりを兼ねてでした」
いつも実直な面持ちで、記者会見では丁寧に応える英語堪能な渡部暁斗であった。
今シーズン圧巻だったのはジャンプで首位に立った3月のラハティW杯。
いつもながら荒れて風が難しいラージヒルで、みるみるうちに飛距離を伸ばして、トップでクロスカントリースキーに入った。
そうなると日本チームの外国人ワックスマンのふたりはここぞとばかりに熱くなり、抜群に滑るスキーを仕立て上げた。
それはもう鬼に金棒。レースの酸いも甘いも知る渡部はベテラン選手特有の抜群の駆け引きで試合をメイクしていった。
そこでは後続のオフテブロ(ノルウェー)にすぐにランで追い付かせて、そこから緻密なまでにスパートと流しを折り交ぜながら、後ろから迫るランの強者グラーバク(ノルウェー)やガイガー(ドイツ)らの追い込みを許さず、しっかりと逃げ切っての今シーズン初優勝を遂げたのだ。
後半戦にしてようやく、ノルディック複合の雄アキトここにあり!をしっかりと世界に見せつけた。
3月上旬にはオフとなり日本に帰国してからは、長野でしばらく休養の時期にあて、たまに弟の善斗らと白馬の山々に昇ってテレマークスキーなどに興じ、シーズンの疲れを癒していた。
その彼のクレバーな頭脳は、つねに先にある自分を想定して、そこから逆算の上でのトレーニングと補強練習そしてメンタル強化、記者会見のインタビュー質問に対して、にこやかに応じる英語のブラッシュアップにいそしんでいた。
そういうなかなかの賢人ぶり、さらにはその人柄の良さもあり、ヨーロッパにおける人気もひとしおである。
ウイルスが蔓延して世界の情勢が厳しくなったいま、来シーズンのことなどはまだ何も語ることはできないが、アキトはただおのずの使命と希望を持って邁進を続けている。
海外有力選手では国別対抗優勝を遂げた最強チームのノルウェー、底力があるドイツ、伝統のオーストリア、若手が伸び始めたフィンランド、そしてまとまりある日本の上位争いと競い合いがしばしばみられた。
団体戦不動のアンカー渡部暁斗(ゼーフェルド大会)
その中でもシーズン13勝のW杯新記録を作ったノルウェーのリーベルが格段の輝きを見せて、そこに同僚のグローバグやアンデルセンが続く。それを追撃するドイツではガイガーに勇者フレンツェルと若手のファイスト、はたまたヘロラを筆頭に成長過程にあるフィンランドなどに注目が集まった。一方で強豪オーストリアは今季、チームの足場を固める時期にあてていた。
日本チームでは渡部暁斗と善斗の頑張りと、ベテラン永井秀昭(岐阜日野自動車)による巧みな駆け引き、山本涼太(早大)と山元豪(ダイチ)には若さの勢いがあった。
クロカンランで頑張る渡部善斗(ゼーフェルド大会)
さらに今回のジュニア世界選手権で混合団体3位銅メダルに輝いたアンカー木村幸大(花輪高)が最終の登りで相手を突き放した会心の走り、そして竹花大松(東海大札幌高→土屋ホーム)の抜群のジャンプ力など、来シーズン以降に大きな希望が見えてきた。
●2019/2020 W杯個人総合成績
優勝 リーベル(ノルウェー)1586
2位 グローバグ(ノルウェー) 1106
3位 ガイガー(ドイツ) 917
4位 オフテブロ(ノルウェー) 790
5位 リースル(ドイツ) 658
6位 ビョルンスタッド(ノルウェー) 606
9位 渡部暁斗(北野建設) 449
20位 山本涼太(早大) 184
29位 渡部善斗(北野建設) 82
34位 永井秀昭(岐阜日野自動車) 51
35位 山元 豪(ダイチ) 45
文・写真/岩瀬孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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