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フィギュア スケート コラム 2022年4月3日

「ピアニストの身体運動」| 町田樹のスポーツアカデミア 【特別編】 ~アーティストとアスリートの身体・精神論~ 音楽家 反田恭平

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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アスリートと音楽家の共通点を対話の中で見出していく

今回お迎えしたのは、第18回ショパン国際ピアノコンクールで51年振りに第2位となった音楽家の反田恭平さんです。みずからオーケストラの株式会社Japan National Orchestraを創設し、ピアニストとしてのキャリアから、指揮者や経営者など活動の幅を広げ、今最も注目されている音楽家です。

反田(以下S):大前提として、椅子の高さが大切です。あまりにも高いと、打鍵が弱くなります。上から覆い被さるように打鍵する方法もありますが、理想は脚が90度になりすぎず、腕も鍵盤のところに手を持ってきて無理のない姿勢がいいです。足裏、膝、腰、お腹、首、このうちの3点がしっかり座っていればいい音が出ると言われています。例えば演奏途中に身体が揺れてブレたりしますが、先ほどの要素の3点が揃っていればいいと言われています。おそらくバレエとかでお腹に力を入れて腰から曲げでお辞儀するような姿勢で我々は弾いているんだと思います。

特にアジア人の場合は肩が内巻きなので前のめりになりやすい。ヨーロッパの方は外に開いているので、弾いている時に上を向いたりする傾向があります。そのため、日本人があまりに前傾になりすぎると音楽も内向きになってしまう傾向にあるので、ところどころでオープンマインドで演奏することが大事になります。これは視覚的にもそうです。もしピアニストが極端に前傾で弾いていたらお客さんも内向的に感じると思いますが、上を向くだけで明るく聞こえたりもします。これは錯覚なんですよね。そういったところもコントロールします。

ピアノは理不尽です。鍵盤は横に伸びていて、人間の身体の構造上、腕は円を描くように広がっていきます。ですので、鍵盤は腕の広がる軌道と同じく、身体の周りに円を描くように配置されるべきです。ですが、それが横と縦の運動だけになります。例えば、ドレミファソラシドを弾いたときに、親指を移動させる際に肩が硬いままだと弾けないことはないけど「方言訛りの東京弁」みたいな感じになる。それを楽にさせてあげるためには、やっぱり肘を使って優しく使ってあげると滑らかに弾けたりする。こういうことから身体の使い方とか、パーツによって自分の関節の柔らかさや筋肉のつき方が大事になってきます。

町田(以下M):そもそも人体の構造を把握して、反田さん自身の個性や癖も分析されて演奏をされているということですよね。

S:1人で弾く分にはある程度の最大値で充分なんですけど、コンチェルトを弾く時はその最大値を上げて弾いています。筋肉に与える負荷を上げるというか、ギアを上げています。例えばチャイコフスキーとか、ロシアの音楽は壮大なものが多くて、打鍵する瞬間に手で力強く掴むように弾くことで瞬間的な音圧や音色が作れます。身体だけではなく、指先のコントロールもかなり重要になってきます。

M:1時間を超えるような演奏の場合は持久力も大切になりますよね。

S:そうですね。あとは冷静さも必要です。それはスポーツも同じだと思いますが、第三者から俯瞰して見る能力は非常に大事ですね。心臓の鼓動が速くなる分、例えば家で練習しているときの心拍数のテンポが60くらいだとしても、本番は80〜90くらいになっているかもしれません。その時にカウントする四分音符1個分と、家にいるときとでは絶対に違うわけです。そのときに僕は本番前に脈を測って、自分がどれだけ心拍数が上がっているのかを確認したりします。それで、ちょっと速めだから落ち着いて弾いてみようと決めて弾いたりしています。

ピアノは反響して返ってきた音を聞きます。そういう耳の使い方も大事で、サッカーだったら掛け声とかにあたるのかもしれないですけど、耳で弾くということがピアノにおいては大事になります。家でやることは技術的なトレーニングかもしれないけど、本番でやることは頭や耳で弾くことが多いです。直感とか。

M:客観的に自分を見て、身体的にも精神的にもコントロールしていくと。

S:一番伝えたいところですが説明するのが難しいのは「耳を会場に置いておく」ということです。お客さんの立場になって弾けということですね。練習のときから音を遠くに飛ばすイメージで引きなさいと先生には言われます。

逆に僕も聞きたかったんですけど、例えばスポーツ選手って本番に向かっていく過程で音楽を聞いたりしているじゃないですか。あれは何を聞いてるのでしょうか。今から踊る曲を聞くのは分かるんですけど、我々はそれがなかなかできない。ポップスを聞いてベートーベンを弾いても変なことになりかねない。だからこそフィギュアの選手は音楽を聴きながらスポーツをされるのですごい気になっていたんですよね。

M:人それぞれだと思いますが、音楽の力を借りてテンションを上げていくこともあります。行くぞ!というときはアップテンポのダンスミュージックなどを聞いて士気を高めていく。終わったときはボルテージを下げなければいけないのでクラシックとかを聞いて精神を安らげていく。音楽を通じて心理面をコントロールしていくことをしていました。あるいは、外的な情報を遮断するという役割も大きいかもしれません。耳が開いていると「何番滑走の人が何点」みたいな情報がずっと聞こえてくるので、耳栓がてらという人もいるかもしれません。

S:フィギュアスケートでも予定していた演技ができなかったときに臨機応変に内容を変えたりすると思いますが、僕らにもやっぱりそれがあります。現在は進行していて、気づいたときにはそれは過去であって、現在は流れていて音楽も流れている。ここの辻褄を合わせるためにどうやって演奏しようかということを考えています。過去・現在・未来はいつも同時に進行しています。

M:確かに私たちも競技しているときは主観で情報処理をしていますが、(頭のうしろ辺りに)第三者の自分がいて、その第三者と自分とで「いま動きすぎているから落ち着け」みたいな対話をしたりします。ごくまれに無の境地でパフォーマンスすることができるときがあります。スポーツ界では《ゾーン》とか《フロー》と呼ばれますが、音楽家でもそういう現象はありますか。

S:ありますし、ゾーンに入っている演奏はお客さんも分かると思います。例えば虫が止まっても分からないこともありましたし、(会場で鳴った携帯の)着信音に気づかなかったこともあります。なんなら下を向いて演奏するのでヨダレが垂れたりもします。唾を飲み込むことすら忘れてしまう。ゾーンに入るときは、全ての音が可視化できるような気がします。

それは完全に集中力の問題だと思います。ただただ耳で弾いている瞬間はゾーンになりやすいかもしれない。脱力しているとき、耳に力が入っていないときはその傾向があるかなと思います。それはお客さんの環境が良い・悪いは関係がないので、自分のその日のコンディションによります。あとはお腹が空いていることと、ある程度追い込まれている環境のときはそれ(ゾーン)が結構出たりしますね。

次回「身体と心情」

文:J SPORTS編集部

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