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フィギュア スケート コラム 2023年10月12日

「チャーリーに捧ぐ」作品解説 | 町田樹のスポーツアカデミア 【Archive:フィギュアスケート・ザ・マスターピース】 エチュードプロジェクト徹底解説

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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町田樹のスポーツアカデミア

町田樹のスポーツアカデミア

皆さん、スポーツアカデミアへようこそ。シーズン4の第2回目となる今回は【Archive:フィギュアスケート・ザ・マスターピース】をお送りいたします。この番組では、競技成績だけでは語りきることのできないプログラムの美質や魅力について徹底解剖していきます。

実は、私は、今年の7月にエチュードプロジェクトという新しい試みを始めました。このエチュードプロジェクトとは、誰もがいつでもどこでも無許諾で滑ることができるユニバーサルアクセスなフィギュアスケート作品を提供するものであり、従来の慣習にとらわれず、共有財としての作品を創作することが趣旨となります。そして、このプロジェクトの第1弾として、私たち制作陣は「チャーリーに捧ぐ」という作品を創作しました。今回の番組では、エチュードプロジェクトの仕組みや理念を徹底解説した上で、この「チャーリーに捧ぐ」というプログラムの醍醐味を語っていこうと思います。

作品解説

エチュードプロジェクトの制度的な仕組みを説明したところで、肝心の作品論に入っていきましょう。私たちはエチュードプロジェクト第1弾として「チャーリーに捧ぐ」という作品を創作し、YouTubeチャンネル上にて公開しました。この作品がどのようなものなのか、そしてこの作品を滑ることで、どのようなスキルを身につけることができるのか。こういった点を解説していきたいと思います。まずは百聞は一見にしかずということで、実際の演技映像をご覧いただきたいと思います。

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《チャーリーに捧ぐ》実演

いかがでしたでしょうか。気に入っていただけましたら、うれしく思います。それでは、このプログラムを鑑賞したり、演技したりする際のポイントをお話しします。実は、本作品は完全なるオリジナル作品というわけではなく、あるアニメ作品を原作とした2次創作となっています。その原作となっているアニメ作品は「she's a good skate charlie brown」。日本語で訳すと「彼女っていい人だね。チャーリー・ブラウン」というタイトルのアニメーション作品になっています。

スヌーピーと深い関係があるプログラム

スヌーピーと深い関係があるプログラム

皆さんはスヌーピーをご存知でしょうか。言わずと知れたキャラクターで、全世界から愛されているわけですが、スヌーピーのアニメーション、あるいは漫画作品の原作者は、チャールズ・M・シュルツさんです。シュルツさんは非常にスケートを愛していて、自身もアイスホッケーの選手として毎日スケートリンクに通うほどスケートフリークだったわけです。そうしたスケート愛が高じて、なんと彼は私設のスケートリンクを建設するまでになります。

そのスケートリンクは今もアメリカのサンタローザというところにあって、名前をスヌーピーズホームアイスといいます。私もいつか行ってみたいと思っているスケートリンクです。そんなスケート愛好家であるシュルツさんが1980年に製作したのがこのアニメーション作品です。これはフィギュアスケートを題材としたアニメーション作品になっています。ストーリーは、スヌーピーにはいろんなキャラクターが出てくるんですけれども、その中にお転婆娘のペパーミント・パティという女性が登場します。彼女がスケーターとなって、スヌーピーコーチのもとで猛練習して競技会を目指すというそういう物語です。

天然結氷した凍てつく池にペパーミント・パティとスヌーピーが毎朝練習に行って、鬼コーチのスヌーピーのもと猛特訓をする訳です。そして、そんなスヌーピーとペパーミント・パティの練習をずっと小さな黄色い鳥であるウッドストックというキャラクターが眺めています。毎日毎日練習を重ねて、ついにペパーミント・パティは競技会本番を迎えることになります。

