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#9【鼎談】町田樹 × 水鳥寿思さん × 赤平大 ー「AI採点」についてー(4) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
MCを一緒につとめる赤平大アナウンサーとともに、男子体操の水鳥寿思先生をお招きしAI採点についてなどのお話を伺っています。ここからはSNSのコメントなどを見ていきましょう。
前回のおさらい
視聴者からTwitterに届いた質問に回答
「水鳥先生、AIで技術を採点するのに賛成です。ただ、停電や機械故障のときにどう採点するのか、体操ではそうした場合の取り決めがあるのか知りたいです」
町田(以下M):そうしたリスクマネジメントは十分なのでしょうか。
水鳥(以下H):僕の知る限りでは、そうしたところの課題はありますし、例えば人の場合も、体調不良があったり、アクシデントで競技会に参加できなかったりするようなこともあります。審判はスタンバイしていて、結局何もなかったみたいなことが実際にあるんですよね。そうしたバックアップ機能というのは持たせる必要があると思いますし、導入を正式にしていくことになった場合にも、バックアップは持たせるべきだろうなと思います。
「運動会楽しそう。そういう自由なイベントいいですよね。クリエイティビティが醸成されるでしょうね」
M:競技力強化にフォーカスが当たりがちですが、水鳥先生の行っているエンタメ化事業もその一つですよね。競技力というだけではなくて、体操の新たな魅力・価値を引き出して、それを伸ばそうとしている事業。競技力だけじゃない、身体運動文化。体操、フィギュアスケートなどの身体運動文化の魅力を発掘していくことも大事になって来ると思います。
赤平(以下A):体操のエンタメの部分では、例えば今年、来年、どういった試みを考えていらっしゃるのでしょうか。
H:昨年度のものに関しては、体操を見たことない方に見てもらおうということで、卓球のTリーグ、バスケットのBリーグ、Wリーグの場を借りて、体操を見てもらうことをさせていただいたんです。
M:競技のインターバルの間ですよね。
H:そうですね。スポーツが好きな方に「体操って、こんなに面白いんですよ」と、その場に行ってやらせてもらうってことを取り組みとして行ってきました。そういったことを継続しながら、僕がやりたいと思っているのはフィギュアスケートのように、今はもう選手を引退したら指導者になるか、就職するしか体操は道がないのですが、全日本選手権の後に、引退して間もないような、例えば白井建三選手であるとか寺本明日香選手に、別の表現をやってもらうようなことで、より長く競技が終わっても体操に触れてもらう、続けていってもらう。そういったスキームもしっかりと作っていけたら、と思っています。
M:競技人生寿命が短いスポーツ。18歳で終わる競技を親はやらせたくないでしょうしね。
A:確かに、体を壊す可能性もある。ハードスケジュールとなると腰が重いかなというのはありますよね。
M:親の意思が、競技を始めるきっかけの一つとしてはあるわけです。そういうことが続いてしまうと、やがて競技人口も減っていってしまい文化の衰退を招いてしまう。競技の連盟統括組織は、健全に選手が活動できる環境を整えるという義務があります。ひいては、競技を末長く文化として発展させるためには、絶対重要なことですよね。
A:J SPORTSでフィギュアスケートの解説をされている杉田秀雄さんからよく伺ったのは、アメリカだとお年寄りまでが身近にフィギュアスケートを楽しむ環境があり、競技人口が増えていたそうです。日本とはだいぶ環境が違うなと、文化に根ざしているのかなと思いました。生活にスポーツが入り込んでいると思ったときに、いい環境だなと思ったんです。
鼎談の様子
M:もしかしたら健康増進のために行っているかもしれませんし、信夫先生、久美子先生も、北米では選手じゃなくてマスターズという大会がフィギュアスケートにあります。引退して、年齢が上のシニア層の競技会に出てもらおうというので、多様なカテゴリーを用意しています。例えば40代、70代も出られたりします。そういうマスターズのコンペティション専門のコーチがいると言っていました。そういう人たちだけを専門に見る人がいるそうで、日本ではあり得ないそうです。
A:でもそれが一つのマーケットとしてビジネスがあるんですよね。
M:それだけスケートを楽しまれている方がいる、ということですよね。競技力の強化以外の魅力をどこまで、身体運動文化から引き出せるかということは、連盟だけじゃなくて、我々研究者もこれから考えていかなきゃいけないですよね。水鳥先生は、それを今実践されているということで、大変参考になりました。最後に異業種・異文化の深いお話の感想をお伺いしたいと思います。
H:フィギュアスケートがどういう風に採点が行われているかを知ることができたのは、すごく参考になりました。体操で言うと、芸術的な部分はアーティスティックって言いながらも、どんどん美的なところに集約されたと言ってもおかしくないなと思っていました。そこをフィギュアが競技として扉を開くのか、あるいはそれを閉ざして競技に集中していくのかというところは本当に興味深く聞くことができました。競技の情報共有は、すごく大事だなということを改めて感じることができたので、そういった意味でも勉強になりました。面白かったです。
M:そう言っていただけるととても嬉しいです。スポーツ界は、オリンピックムーブメントで、いろいろな競技が一丸となってという組織構造を取っているんですけれども、内実としては、競技ごとの縦割り社会で、交流が一切ないわけですよね。でもフィギュアスケートや体操。アーティスティックスイミングなど共通している部分をたくさん持っているスポーツ同士があるわけですよね。そういうところは異種混合で、ディスカッションすることで新しいスポーツの価値に気付いたり、より良いルール改正について的確に議論したりすることができるわけです。コラボレーションは重要だなということを痛感いたしました。まだまだ議論し尽くせないところがたくさんありましたが、この番組を一つのきっかけにして、これからもルールは統括組織が制定して、それを一方的に受けるだけではなく、そうしたルールを選手、コーチ、ファン、研究者、いろいろな方々がフォーラムのような場所に出てきて、一緒により良いルールを議論することが非常に大事だと思うんですよね。だからこの番組でも、機会があれば、またチャレンジしていきたいと思います。皆さん、ありがとうございました。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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