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「クワッド・ゴッド」イリア・マリニンが4回転成功で2連覇達成 日本男子はミラノ五輪の出場枠3つを獲得| ISU世界フィギュアスケート選手権2025 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部母国アメリカで世界選手権2連覇を果たしたイリア・マリニン
1位 イリア・マリニン(アメリカ)
孤高のチャンピオン。昨季のGPファイナル以来、無敗で突き進んできたイリア・マリニンが、堂々と、母国アメリカで開催された2025年世界選手権で、大会2連覇を果たした
「クワッド・ゴッド(4回転の神)」は、今大会も当然のように、4回転ジャンプですべてを凌駕した。ショートプログラム(SP)冒頭の4Fは、1本のジャンプだけで15.24点という驚異の完成度。また、今季からジャンプ得点が1.1倍となる後半に組み込んできたコンビネーションは、自己史上最高の出来で、21.05点という凄まじい得点に反映された。
パーソナルベスト(PB)の110.41点は、決してジャンプだけの賜物でもなかった。若き疾走感にあふれる「Running」は、2025年ISUアワード「最優秀プログラム賞」に輝いた作品であり、マリニンはその世界観を全身で表現した。スピードと重力を自在に操る締めのステップシークエンスは、ジャッジ9人中7人が出来栄え点(GOE)満点「+5」で絶賛。演技構成点(PCS)も3項目すべて9点台と、王者にふさわしいスコアが並んだ。
「いつもよりも緊張していたのに、音楽が流れた瞬間、自然と身体が動きました。何もかもがスムーズに進みました。このプログラムの音楽が本当に大好きで、歌詞に共感して……滑りながら大声で歌ってしまいました」
自らが1年前に記録した歴代最高得点の更新こそならなかったが、フリースケーティング(FS)はシーズンベスト(SB)……つまり今季の男子最高208.15点と、まさに規格外の出来だった。
4回転全6種類を組み込み、繰り返し驚異のジャンプ能力を披露してきたマリニンだが、FSはすべてが予定通りにはいかなかった。世界で唯一の4Aは「q(4分の1回転不足)」と判定され、後半に予定していた4Lzからのコンビネーションは、2Lzの単発に。それでも続くコンビネーションで難度を高め、冷静にリカバリーを果たした。4回転6本、特に後半に3本入れるというとてつもなく野心的な試みを成功させることはできなかった。本人としては、今季初めて4Loをクリーンに成功させられたことが収穫だった。
そしてFS「I'm Not a Vampire」は、ステップシークエンスからコレオシークエンスで壮大なクライマックスへ。力強く、ドラマチックに観客の心を揺さぶり、「ラズベリーツイスト」とバックフリップで改めて大歓声を巻き起こした。ステップシークエンスはレベルこそ3に落としたが、GOEは7人が「+5」。コレオシークエンスにいたっては8人が満点をつけ……つまり得点も満点だった!
トータルではやはりSBの318.56点に至り、2位には31点以上もの大差をつけた。ボストンのリンクに星条旗が上がり、開催国アメリカは男女シングル、アイスダンスと3つの金メダルを勝ち取った。
「地元の観客の前で表彰台の頂点に立てて、本当に感激しています。シーズンを通じて練習を重ね、この瞬間を迎えられたことが心から嬉しいです。僕にとっては大きな意味を持ちます。今回達成できなかった部分をさらに磨き、もっともっと成長していきたいと思っています」
2位 ミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)
今シーズンを席巻した「社会現象」が、軽やかに表彰台へ飛び乗った。ミハイル・シャイドロフがとてつもなく大きなパフォーマンスを2つ揃えて、自身初の、そしてカザフスタン男子としては2015年デニス・テン以来となる世界選メダルをつかみ取った。
「信じられません。メダルのことは考えていませんでした。ただベストを尽くし、感動を味わいたかったんです。こんな形でシーズンを終えられるとは想像もしていませんでした。この世に限界はないのだと思いました」
3位で駒を進めたFSで、シャイドロフの凄さは遺憾なく発揮された。昨11月までいまだかつて誰も見たことのなかった3回転アクセルからの4回転のコンビネーションを……12月のGPファイナルでさらにバージョンアップされた「3A+1Eu+4S」を、完璧に決めたのだ!GOE満点を出したジャッジも1人いたほど。たった1つのエレメントで21.53点を叩き出してしまった!
