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フィギュア スケート コラム 2022年4月4日

「身体と心情」| 町田樹のスポーツアカデミア 【特別編】 ~アーティストとアスリートの身体・精神論~ 音楽家 反田恭平

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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音楽家の身体と心情

音楽家の身体と心情

今回お迎えしたのは、第18回ショパン国際ピアノコンクールで51年振りに第2位となった音楽家の反田恭平さんです。みずからオーケストラの株式会社Japan National Orchestraを創設し、ピアニストとしてのキャリアから、指揮者や経営者など活動の幅を広げ、今最も注目されている音楽家です。

町田(以下M):音楽家が演奏をされるときとアスリートが競技会にでるときで共通しているのはパフォーマンスが1回限りということ。アスリートも緊張しないという人はいないくらい、競技会のときは緊張します。なぜ緊張するのかといえば、1回しかできないからです。やり直すことができない、その瞬間が二度と訪れないから緊張感がでるのだと思います。音楽もまさに時空間芸術で、時間に縛られて、どんどん進行してあとには戻れない中で、どうやって緊張と向き合っていますか。

反田(以下S):僕の場合はちょっと違って、練習していないから緊張するんです(笑)。そんなに崇高なものではないんです。でもそこからの不安感はどうしてもあったりしますね。(調子が悪いときなどは)練習は意味のないものだと錯覚してしまいます。こんなに練習したのになぜ失敗するのかと。それでも、ショパンコンクールの前には、ゲシュタルト崩壊するくらい頑張りました。それでも「ん?」って思うことがありました。逆に全然練習していない新曲で「めっちゃ良く弾けた」ってときもある。その差はなぜか分からないですけど。フィギュアスケートの人はどれくらい練習したりするものなのですか?

M:場所の制約もありますし、激しい運動をするので、集中できるのは2〜3時間でしょうね。私もそれほど練習量が多いタイプじゃなくて、短い時間でやっていました。それ以上やっても身体がしんどいし、どんどん下手くそになっていく感覚がある。短過ぎても駄目だし、長過ぎても駄目。最大値がどこにあるのか考えながらやっていました。

S:ピアノに関して言えば、日常生活も練習になるわけです。本を読んだり、映画を見たり、絵画を見たりしてインスピレーションを得たりするわけです。僕はそれが大事だと言って逃げています(笑)。実際に世界の友達とかって趣味が多いんですよね。多趣味の方が多くて、その分ひきだしも多いのが印象的でした。今回ショパンコンクールで優勝したブルースはカーレーサーです。下手したら怪我してしまうようなスポーツです。コンクールが終わって、彼はポーランド国内をまわっているときに「カーレースをやりたい」と言ったらサーキットが用意されていたそうです。一つの趣味が、もう一つの自分の人生を大きくしてくれる。

M:例えば今年の北京五輪で活躍されたモーグルの堀島選手は、モーグルだけでなくフィギュアスケートをやってみたり、体操をやってみたり、色々な競技に取り組まれたそうです。その中から何がモーグルに還元できるのかを考えていたそうです。これまではピアニストはピアノだけ、フィギュアスケートはフィギュアスケートだけに一極集中で努力しがちでしたが、意外にも色々なことにトライしてみることが大事なのかなと思いました。

S:これから僕は指揮を勉強したいと思っていますが、昨日たまたまレッスンがありました。そのレッスンはウィーンと日本で別々のカリキュラムを持っていて、日本で勉強することは楽曲についての分析であったりします。例えばモーツアルトの「魔笛」の中の1曲でパパゲーノとパパゲーナというコミカルな歌があります。女性の役の方は高貴な女性の役なので、言葉遣いが丁寧です。だけど、鳥人間と言われているパパゲーノに関しては、鳥人間だから言葉が曖昧です。「愛しき人よ」という一言にしても「欲望が〜」のように抽象的だったり、人間がなかなか使わないようなドイツ語で表現されています。それを知って純粋に面白いなと思いましたし、ピアノに影響すると思っています。バイオリンもやりたいと強く思っていますが、実技が向上するのであればどんなジャンルでも勉強することがあると思います。

M:特にアーティスティックなスポーツでは技術だけではなく、そこにどのような情感を乗せるのか、どういう状況でその技を使って表現するのかということは、技を練習しているだけでは豊かにならないですよね。練習の仕方は身体運動をするだけではない。

S:ピアノの世界で子どもたちが勘違いするのは、テクニックというものが、小手先が速く動くことだと思っています。本当のテクニックは心情面であったり、誰もが見逃す簡単なフレーズを丁寧に弾いたりすることだったりします。中学生くらいまではとにかくかっ飛ばして弾くことがかっこいいと思いがちですが、大人になってくると、恋愛をして愛の深さを知っていくように、それが音楽や踊りに還元されていく。

他のスポーツの方々と我々がちょっと違うのは、ほぼ生涯現役で活動ができること。それは本当に幸せなことだと思っていて、年齢が増していけばいくほどその深さも増していくと思っています。身体も我々の手は筋肉質だったりしますが、老化すると指が太くなってきます。筋肉が落ちて脂肪が増えて、厚みも出てくる。そうなってくると出てくる音がそもそも違う。温かさがすごいある。そこの次元に早くいきたい自分もいれば、今を楽しんでいたい自分もいる。葛藤の毎日です。なのでレコーディングをして爪痕を残していくことをします。お客さんに聞いて欲しいからCD を出すということもありますが、何よりも自分がどういう過程を経て成長しているのかを知ってもらいたいがゆえ出すことが多いですね。

次回「緊張との向き合い方」

文:J SPORTS編集部

J SPORTS編集部

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