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アダム・シャオイムファがフランス男子として60年ぶりの快挙「初優勝のときとは異なる嬉しさ。最高の気分だ!」 | ISU欧州フィギュアスケート選手権2024 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部アダム・シャオ・イム・ファ(撮影:ISU 世界フィギュアスケート選手権大会 2023)
優勝大本命が、表彰台の最上段をきっちり射止めた。ショートプログラム、フリースケーティングともに首位に立ち、2024年フィギュアスケート欧州選手権の男子シングルで、アダム・シャオイムファ(フランス)が連覇を達成した。
「すごく嬉しい。初優勝のときとは、異なる嬉しさでもある。タイトルを防衛することのほうがもっと難しかったし、ストレスも大きかった。十分なリードをつけられたと分かっていたけれど、実際にこうして勝つことができて、最高の気分だ」
勝つために、安全策には走らなかった。SPでは冒頭の4回転ルッツで着氷が乱れ、両手を氷についた。12月のグランプリファイナルSPでも失敗し(2回転ノーバリュー)、メダル争い脱落の直接的原因となったジャンプだ。ただ、昨季まで組み込んでいた4回転サルコーに戻すという選択肢は、シャオイムファの中にはなかったという。今季の始まりに「4回転ルッツを完璧にする」という目標を立てた。どんなに疲れていても、毎日15本近く練習で飛んできた。
「ルッツだけでプログラムが構成されているわけではない」と、すぐに気持ちを切り替えた。コンビネーションジャンプの2本目こそ2回転にとどまったものの、残す要素はすべてクリーンにまとめた。もちろん今季のグランプリシリーズ・フランス大会でのパーソナルベスト101.07点には遠く及ばない。参加全32選手の中でトップスコアのSP94.13点を記録し、シャオイムファは首位で大会を折り返した。
全参加選手中ただひとり4回転4本構成で臨んだFSでは、4回転ルッツは無事に成功させた。ただ4回転トーループで転倒があり、4回転サルコーでも軽く着氷が乱れた。それでも演技後半に入り、ステップシークエンスが伸びやかに氷上に軌道を描き出すと、もはやシャオイムファの優勝は揺るぎないものになっていた。ブノワ・リショーの創り上げる独特で不可思議な世界観と、肉体の躍動、そして激情のほとばしりは、見るものの心をつかんで離さなかった。
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【宮原知子見所解説】全米フィギュアスケート選手権2024
コレオシークエンスに差し掛かり、まさにトレードマークとも言えるノーハンド側転が、会場をわかせた直後だった。シャオイムファは、突如として、バックフリップを飛んだ。
「予定していたわけじゃない。気分が良かったし、やれるだけの体力も残っていたから、観客の皆さんのために飛びたかった。僕自身も楽しかった」
いわゆるバク転は、現行の競技では禁止されている。当然、ルールに則り、2点の減点が課された。
「何点か失うだろうことは分かっていた。でも僕らのスポーツを発展させるために、このエレメントを再び取り入れてもらうために、どうしても僕はプッシュしたかった。将来的には、もっとたくさんのスケーターが、色々な新しい要素に挑戦するようになるんじゃないかな。おそらく僕らのスポーツに、なにか新しいものをもたらしてくれるだろう」
2点を失ってもなお、FS2位マッテオ・リッツォ(イタリア)に11.60点の、トータル2位のアレキサンドル・セレフコ(エストニア)に19.18点の大差をつけた。シャオイムファはFSで182.04点、トータルで276.17点を叩き出し、フランス男子としてはブライアン・ジュベール(3勝)以来となる欧州選手権複数回優勝を遂げた。連覇にいたっては、1964年以来となる、60年ぶりの快挙だった。