ところが、競技会本番、名前がコールされて、ペパーミント・パティは氷上に出て、演技のスタートポジションに立って音楽が鳴るのを待っているんですが、この競技会場ではスヌーピーはコーチじゃなくて音響係を務めていて、そのスヌーピーがカセットテープで音楽をかけようとします。しかしながら、カセットテープが壊れてしまって、テープがぐちゃぐちゃになってしまい、音楽が鳴らないというハプニングが起こってしまうわけです。音楽が鳴らないとペパーミント・パティは失格になってしまうわけです。そうした危機的状況を察して、毎朝彼らの練習を見ていて、音楽を暗記していたウッドストックが機転を利かせて、口笛でその音楽を演奏します。それによって危機を逃れたペパーミント・パティは何とか演技を最後までやり遂げることができて、見事優勝を果たしたというほほ笑ましいストーリーになっています。

このアニメーション作品でペパーミント・パティが演技で利用している音楽が、私たちが「チャーリーに捧ぐ」で使っている音楽と同じ、プッチーニの「私のお父さん」ということになるわけです。このアニメーション作品には一つの特徴がありまして、非常にスケーターの演技の動作というものが忠実にアニメ化されているわけです。この当時、まだ人間の身体運動をモーションキャプチャーなどの技術を駆使してとらえ、うまくCGにしたり、アニメーションに落とし込んだりする技術はなかったんですけれども、人間の身体運動をある程度忠実にアニメーションに置き換えるロトスコープという技術があったそうです。

このアニメ作品では、そのロトスコープという技術を駆使して、スケーターの演技映像をアニメに落とし込んで変換したようです。ですので、このアニメーション作品の中では、ペパーミント・パティはジャンプを跳んだり、ステップワークしたり、スピンをしたりと色んなフィギュアスケートの技を展開していくんですけれども、それらが非常に精巧に描かれています。

《チャーリーに捧ぐ》は2つのことに対するオマージュ

《チャーリーに捧ぐ》は2つのことに対するオマージュ

そうしたスケート愛好家であるシュルツさんが創作したアニメ作品を基盤にして創作されたのが、私たちが今回紹介する「チャーリーに捧ぐ」という作品であるわけです。
こうした文化的背景を持つこの「チャーリーに捧ぐ」という作品は、2つのことに対するオマージュを捧げています。

まず、1つ目のオマージュは、スケート文化を愛したチャールズ・M・シュルツさんへの敬愛の気持ちが込められています。先程シュルツさんのアニメーション作品では、ロトスコープという技術を通じて、スケーターの身体運動をアニメーションに変換したという風に説明しましたけれども、このロトスコープによって変換されたアニメーションの動きを、今度は私がリアルなスケーターの身体運動に置き換えるという工夫を凝らして振り付けを創作しました。

そして、2つ目のオマージュについて。皆さんはかつてフィギュアスケート界でトウループジャンプのことをチャーリーと呼んでいたことをご存知でしょうか。私が子どもの頃、1990年代まではトウループという呼び名ではなく、チャーリーと呼んでいたんですけれども、今ではすっかりこの呼び名は死語になってしまって、全員トウループという呼び名で統一されています。

本作「チャーリーに捧ぐ」には、タイトルにもあるように、かつてのトウループの呼び名であるチャーリーという名称に対する旧懐の気持ち、つまり、懐かしむ気持ちも込められています。こうした思いが込められた作品ですので、このチャーリーに捧ぐには2つのジャンプが組み込まれているんですけれども、どちらもチャーリーことトウループを組み込んでいます。

エチュードというのは、冒頭でもお話ししましたように、アーティストを育成する機能を備えています。ですから、本作も教材として利用できる意図を込めて制作しました。では、一体このプログラムがどのようなスキルの習得に資するのか、習作のポイントを2つご紹介します。

次回:習作としての《チャーリーに捧ぐ》2つのポイント

文:J SPORTS編集部

J SPORTS編集部

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