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すべてを超越し、アリーナを天上の至福で満たしたガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組「キャリアの中で最も美しい大会でした」 | ISU世界フィギュアスケート選手権2022 アイスダンス レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部世界選手権2022 アイスダンス メダリスト
なにひとつ欠けることのない、永遠の栄光。五輪チャンピオンとして、母国フランスでの世界選手権で、ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組が人生5度目の頂点に上り詰めた。自らの祝宴に詰めかけた多くの観衆の前で、すべてを超越し、アリーナを天上の至福で満たした。
「キャリアの中で最も美しい大会でした。信じられないような後押しを感じ、鳥肌が立つほど感動したのは、観客のみなさんのおかげです。言葉になりません」
激しいワッキングで観客を熱狂させたリズムダンス(RD)「メイド・トゥ・ラヴ」も、まるで美術館から飛び出してきたようなフリーダンス(FD)「エレジー」も、可能な限り最高の得点で称賛された。いずれのエレメンツも高いレベル判定に、+4.5以上のGOE出来栄え点が加算された。また9人のジャッジが5つの項目を採点する演技構成点では、つまり全部で45の数字が並ぶうち……10点満点がRDでは25、FDでは36にも上った。
現行の採点方式ではRDでは自身7度目(前方式も加えると8度目)の、FDでは6度目(13度目)の、そしてトータルでは7度目(13度目)の歴代最高得点更新だった。もはや完璧という言葉では足りないほどの、絶対の極地。
「もはや私たちはメダルのために戦ってはいませんでした。もちろん選手として、出るからには勝ちたいという思いはありましたが、それが最も大切なゴールではなかったんです」
人生をかけて追い求めてきた五輪金メダルを手に入れたパパダキス&シゼロン組は、いまや得点や順位という数字から解き放たれ、純粋なる美と喜びの伝道師と化していた。
「素晴らしい気分です。氷の上で心からの喜びを感じましたし、あらゆる瞬間を楽しみました。リラックスして演じられましたし、この世界選手権で最高の演技を見せられたことを誇らしく思います」
開催国フランスにとっては、大会最後の種目で、待ち望んだ唯一のメダル獲得となった。また開催国の選手が世界選金メダルを獲得するのは、アイスダンスとしては2005年以来17年ぶりだった。
シニアに上がってからの9年間……コロナ禍で昨シーズンは1試合も出場しなかったことを考慮すると8年間で、パパダキス&シゼロンが積み上げた戦績は国内選7勝、グランプリファイナル2勝、欧州選手権5勝、世界選手権5勝、さらには五輪の金と銀を1つずつ。文字通りすべてを勝ち取った2人が、果たしてこの先どこへ向かって行くのかは分からない。「まだ将来については考えていません」と語るように、今はただシャンパンゴールドの歓喜に酔い、ようやく軽くなった心で、アイスショーとバカンスを楽しむのだろう。
引退を明言してシーズンに乗り込んだのがマディソン・ハッベル&ザカリー・ダナヒュー組だった。北京五輪で悲願のメダルを獲得した後、人生4度目の世界選メダルで、キャリアの有終の美を飾った。
最後の瞬間まで、誰よりもダイナミックな演技を貫き通した。確かな技術力で氷を支配し、FDの基礎点では優勝組を0.01点上回りさえした。なにより高い身体能力を誇る2人だからこそ可能な、FD序盤のリフトでは、今大会最高の加点を得た。RD・FD・総合のすべてでパーソナルベストを更新した。
「演技中には泣きたくない」。そうRD後に語っていたハベルは、朝の練習中に涙を出し切った後、本番でFD「ドローニング」を甘く、儚く、切なく演じ終えた。美しい余韻を残したまま、ハベル&ダナヒュー組は競技会に別れを告げた。
「こんな風にキャリアを終えられるなんて最高ですし、光栄に思います。すべてのアスリートが望み通りのやり方で引退できるわけではない中で、私たちは、この競技への大きな愛とともに舞台を去ることができるのですから」