フランスにとって嬉しいニュースばかりではなかった。今季は人生2度目のグランプリファイナル進出も果たし、シャオイムファと共に表彰台乗りが期待されていたはずのケヴィン・エイモズが、FS進出を逃した。
グランプリファイナル、フランス選手権と、FSで大きく崩れたエイモズだが、今回はSPから苦しんだ。ジャンプの3要素はいずれもノーバリューか、もしくはGOE(出来栄え点)がマイナスで、スピンさえも1つは0点。渾身のステップシークエンスだけは全体で2位の高い加点が与えられたが、巻き返すことはもはや不可能だった。32人中31位で、大会を去った。
4年前にもエイモズは欧州選手権で失意を味わっている。初めてのGPファイナルで3位に入り、優勝候補として乗り込んだ2020年大会、やはりSP敗退を喫した。今回の不調が、身体的なものなのか、精神的なものなのか、明らかにはなっていない。ただあの絶望から立ち直り、怪我のせいで苦しんだ五輪シーズンを乗り越え、昨春ついに世界選で自己最高の4位に入ったエイモズは、2度目の再起を誓う。「これは何かの終わりではなく、より美しいものの始まりにすぎない」と、インスタグラムで語ったように。
エストニアとセレフコ家にとっても、明暗は大きく分かれた。昨ユーロで8位と、エストニア男子史上最上位(当時)に食い込んだだけでなく、待望の2枠――初めて兄弟揃っての欧州選出場が可能になった――を持ち帰った弟ミハイルが、まさかのSP落ち。ジャンプの必須3要素すべてにミスがあり、FS進出の24位以内には入れなかった。一方で兄のアレキサンドル・セレフコが、パーソナルベストの演技を2本揃えて、エストニアに史上初めての欧州選手権メダルをもたらした!
「弟のことを心配しながら見守っていたけど、残念ながら、彼にとってはすべてが上手くは行かなかった。でも弟は鍛錬を続け、この先もっと良い成績を上げられると確信してる。今日の失敗から学び、次回はさらによくなるはずだ」
アレキサンドルの銀メダル獲得は、たしかに予想外ではあったかもしれない。ただ決して衝撃でもなかった。むしろ、22歳にして、ついに覚醒の瞬間が訪れたのだ。
大きな4回転トーループで、セレフコ兄はSPを好発進させた。勢いに乗って続く3回転アクセルもきれいに決めると、後半のコンビネーションジャンプも問題なくクリア。90.05点という得点は、ほんの1カ月前にゴールデン・スピンで出したPB83.58点を6.47点も上回る好スコアだった。第3グループでの滑走だったせいで、残す3グループの成り行きを約2時間半も見守る必要があったけれど、終わってみればセレフコ兄はSP3位につけていた。
「本当にびっくりしてる。すべてを決めれば可能だとは分かっていたけれど、それでも僕にとっては、大きな驚きだ。フリーではあまり高望みせず、すべてのエレメンツをしっかりこなし、ベストを尽くしたい」
母国で開催された2020年世界ジュニアでは、メダル圏内まで0.63差のSP4位で折り返しながら、FSでジャンプに苦しみ9位に沈んだ。翌年は自らの力でエストニア男子に2大会ぶりの五輪出場枠をもたらし、国内選3連覇で文句なしの五輪出場権をつかみ取ったが、現地での練習中に肩を脱臼し全力を出せなかった。しかし、今回こそ、アレキサンドル・セレフコはやり遂げた。
本人としては、FSは「それほど上手くはできなかった」。3回転アクセルを含むコンビネーションを2つ予定していたが、うち1つが2回転にとどまったことを悔しがる。
そうは言ってもFS冒頭の4回転トーループは、GOE+3.26点という凄まじい完成度だった。たとえ回転数は望み通りではなくとも、7つのジャンプ要素はすべてノーミスでこなした。さらには元アイスダンサーのタービ・ラントの下で磨き上げてきたというというスケーティングスキルや、氷上でのプレゼンテーション能力を、遺憾なく発揮した。重厚かつ繊細なステップシークエンスに、まさに全身全霊を解き放ったようなダイナミックなコレオシークエンス。特にコレオは参加者全体で最高の評価を得た。
「メダルのことは考えずに滑った。だって僕にとってはクレイジーなことだから。でも今日、僕はやったんだ。とてつもない驚きだ。自分が今どう感じている
