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アイスダンスはシニツィナ&カツァラポフ組が金メダル「五輪に向けて大きな力も与えてくれる」 | ISU欧州フィギュアスケート選手権2022 ペア・アイスダンス レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ISU欧州フィギュアスケート選手権2022 ペア・アイスダンス
ペア
濃密な時間だった。優れた技術を競いあい、個性と個性とがぶつかりあった。ロシア3組が表彰台を独占し、世界チャンピオンのアナスタシア・ミーシナ&アレクサンドル・ガリャモフ組が、今シーズン全戦全勝のままヨーロッパ選手権初制覇を果たした。
「全3組が同じようなレベルで競い合い、揃って高得点を獲得できたなんて、素敵なことです。だって全員がクリーンな滑りを披露することで、このスポーツの価値が高まりますから」
表情はコミカルに、頭脳は冷静に。ミーシナ&ガリャモフ組はSP「エスメラルダ」を、完璧なコントロールで滑り切った。冒頭のツイストとステップシークエンスでレベル3の判定を受けたものの、それ以外では、直前の6分間練習でミーシナが転倒した影響など一切感じさせなかった。むしろ基礎点の高いソロジャンプやスロージャンプをきっちり2本揃え、得点を伸ばした。2年前の欧州選手権でアレクサンドラ・ボイコワ&ドミトリー・コズロフスキー組が記録した82.34点を、わずか0.02点上回り、歴代最高得点さえ塗り替えた。
ミーシナ&ガリャモフ組のFSは、3回転サルコウ+1回転オイラー+3回転サルコウという、誰よりも基礎点の高いコンビネーションで幕を開ける。ミーシナの素早すぎるオイラーテクニックはいつも以上に賛否両論を呼び、出来栄え点(GOE)は+3から-2まで大きく割れたが、それでもGOEプラスに落ち着いた。
そこから先は、ただただ圧巻の一言。音楽「吹雪」のパートはしっとりと魅せ、「時よ、前進!」のパートはダイナミックに、高い身体能力で驚嘆させた。3年前の世界選手権でウェンジン・スイ&ツォン・ハン組が叩き出した155.60点を、1.86点も上回る快挙。トータルでも、未だ誰も到達したことのない239.82点を叩き出した。
シニア本格転向3年目で早くもロシア選手権、欧州選手権、世界選手権……と主要タイトルを総なめにしたミーシナ&ガリャモフ組の、次なる目標は当然、直後に迫った北京五輪を勝ち取ること。スイ&ハン組を直接対決で破り、金メダルを取ること。
アナスタシア・ミーシナ&アレクサンドル・ガリャモフ組
「彼らもただ座って待っているわけではありません。日々進化しているはずです。私達を倒すためにすべてを尽くすでしょう。そして私達も、彼らを倒すために、すべてを尽くします」
エフゲーニヤ・タラソワ&ウラジーミル・モロゾフ組は、ペア要素の質の高さでは、いつも通り群を抜いた。ツイストは高く、スローは遠く。それでいて、まるで大切な壊れ物を扱うかのように、モロゾフの動作は慈しみにあふれていた。なにより物静かな2人によく似合う、秘めやかで、深みのある2本のプログラムは、瞬きさえしたくないほど隅々まで磨き抜かれていた。
SPはノーミスで折り返した。FS冒頭の3回転サルコウでタラソワがひやりとする場面もあったが、転倒せずに乗り切った。ジャンパー養成に定評のあるエテリ・トゥトベリーゼに師事したことも、間違いなく好ましい結果を導いた。結果は3大会連続の銀メダル。7回目の欧州選手権出場で、7回目の表彰台乗りを果たした。
前回は表彰台の最上段に立ったボイコワ&コズロフスキー組は、今回は3番目で満足するしかなかった。たった1つのミスが、最終結果に大きく響いた。SP冒頭のソロ3回転サルコウで、ボイコワが2回転しか飛べなかったからだ。単純にこのミスだけでも基礎点3点を失い、ほぼ完璧にSPをまとめ上げた同国のライバル2チームに差をつけられた。
しかしボイコワとコズロフスキーは、FSで自らの誇りを取り戻した。凛々しく、情熱的で、威厳に満ちた4分間。昨秋まで少々苦心してきたスロージャンプも、美しく伸びやかな着氷姿勢で2本とも完璧に決めた。パーソナルベストにはわずかに届かなかったものの、得点が出た瞬間の2人の雄叫びが、成功と満足を物語っていた。