少なくともあと1年は続ける、そう宣言するマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組は、6年ぶり(2020年大会は中止のため5大会ぶり)にメダルを奪還した。
五輪ではRDでバランスを崩すミスがあったが、今世界選は高い完成度で滑りきり、自己ベストを更新した。1年前のストックホルム大会では、やはりRD3位発進ながらも、FDで逆転され4位に沈んだが……モンペリエでチョック&ベイツ組の立場が揺らぐことはなかった。今シーズン屈指の名プログラムFD「コンタクト」は、何度見ても新鮮な驚きと発見に満ちていて、創造性の高い中盤のコレオグラフィックスライディングムーブメントは、GOE満点の加点で絶賛された。
「表彰台へ戻ってくるまでの道のりは、決して簡単ではありませんでした。でもこの長い旅に出て、多くのことを学んだことは、運命だったようにも感じています。前回表彰台に上がった時と比べて、私たちは驚くべき変化を遂げました」
チョック&ベイツ組が、長い時をかけて、表彰台の居場所を取り戻したのだとしたら、シャルリーヌ・ギニャール&マルコ・ファッブリ組は、長い時をかけて、表彰台の足元へとたどり着いた。11年前の初出場19位から、ほんの少しずつ、しかし確実に順位を上げた。そして2年間大切に育ててきたFD「つぐない」を演じる最後の機会に、ついに自己最高4位にまで達したのだ。「まだまだ進歩を感じられるからこそ、次への意欲が湧くのです」と、32歳&34歳の大ベテランは、来季へ向けて再スタートを切る。
前回メダリストのパイパー・ギレス&ポール・ポワリエ組は、今回は5位で大会を去った。ただ五輪で納得の行く演技が出来なかったというFD「長く曲がりくねった道」を、満足の行く形で演じきり、美しい形でシーズンを締めくくれたことに2人は満足する。……残念なことに、他のカナダ組2組がそれぞれ9位と11位で終えたため、来シーズンのカナダは13年ぶりに世界選手権アイスダンスの出場枠を「2」に減らした。
一方で昨大会7位で英国に2枠をもたらした若きライラ・フィアー&ルイス・ギブソン組は、今年はさらにもう1つ順位を上げるとともに、フィアーの妹組が初出場17位と健闘し、2枠をきっちり守りきった。またオリヴィア・スマート&アドリアン・ディアス組がひと桁台7位に食い込み、長年2組が1枠を競り合ってきたスペインに、ついに2枠を持ち帰った。
結成わずか2年で世界の大舞台まで駆け上がった村元哉中&高橋大輔組は、16位で躍進のシーズンを締めくくった。
RDはツイズルにミスがあり、FDは今大会に向け入れ替えたというローテーショナルリフトが乱れた。それでも世界トップレベルのカップルが集結した今大会で、RD「ソーラン節」はずば抜けた独創性で絶賛された。また2年越しのFD「ラ・バヤデール」では、ミスをしたリフトを除けば、コンビネーションスピンやリフトといった2人の共同エレメンツはどれも最高レベル4の評価を受けた。もちろんRDの失敗は繰り返さず、短い会期中でさえ進化を続けた2人は、FDのツイズルは両者レベル4でしっかりとまとめた。
「この2年間……大ちゃんがアイスダンスを始めてたったの2年間で、すごいことを成し遂げたと思っています。もちろん結果や点数をみればまだまだですが、自分たちを褒めてあげたい。『よくできたよ』とポジティブな言葉をかけたいなと思います」(村元)
「僕にとっては世界の空気感の中で戦う初めての機会だったので、すごく良い経験になりました。ミスなく終えられるようになればあの辺まで行ける……というのがなんとなく見えてきて、それと同時に世界トップの凄さも実感できた。これからの僕たちの進路を決めるにあたって、この世界選の経験はすごく大きなものです」(高橋)
また国旗カラーのチームウェア姿で氷に上がったアレクサンドラ・ナザロワ&マキシム・ニキティン組は、今大会に向けて、急遽RDの使用楽曲を入れ替えた。ウクライナ人歌手の歌う「1944」と、ウクライナを讃える行進曲とに込められた力強いメッセージに、会場はスタンディングオベーションで応えた。激戦地ハルキウ出身の2人は、今後しばらくはポーランドで練習を続ける。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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