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フィギュア スケート コラム 2023年7月28日

スポーツとジェンダーの問題 | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~ポスト・スポーツの先を見据えて~

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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カナダ・フィギュア界の変化

カナダ・フィギュア界の変化

スポーツ科学の最前線で活躍するフロントランナーたちとの対話を通じて、研究の成果を実践現場に還元していく“Dialogue”(ダイアログ)。今回は成城大学社会イノベーション学部の山本敦久教授をゲストに迎え、これからのスポーツについて議論を展開していきます。

M:近代スポーツが構築してきた当たり前みたいなものを塗り替えていく。そういう観点ですけれども、今、最も話題になっているのはジェンダーだと思います。例えば陸上界ではキャスター・セメンヤさんの性分化疾患。女性の体なんだけれども男性ホルモン量がWorld Athleticsが規定する量よりも上回ってしまったがために、女性カテゴリーで出場できなくなってしまった。今は南アフリカ代表のサッカー選手として種目を変えざるを得なかったという選手がいますけれども、そういうケースを筆頭に、今ジェンダーの問題ってすごくスポーツ界では考えなければいけない問題として認識されています。この点はいかがでしょう。

ジェンダー(性別)二元論

ジェンダー(性別)二元論

Y:最近、ジェンダー平等という言葉が盛んに世の中で言われるようになってきていますけど、男性的なジェンダーと女性的なジェンダー、人間はこの二つのジェンダーのどちらかに振り分けられてきたわけですね。これは古い話じゃなくて、まさにそれが近代という時代に作られた一つの常識、当たり前。ということは非常に人工的に作られたカテゴリーがジェンダーなんですね。スポーツというのは、まさにその近代が二つのジェンダーを作り出して、どちらかというと男性性のジェンダーを持つ人たちが優位な社会を作ってきたわけです。今、その女性と男性に二分化されている、このジェンダーの二分法が、どういう形で常識になっていくのかということがあって、それは学校教育もそうだろうし、様々な場面でそれが常識化されていったんでしょうけど、やっぱりスポーツってすごく大きな役割を果たしてきたと思うんです。

このジェンダー二言論、ジェンダー二分法を当たり前なものにしてきた有力な装置がスポーツだったと思うんですね。当然、男性競技、女性競技と最初から明確に人間をジェンダーで分けて、それぞれで競技を行います。今から200年ぐらい前に、スポーツ競技が作られていった時に、すでに多くのスポーツの競技が男性的な要素とされているものを競い合うように作られていった。ラグビーもサッカーもそうだと思うんですけど、筋肉の大きさであるとか、瞬発力であるとか、骨格の大きさであるとか、そういったものが有意に働くような体の動かし方によって、ゲームが作られ、そのことによって優劣が競い合われるように近代スポーツの多くの競技が設計されてきているわけですよね。そうすると最初からスポーツって実は平等なように見えて、すごく男性的なものが多く発揮されるように最初から競技が作られている。そもそもスポーツって男性中心主義に作られていて、そこにフィットしない人たちを女性とカテゴライズして、男性と女性を分けて競技をしていくんだと。その結果、セメンヤさんのように性自認は女性だと言っても入れてもらえない人たちがいる。だから、この男性性と女性性というこの切り分けを、現代のジェンダーをもっともっと平等に考えていかなきゃいけないという時代に、どこまでスポーツはそのジェンダー二言論にこだわり続けるのか。スポーツが、最後の砦みたいになっている。ここは本当にスポーツの最大の課題かなと思いますね。

スポーツとジェンダーの問題

スポーツとジェンダーの問題

2021年に国際オリンピック委員会はスポーツ界の中で公平性、非差別、多様性を獲得していくためのフレームワークを提示。スポーツ競技会においてこれまで通りジェンダーをコントロールしていくか。それともジェンダーカテゴリーを撤廃するか。この対局にある考え方のどちらを取るべきなのかを議論してほしいという声明を出しました。

M:これを建設的に議論するためには何が必要でしょうか。どういう議論をしたらいいんでしょうか。

Y:今、スタートポイントにようやく立っているところだと思います。150年から200年かけて当たり前なものにしてきたのが、このジェンダー二言論。しかもそれがスポーツの中で可視化されてきたわけですよ。こういう体つきが男性的だよね。こういう体つきや、こういう身振りが女性的だよね。そのカテゴリーが当たり前だって思えるように200年やってきたものを、「はい、明日から」というわけにはいかなくて、すごく時間がかかると思うんですよ。そういう意味でも、ジェンダーをこれからどう考えていくのかというのが、ようやく議論の訴状に上ったというのかな。いきなりは変えられないけれど、長く作ってきた、この当たり前を少しずつ変えていくための議論の入り口を、私たちは作っていかなきゃいけないのかなと思いますね。

M:実は我が領域であるフィギュアスケート界もそこに取り組んでいて、カナダのスケート連盟はペアとダンス、つまり男女が組みになって行うカップル競技と言われている領域なんですが、そこのジェンダーコントロールをやめようということをやりはじめたんですね。まず、2019年に競技会ではなくて、初心者や大人の趣味でやっているスケーターの方々の規定を変えて「どんな性別、ジェンダーの組み合わせでもペアやダンスできますよ」ということにしたんですね。そして、2022年12月からそれを競技会にも適用して、カナダの国内試合ではどんなジェンダーのカップリングでも競技に参加できるということをしているんです。ジェンダーコントロールを撤廃したフィギュアスケート競技というものが出てきはじめていて、まさにカナダが実験しているわけですよね。これも面白いムーブメントとして私は追っているんですが、そういう形で先生が言う近代スポーツが長く支配的であったスポーツ界と近代スポーツの価値観は通用しなくなってきている現代。来るべき新しいスポーツの時代、これを橋渡しする。その移行期間を「ポスト・スポーツ」という概念を当てはめているわけですが、この「ポスト・スポーツの時代」において、私たち研究者はどうあるべきでしょうか。

国際オリンピック委員会が提示したフレームワーク

国際オリンピック委員会が提示したフレームワーク

Y:今、町田さんがおっしゃってくれたように、私は移行期間だと思っています。近代とまさに近代が作り上げてきた様々な当たり前が通用しなくなってきている。だけど、それをスポーツって今まで呼んできたんだけれど、それに変わる名前も今のところない。だけど、変化しながら進んでいる。その移行期を私は「ポスト・スポーツ」というふうに呼んだんですが、まさに移行期間に我々がまず置かれているということは、ある意味ではやっぱり幸運だと思うんです、学者としては。だから私たちがやることは、まず変化をきちんと受け止める。その変化がどういう方向を持っているのかということを見定める。今までの当たり前が、どう次の当たり前と変わろうとしているのか。そこをきちんと私たちは言葉にして、できれば発信していく。それがこの転換期の私は町田さんのような学者のとても大事な役割だと思います。

M:なるほど。私もちょっと肝に銘じて同じ人文社会学系の研究者として研究活動とそれを実践に移していくということをやっていきたいと思います。ありがとうございます。

文:J SPORTS編集部

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