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ブリッチギーがスイス勢として2011年以来の欧州制覇「表彰台の最上段なんて夢に見たことさえなかった」 | ISU欧州フィギュアスケート選手権2025 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部スイスにとっては2011年以来の欧州タイトルをつかみ取ったブリッチギー
SPショートプログラムからすでにサプライズ含みだった。FSフリースケーティングでは、予想をはるかに超える順位の入れ替えが待っていた。ルーカス・ブリッチギー(スイス)がSP8位から頂点へと一気に駆け上がり、自身にとって初めての、スイスにとっては2011年以来の欧州タイトルをつかみ取った。
「正直に言えば、表彰台の最上段なんて、今まで夢に見たことさえありませんでした。僕にとっては思いがけず訪れた優勝です。なんと言うべきか分からないのですが……とにかくハッピーです」(ブリッチギー)
ディフェンディングチャンピオンのアダム・シアオ・イムファ(フランス)は、負傷からの復帰戦ながら、93.12点の得点で堂々SP1位につけた。「軽めの構成で臨む」と宣言しつつも、1本の予定だった4回転を、本番では2本飛んだ。ただ2位との差がわずか1.18点だったことなど、気にしなかった。むしろ演技を心の底から楽しめたことの方を喜んだ。
「自分の調子がいまだ100%でないことは分かっています。だから今大会は順位よりもパフォーマンスに重きを置いています。そういう意味で、今日の演技には満足です」(シアオ・イムファ)
SP2位につけたのは、2本の4回転を含む3つのジャンプ要素をすべて完璧にこなしたニカ・エガーゼ(ジョージア)。またGOE加点3.46という鮮やかな4回転サルコウを決めたウラジーミル・サモイロフ(ポーランド)が、PBパーソナルベストでSP3番手に飛び込んだ。
2人にとっては、生まれて初めてのISUチャンピオンシップスモールメダルだった。もちろん前者は今季GPアメリカ大会SP3位に、後者は昨ユーロでFS5位に食い込み、ジャンプ能力の高さでは知られていた。そもそも今回のSPのTES技術点だけなら、エガーゼが断トツ首位。一方のアダムは、PCS演技構成点で圧倒的な違いを見せつけた。
そのPCSがケヴィン・エイモズ(フランス)を救った。ジャンプでノーバリュー1、転倒1と絶望的なミスを犯し、TESは30位に沈んだが……PCSだけなら2位。持ち前の稀有な芸術性のおかげで、SP18位と、2年連続SP落ちの不幸はかろうじて免れた。FSでも転倒3回と苦しんだが、ステップ&コレオシークエンスは全体1位と素晴らかった(総合22位)。
PCS3位にはブリッチギーがつけた。技術的には失敗もあった。冒頭の4Tでステップアウトした上に、氷に手をついた。ジャンプコンビネーションでは2本目に2回転しか入れられなかった。ただ世界中の手話やジェスチャーを取り入れた興味深いプログラムと、力みのない大らかな表現力とが、高い評価を受けた。
SP終了の時点で、首位シアオ・イムファと8位ブリッチギーの間には、10.22点もの差があった。表彰台までは3.08点差と射程圏内だったが、目の前には、3位サモイロフから、4位マッテオ・リッツォ(イタリア)、5位ニコライ・メモラ(イタリア)、6位ミハイル・セレフコ(エストニア)、7位アレクサンドル・セレフコ(エストニア)までの5人が1.28点差でひしめいていた。
「アタックあるのみ。SPで少し出遅れたので、僕にとっては、これ以外の選択肢はありませんでした。とことん楽しみましたし、自分のベストを披露できて誇らしく思います」(ブリッチギー)
初めて欧州表彰台に上がった2年前や、世界選FSで堂々4位に食い込んだ昨季よりも格段に難しい構成で、FSのブリッチギーは果敢に攻めた。冒頭のコンビネーションこそ2本目が2回転に留まったが、ジャンプ自体は文句なしの出来。続く4回転トーループで完成度はさらに増した。プログラム通して唯一のミスは、最後の3回転フリップで軽く着氷が乱れただけ。採点表にqや!などの記号は一切つかなかった。
なによりスケート界屈指の踊れるショーマンは、FS「Lux/Deeply/Aero」の壮大な世界観を思う存分披露した。アリーナいっぱいの観客の暖かい歓声と手拍子に乗って――どの国の選手にも分け隔てなく応援の声が降り注ぐ、素晴らしい大会だった――、あらゆるエレメンツを魅力的にこなした。中盤のスピンでレベルを1つ落とした以外、残りはすべてレベル4でまとめた。
「忘れられない夜になりました。氷上に立った瞬間、観客が僕を応援してくれている様子を目にして、鳥肌が立ちました」(ブリッチギー)
FS184.49点を叩き出し、PBを一気に3.51点も伸ばした。総合は267.09点でシーズンベストを更新。当然のように、暫定トップ3だけに許されるグリーンルームの、ど真ん中に座った。しかも、その後1時間以上も、ブリッチギーは同じ場所に居続けることになる。とうとう最後まで、首位の座を譲り渡すことはなかった。
