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#6【鼎談】町田樹 × 水鳥寿思さん × 赤平大 ー「AI採点」についてー(1) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部鼎談の様子
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
今回はAI採点について取り上げます。すごく注目していますが、今、報道でもなされている通り、フィギュアスケート界でもAI採点をするのか議論されています。岡部由起子さんの話によると、かなり前向きに議論されているということなので、まず間違いなく近い将来にフィギュアスケート界でもAI採点が導入されるであろうと思います。
縣談のポイント
そこで今回はMCを一緒につとめる赤平大アナウンサーとともに、男子体操の水鳥寿思先生をお招きしてお話を伺っていきます。議論のポイントですが、実はすでに体操界ではAI採点導入されているんです。そこで体操界の事例を参照にしながら、フィギアスケートでAI採点を導入するには、どうしたらいいのかということを考えていきたいと思います。
結局、AI採点と言いましても、機械が勝手に採点をするわけではなく、人工知能を育成したり、プログラミングをしたりするのは人間の仕事です。ですから、AI採点と人間の採点、これらが相互補完的に理想的な関係性を築くには、どのようなことを意識したらいいのか。これについて、水鳥先生と一緒に議論していきたいと考えています。
水鳥寿思先生は日本体操協会の男子体操代表監督・強化本部長です。2004年のアテネオリンピック団体で金メダル獲得。競技を引退後に史上最年少32歳で日本体操協会・強化本部長に抜擢。東京五輪などでも選手をメダルに導いており、選手としても協会の立場としても活躍されています。
町田(以下M):オリンピック選手としても活躍され、その経験を生かしながら統括組織でも活躍されている水鳥先生。AI採点にも携わっておられるということですが、体操で最近気になった報道のことを伺います。水鳥先生がリーダーとなって推進されている体操エンタメ化事業。フィギュアスケートのように体操の芸術性にフォーカスを当てたイベントを実施されています。どういうイベントなのでしょうか。
水鳥(以下H):競技という枠にとらわれない体操の魅力や価値をどう伝えていけるか。体操の発展にもつながりますし、選手の活躍の場にもなるのではないかということで、フィギュアスケートのエキシビションのようなもの、そうした点もお客様に楽しんでもらおうと、企画を考えています。
M:オリンピックの後も、成績上位者でエキシビションをやっています。一部の体操選手は引退した後、シルクドソレイユのようなエンターテイメント事業の人材として活躍されている方もいるので、きっと、そういう試みが貢献していくことになるんでしょうね。この活動も気になります。そんな体操とフィギュアスケートの採点基準を比較してみたいと思います。体操の採点基準は、どういう風になっているのでしょうか。
体操の採点基準
H:体操は、主にDスコアとEスコアに分かれております。Dスコアは難度。フィギュアスケートでいう技の得点のところです。そして演技構成点も入ってくるかもしれません。いかに難しい技を、例えば組み合わせてやることや、それぞれのグループからしっかりと技を行うことで加点をされていきます。そして10点満点から着地が動いたとか、肘が曲がったとか、いろいろな要因で減点され、残された点数がEスコアとしてDスコアにプラスされます。最後に、減点。例えばタイムオーバーやラインオーバーなどが加味されて最終的な得点になっています。
M:Dスコアは技の難しさ。Eスコアは質を図っていく。フィギュアで言うと、Dスコアが技の得点。EスコアはGOEですね。プラス、フィギュアでは芸術点と言われているところが採点も難しいということで、お話をしてきました。この演技構成点を除いて、体操とフィギュアスケートはシンクロしているということです。体操の採点システムに、最近AIが導入されたと伺いました。これは、どういうようなシステムでしょうか。
体操競技に導入されたAI採点支援システム
H:富士通さんが開発をされているシステムで、選手にレーザーを当てて、CGを作り出すというようなものになっています。3次元データ化をし、CGとして選手が現れて、座標の位置、関節の位置等々を架空に設定した上で、例えば肘がどういう風な動きをしたから減点とか、こういう動きをしたから今のは宙返りだったよね、というような評価をしていく仕組みになっています。この技が何の技だったかというような自動の採点の部分と、その3次元上に作り出されたCGが動いたときに、あらゆる角度を定量的に評価をするというものがありますので、体操の中でも15度未満であれば減点なし、15度を超えた場合は0.10の減点、この辺りの角度を定義した上で、今が何度だったかといったことを計測するようなシステムになっています。
M:なるほど。DスコアとEスコアの両方に適用されているのですね。
H:そうです。
M:そのAI採点システムですが、現在、体操界ではどのような形で導入されているのでしょうか。
H:まだ一部の種目にとどまっています。全種目でカバーができていない要因としては、レーザーで人の動きを評価できる範囲がまだ限られているということです。例えばあん馬のような固定された位置での演技は、比較的評価をしやすいのですが、床のように縦横無尽に動き回る動きが大きいものに関しては、まだまだカバーができないところが課題としてあります。演技の評価にそのまま反映させるというようなところまではできていません。リファレンスというような形で位置付けられています。具体的には、オリンピックや世界選手権でも実際に導入はされているんですけれども、問い合わせ=インクワイアリーを行ったときに、上級審判がリファレンスとして富士通のAI採点自動支援システムを確認しながら、それが正しかったかどうかということを検討するということになっていますが、まだ直接的に反映されるまでは至っていないのが現状です。
M:AIが出した採点がそのまま結果になるということはなく、あくまでサポーター、アシスタントだというわけですね。ゆくゆくの体操界では、AI採点がそのまま結果になるような形も考えているのですか。それともあくまでも今のようなアシスタントやサポーターの立ち位置にとどまるということを想定されているのでしょうか。
H:どこに収まっていくかというのは、我々もまだ分かりません。おそらくですが、(国際体操連盟)渡辺会長はAIが採点をすることも目指していると思いますが、なかなか現状のジャッジとのコンセンサスや調整、精度、それが本当に出せるかどうかというところの確証はまだまだです。どこまでの役割を果たせるか、それは本当にやりながら、走りながら考えています。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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