続くすべてのジャンプも悠々と成功させ、そのすべてが、高いGOE加点で評価された。最後はまるで解放されたように、重厚な「月光ソナタ」から底抜けに明るい「テイク・オン・ミー」へと切り替えて、軽やかに舞い踊った。
ノーミスで滑りきり、リンクでガッツポーズを振り上げたシャイドロフは、パーソナルベスト(PB)を塗り替える192.70点がアナウンスされると、キス&クライでも再びガッツポーズ。この1年で22点もPBを更新する大躍進のスコアで、総合でも287.47点とPBを塗り替え2位浮上。2022年世界ジュニアの時と同じように、20歳の今年も、表彰台でマリニンの隣りに並んだ。
「難しいシーズンでしたが、同時に、飛躍の年でもありました。素晴らしいスケーターたちと一緒に表彰台に立つことができて、本当に嬉しいです。自分が正しい方向に進んでいると信じています。この先もただ前進し続けるだけです」
3位 鍵山優真(日本)
「フィギュアスケート大国」のシングル代表選手としての、責任と重圧。自らの表彰台が確定した直後に、すぐさま日本男子の枠数を確認したほど、背負っていたモノは大きかった。シニア国際大会で一度もトップ3入りを逃したことのない鍵山優真は、大いに苦しみながらも、最後にはメダルも五輪3枠もしっかりと持ち帰った。
理想的な形で大会へと滑り出した。SP「サウンド・オブ・サイレンス」は、今季5度目となるノーミス&オールレベル4を達成。冒頭の4T+3Tにはジャッジ9人中3人がGOE満点をつけた。そもそもジャンプで「+5」がつくことは非常に稀で、しかも今大会で他に複数を勝ち取ったのは坂本花織の2AにSP1人・FS2人だけ……だったことを鑑みると、鍵山のジャンプがいかに完璧なものだったかが分かる。SBの107.09点を記録し、鍵山は2位でFSへと向かった。3位には12点以上の大差をつけた。
「緊張せず、会場の雰囲気を楽しむことができた」というSPとは対照的に、FSは「焦り」との戦いだった。徹底的にジャンプに苦しんだ。冒頭の4Fが2回転になり、続く4Sでも着氷が乱れた。予定していた4T+3Tは、4T+2Tにしかできず、後半の4Tでは転倒さえあった。
それでも「3枠」への責任が、鍵山を奮い立たせた。これまでは世界選でも五輪でも頼れる先輩たちに守られてきたが、今回は自分こそが、日本男子としては最も経験豊富なエースなのだ。残るエレメンツをできる限り最後まで丁寧にこなした。特にフラメンコの動きを取り入れた情熱的で力強いステップシークエンスでは、やはりGOE満点を4つもらい、トップの評価を受けた。
努力は無駄にはならなかった。FSだけなら10位と、過去6シーズンで初めての二桁順位ではあったが、トータルでは3位。鍵山自身は出場した4度の世界選すべてで表彰台に上り、日本男子としては11大会連続の世界選表彰台だった。
「自分の演技が果たしてメダルにふさわしいのか……とも考えます。ただ3枠が取れたことにはホッとしています。他の2人がものすごく頑張ってくれたからこそ取れた枠でもあります。今回の経験で、改めて謙虚になる大切さを理解しましたし、もっと自分に自信を持たなくてはいけないとも感じています」
4位 アダム・シャオ・イム・ファ(フランス)
5位 ケヴィン・エイモズ(フランス)
フランス男子が世界選トップ5に2人を送り込むのは、2012年以来初めて。冬季五輪に向け「2枠確定+予選会でさらに1枠取得可能」という最高の結果を持ち帰った。
アダム・シャオ・イム・ファは、SP9位から大きくジャンプアップ。1年前のSP19位から表彰台……という大逆転劇こそ再現できなかったが、FSだけなら3位。しかも男子では唯一、両プログラムともに、ステップやスピンでオールレベル4。ダイナミックでスピード感あふれるステップシークエンスは、今大会でも高いGOE加点を得た。コレオシークエンスではトレードマークとも言えるバックフリップも炸裂。身体能力の高いシャオ・イム・ファらしい魅力を、惜しみなく振り撒いた。
好不調の波に悩まされてきたケヴィン・エイモズは、今回のボストンでは、抑えきれないほどの歓喜を味わった。ジャンプの乱れを最小限に留め、集中力を保ちながら、2本のプログラム――本人曰く「自分の物語」を最後まで丁寧に紡いだ。しかも繊細なスケーティングに、全身を自在に操る柔らかなムーヴメントで、ステップシークエンスやコレオシークエンスでは多くのジャッジがGOE満点「+5」をつけた。PCSでは両プログラムともに3位。2年前の4位に次ぐ好成績を収め、高いポテンシャルを改めて証明した。