のかもわからないし、自分がどうやってやり遂げたのかさえ分からない」
SPに続いて、アレキサンドル・セレフコはFSでもパーソナルベストを9.06点も塗り替えた。トータル256.99点は、やはり自己最高記録から一気に18.57点も上昇した。SP3位でエストニア選手として初の欧州スモールメダルを手にしただけでは終わらず、FSも3位につけ、トータルでは堂々2位。本人にとってはもちろん、ともに切磋琢磨する兄弟にとっても、過去5年間で4度のISUチャンピオンシップを開催し(うち1度は大陸を超えて受け入れてくれた四大陸選手権!)、2026年にも世界ジュニアを開催予定とフィギュアスケート文化が順調に花開きつつあるエストニアにとっても、輝かしい成果だった。
「これほど重要な大会でメダルを獲得できたことは、とてつもなく名誉なこと。これ以上、なにを言うべきなのか分からない。ただ、今は、ひたすら嬉しい」
2026年冬季五輪の開催国であるイタリアは、2年連続で全参加国中最多のメダル4個を獲得。男子シングルでもトップ10に3選手を送り込むという素晴らしい成功を収め(ガブリエーレ・フランジパーニ4位、ニコライ・メモラ10位といずれも自己最高位を記録)、中でもマッテオ・リッツォが、自身にとって2年連続3度目の表彰台乗りを果たした。
実力通り、と単純に言うことなど許されない。右腰に痛みを抱え、年末の国内選手権は欠場を余儀なくされ、トレーニング時間がわずか3週間程度しか持てなかった上に、この欧州選手権直後には手術を控えている……そんな複雑な状況の中で、リッツォは勇敢に戦い抜いた。
SP冒頭で4回転トーループがすっぽ抜け、2回転ノーバリューとなろうとも、決して気持ちを切らさなかった。以降はあらゆる要素をクリーン&レベル4でまとめ上げ、とりわけ軽やかで流れのあるアクセルは、全参加者中トップのGOEで絶賛された。しかもSPを6位で終えた時点で、表彰台まで約10点差と遠くても、リッツォはメダル争いを諦めないと宣言した。「だってこのスポーツでは、なんだって起こり得るのだから」と。
長い完全休養に入る前の、間違いなく今シーズン最後の演技で、リッツォは凄まじい底力を見せつけた。軸の細いきれいな4回転トーループで、FSへふわりと飛び込むと、次々とジャンプを成功させていった。調整不足による疲労がたたり、プログラム最後のジャンプ(3回転アクセル)だけは惜しくも転倒したが、最後までその雑味のない端正な滑りを貫き通した。
FSだけなら2位の好演技は、望みどおりにリッツォを表彰台へと押し上げた。ドクターには「これ以上悪くなりようがない」と宣告されながらも、欧州選を家のテレビで見ていたくなんかない……と強い覚悟で手に入れた、銅メダルだった。
「自分の下した決断に満足してる。僕らは正しい選択をしたんだ。2週間後には手術を受ける。ドクターからは5カ月以内には良くなるだろうと言われてる。だから次のシーズンは大丈夫だろう、と。来年また戻ってくるよ」
残念ながらFS最終滑走のルーカス・ブリッツギ(スイス)は、ジャンプのミスが相次ぎ、SP2位から総合5位へと順位を下げた。ただしSPはノーミスかつ素晴らしいエンターテイナーとしての才能をのびのびと披露し、1年前の欧州銅メダルが決して偶然などではなかったことを改めて証明した。2年前の銅メダリスト、デニス・ヴァシリエフス(ラトビア)は、今回は6位に終わった。美しいスピンや表現力だけに甘んじず、4回転サルコーに果敢に挑み続けた果ての、前向きな後退と言ってもいい。
そしてイワン・シャムラトコ(ウクライナ)の、2本のプログラムは、静かに、深く、重く、私たちの胸に響いた。ウクライナの現実を知ってもらいたい。練習拠点をキーウに戻した22歳は、こう訴える。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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