残念ながらセレフコ兄弟は、いずれもジャンプに苦しんだ。昨ユーロ2位の兄アレクサンドルは、FSでは4回転が1つも決まらなかった。弟ミハイルはFS冒頭で目が覚めるような4回転ループを飛んだが、その後の失敗があまりに多すぎた。それぞれ9位と7位で母国での大会を終えた。それでもシャープかつ繊細、独特な存在感を放つ兄弟のパフォーマンスに対する評価は、間違いなく高まっている。兄はSPで、弟はFSで、PCSの自己ベストを更新した。
昨季から持ち越しのプログラムを感情たっぷりに演じ、わずか0.3点差の4位でSPを折り返したリッツォは、新しく作ったばかりのFSでは、転倒や回転不足に悩まされた。総合では一歩後退し5位。3年連続4度目の欧州表彰台乗りは果たせなかった。ただ完全には成功させられなかったとはいえ、1年前の手術以降初めて、FSに2本の4回転ジャンプを組み込んだ。完全復活の日も遠くはあるまい。
3年前のユーロ銀メダリスト、ダニエル・グラッスル(イタリア)は、厳格な審判に泣かされた。両プログラムともに今大会最難関構成で果敢に挑みながら、特にFSでは、ジャンプ7要素中6つに様々な違反記号がついた。最終結果は総合8位。また欧州男子屈指の表現者でありながら、苦手な4回転にも真正面から取り組み続ける元欧州3位デニス・ヴァシリエフス(ラトビア)は、SP12位から総合6位へ大浮上。決して完璧ではなかったが、4回転サルコウを堂々と2回着氷し、FS4位の好成績だった。
エガーゼとサモイロフは、SPの衝撃を再現できなかった。シーズン序盤の4回転4本の攻める構成から、今回は3本で堅実に立ち向かったはずのエガーゼは、結局は1本しか飛べなかった。今季GP大会で4位×2回に泣き、今欧州も4位で終えた。サモイロフは4回転2本前半+1本後半に挑戦するも、文句なしに着氷できたのは1本だけ。SP3位から総合10位に陥落した。
「表彰台確保が不可能なことは分かっていましたが、やるだけのことはやりました。良い経験でした。今大会の成果は、僕にとっては大きな進歩です。SPでスモールメダルを獲得できたことだけでも、信じられないことなのです」(サモイロフ)
誰一人としてブリッチギーのFSの得点を超えられなかった。順位が激しく乱高下する中で、メモラが銀メダルの位置に食い込んだ。FSだけで一気にPBを16点以上塗り替える、卓越した出来だった。トータルでも約9点半の伸びを見せた。
まずなによりメモラは、長身を活かしたダイナミックな4回転ルッツ×2本で、見る者たちの度肝を抜いた。1本目は、SPと同じく、小さな「!」がついたが、2本目はGOE3.78点という凄まじい加点を得た。15点超の要素を3つも揃えたのも、快挙に近かった。相変わらずスピンは苦手なままで、SPに続き、FSでも、すべてでレベルを取りこぼした。
「メダルを目指して乗り込んできましたし、それが可能だとも分かっていました。FSは4回転を1つ加え、いつも以上に難しい構成で臨みました。そして僕はやり遂げたんです!もちろん他選手のミスのおかげですし、僕にはまだまだ上達すべき点がありますが、目標達成が嬉しくてたまりません」(メモラ)
元ジュニアGPファイナル王者のメモラにとっては、シニアで初めてのISU選手権表彰台乗り。イタリア男子にとっては4年連続の欧州選メダルであり、しかも今大会はトップ8に3人全員を送り込んだ。
たくさんの順位が入れ替わり、シアオ・イムファもまた、例外ではなかった。2年間守った頂点から退き、銅メダルを持ち帰った。
4回転ルッツは回避し、4回転3本だけ……と、FSもやはり「軽めの」構成で臨んだ。ところが冒頭の4回転トーループで氷に膝をつき、予定していた2本目をつけられなかったのをきっかけに、シアオ・イムファは苦戦を強いられた。中盤の3回転アクセルでもステップアウトでコンビネーションにできず、さらにもう1度4Tからのコンビを試みたが、着氷が乱れて先に繋げられなかった(繰り返し違反も取られた)。なんとか最終盤に連続ジャンプを2つねじ込むことで、プログラムとしての体裁は保った。
そうはいっても得意のバックフリップは炸裂したし、すべてをレベル4でまとめ上げたのはさすが。
「故障明けというのを言い訳には使いたくありません。ただ練習期間が4週間しか取れなかったのは、十分ではありませんでした。だからメダルを獲れたことだけで嬉しいんです。本調子に戻すために、ひたすら練習です」(シアオ・イムファ)
こうして長く波乱に満ちた1日の終わりに、ブリッチギーに金メダルがもたらされた。世界選2勝のステファン・ランビエールさえも、欧州では銀3回止まりだったから、スイス男子にとってはつまり、1947年以来となる欧州選手権制覇だった。
「正直に言うと、他のみんなが最高のスケートをするよう願っていました。でも結果に関しては、自分の力が及ぶものではないことも分かっていました。残念ながら僕より後に滑った7人全員が、全力を出しきれませんでした。少し悲しくて、複雑な気持ちです。だってみんな僕の友人であり、いつだって彼らの幸運を願っているからです。でも、うん、僕個人にとっては素晴らしい成果ですし、本当に嬉しいです」(ブリッチギー)
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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