6位 佐藤駿(日本)
両プログラムともに、冒頭で、世界屈指の完成度を誇る4回転ルッツを大きく鮮やかに決めると、佐藤駿はすばやく演技の波に乗った。
SPでは続くコンビネーションで軽いミスもあった。1本目の着氷で氷に手をつき、2本目が2回転にしかできなかったのだ。「フリーでは絶対に修正する」と誓った通り、FSではその4T+3Tをしっかり成功。ただ4Fにエッジエラーがあり、4Tでは惜しくも転倒で減点1に。それでも「ジャンプを失敗しても大きな声で応援してくれる」観客の後押しを受け、特にFS後半はクリーンにまとめあげた。
日本男子として唯一4Lzと4Fを飛んだ佐藤は、ジャンプのみならず、スケーターとしての総合力の高さも示した。SP「ラヴェンダーの咲く庭で」は、指先まで意識の行き届いた演技で、エレガントな魅力を大きく開花させた。またFS「Nostos」では、ステップシークエンスからコレオシークエンスの流れで、勇壮かつスケールの大きなクライマックスを演出した。
FS後に何度も振り上げたガッツポーズが、佐藤の強い思いを雄弁に物語っていた。四大陸やGPファイナルですでに表彰台に立ってきたきた実力者は、初出場6位という誇らしい結果を残した。
「始まる前はすごい緊張していましたが、最終的にはスケートを楽しめましたし、ベストを尽くすことができました。無事に終えられてホッとしていますが、なにより一皮むけたように思います。死に物狂いで練習してきたことが報われました。来季にむけて、自分にとってプラスになる大会となりました」
21位 壷井達也(日本)
生まれて初めてのシニア世界選手権。これまで体験したことがないほどの緊張を感じながらも、壷井達也は2本のプログラムを全力で演じ切り、21位で大会を終えた。
SPもFSも、4回転サルコウに苦しんだ。特にSPで2回転ノーバリューとなったのは痛かった。このミスが大きく響き、結果は24位。FSに進出できる24人の枠の中で、最後の1人として、なんとか通過を果たした。また第一滑走者としてリンクに立ったFSでも、やはり4S転倒からのスタートだった。
それでもSP「アランフェス」では端正かつ優雅な滑りで、観客を魅了した。「ショートでのミスを取り戻すつもりで」戦ったというFS「道化師」も、魂を揺さぶるようなドラマチックな演技を見せた。
「初めての世界選は、残念な結果に終わってしまいました。技術や滑りのレベルを上げるために、さらに練習を積んで、しっかり演技に磨きをかけていきたいと思います」(壷井)
また日本男子は、来シーズンのミラノ五輪に向け、最大枠の「3」を獲得。各国上位2名(鍵山3位、佐藤6位)の順位合計が「13」以内となり、しかも壷井を含む日本男子3人全員でFS進出を果たしたからこそ、勝ち取れた3枠だった。
ジェイソンがくれた至福の時
ジェイソン・ブラウン(アメリカ)は改めて、至高のスケーティングと優れた芸術性の融合を成し遂げた。特にFS「Spiegel im Spiegel」では、一本の弦楽器の奏でる「音」と化し、氷の上に細く伸びやかな線を描き上げた。FSだけなら4位の高得点。4回転を跳ばないブラウンが、1つ1つのエレメントを、心を込めて美しく積み上げた成果だった。またマリニン(1位)とブラウン(8位)の順位合計で、アメリカ男子も五輪3枠を確定させている。
総合7位のジュンファン・チャ(韓国)は、シーズン前半に怪我に苦しみながらも、力強くシーズンを終えられたことに満足する。中でもISUアワードの「プログラム賞」と「コスチューム賞」にノミネートされたFSは、情熱的かつ官能的なパフォーマンスで、会場を陶酔させた。
間違いなく躍進のシーズンとなったニカ・エガーゼ(ジョージア)は、初めて世界選FSで最終滑走グループに登場し、初のトップ10入りを果たした。振り付けを改良して臨んだFSでは、PBを5点近くも更新した。
文・JSPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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