ロシアが金銀銅すべてを手に入れたのは、2大会連続にして、過去10大会で6回目。3位と4位カリーナ・サフィナ&ルカ・ベルラワ組(ジョージア)が40点以上も離れていたほどの、圧倒的な独占だった。
アイスダンス
ヴィクトリア・シニツィナ&ニキータ・カツァラポフ組
男性が背中の痛みを訴え、大会半ばで立ち去ったロシア選手権から約3週間後。ヴィクトリア・シニツィナ&ニキータ・カツァラポフ組が、自分たちのいるべき場所に舞い戻った。笑顔で、金メダルを掲げ持ち、表彰台の一番上に立った。
「決して簡単な大会ではありませんでした。でも2人で力を合わせて切り抜けました。だからこのメダルは、僕たちにとって大きな意味を持ちます。それに、五輪に向けて、大きな力も与えてくれます」
リズムダンス(RD)は僅差での首位だった。現役世界チャンピオン組の得点が、これまでと比べて、特別に低かったわけではない。ただカツァラポフも指摘している通り、会心の出来と感じたパーシャルステップが、両人ともレベル3止まりだった。むしろ2位アレクサンドラ・ステパノワ&イワン・ブキン組の出来が、ずば抜けて素晴らしかったのだ。パーソナルベストを2点半近くも更新する見事なパフォーマンスで、首位へ1.44点差に迫った。
しかしラフマニノフで演じるフリーダンス(FD)で、シニツィナ&カツァラポフ組は2位以下を突き放した。負傷明けのせいか、いつもに比べてキレ味が弱めのカツァラポフに変わって、シニツィナが力強く演技を引っ張った。「ピアノコンチェルト第2番」では幽玄な美を体現し、締めくくりの「パガニーニの狂詩曲」では陽気な幸せをアリーナいっぱいに振りまいた。
2年前の欧州選手権はRD2位から状況をひっくり返し、ついにガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組の牙城を打ち崩したシニツィナとカツァラポフが、今回は首位の座を守り切った。この逆転優勝を決めたFDから今大会までの10大会17プログラムは、ひとつ残らず金色のスモールメダルを獲得した(FDは2回棄権)。もちろん棄権した大会以外は、すべて優勝を収めてきた。
「ここから減速するなんてありえません。ただ加速していくのみ。すべてが問題なく進むよう願ってます。まだ五輪本番については考えていません。その前に、まだまだやるべきことはたくさんありますからね」
結局は2位で終えたステパノワ&ブキン組だが、本人たちにとっては大きな成功だった。昨秋のグランプリシリーズで思うような評価が得られず、急遽ニコライ・モロゾフをコーチとして召喚した。まずはロシア選手権のために、さらには欧州選のために、急ピッチでプログラムを手直し。細部を磨き上げ、猛練習を積んできた。
「少しFDに変更を加え、スピードも上げました。ここまでに出来ることをすべてやって来ました。一歩前進できたことが嬉しくてたまりません。僕らが進化し、こんなパフォーマンスが出せたことが、嬉しいんです」
単純にレベルの取りこぼしが少なくなり、GOE加算が増えただけではない。モダンなタッチのFD「ロミオとジュリエット」は、演技構成点の評価も上がった。ブキンの指摘通り、グランプリ2大会に比べて、FDの得点は6点以上もアップ。4大会5度目の欧州選メダルと共に、自信も持ち帰った。
シャルリーヌ・ギニャール&マルコ・ファッブリ組は、高速ツイズルから始まるRD「マイケル・ジャクソンメドレー」で観客をノリノリにし、美しくも悲しいFD「つぐない」では、見る者の胸を締め付けた。32歳&33歳の今大会最年長アイスダンスカップルにとっては、2大会ぶり2度目の表彰台乗りだった。
そして1枠を巡るスペイン2カップルの一騎打ちにも、ついに決着がついた。オリヴィア・スマート&アドリアン・ディアス組が、五輪代表選考大会であるフィンランディア杯、国内選手権に続き、欧州選手権でも得点でサラ・ウルタード&キリル・ハリャービン組を上回った。しかもスペインアイスダンス勢としては史上最高の4位に食い込み、正々堂々、北京五輪行きの切符を手に入れた。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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