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フィギュア スケート コラム 2021年9月7日

町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~女性アスリート問題~ 東京大学医学部付属病院 能瀬さやか先生:月経

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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月経

女性アスリートが抱える「月経」の問題

今回お迎えしたのは、医学博士であり、婦人科の専門医でもある能瀬さやか先生です。現在は、東京大学医学部附属病院に勤務。2017年には国立大学病院初の女性アスリート外来を立ち上げました。今回は医学の目線からスポーツ界で喫緊の課題である、女性アスリート問題について伺います。

月経

町田(以下、M):三主徴問題になっていることを、自分自身で気付くためにはまず、月経周期を自分で確認することが大事ですよね?

アスリートの月経周期異常

アスリートの月経周期異常

(能瀬、以下N):適切なエネルギーバランスにある選手というのは、きちんと排卵があります。朝起きて舌下で体温を測って記録すると、排卵した後は高温期というものがあります。ただ、エネルギー不足になって排卵が止まってしまうと、この高温期が無くなってしまいますので、普段から基礎体温を記録して、高温期が短くなったり無くなったりすると、少し運動量に対して食事量が少ないのではないか、エネルギー不足になっているのではないかと、自分で把握することができるので、基礎体温を記録することでエネルギー不足を早く見つけられると思います。

M:仮に月経が来ていたとしても、高温期というものが来ていなかったとしたら、自分はもしかしたらローエナジーアベイラビリティーなのかもしれないと。

N:可能性はあります。ただ、無月経になる理由は様々ですので、エネルギー不足以外にも原因はあります。元々高温期があった選手がだんだん短くなったり、無くなってきたり、体重がその時期に一致して減っている選手はエネルギー不足の可能性が高いですので、運動量と食事量のバランスを見直すことが重要になります。元々体重の変動もなく、ずっと不順という方は違う原因がある可能性がありますので、一度産婦人科でホルモンの検査をして、他の原因がないかを調べる必要があるかなと思います。

M:その中で、一番の理想は食事療法ということだと思いますが、エストロゲンの補充なども考えていくと。

N:エストロゲンを補充する場合は原則、持久系の競技と審美系の競技に限定しています。そもそも球技系や体重階級系、あるいは射撃といった技術系の競技は、競技特性を考えてもエネルギー不足になるような競技ではないですよね。球技も体重を減らした方がパフォーマンスが上がるという競技ではないですし、体重階級系の競技も、試合に向けて減量がありますが、計量が終わるときちんと体重を戻しますので、一時的なエネルギー不足があっても、慢性的なエネルギー不足はないので、無月経の選手は少ないです。ただ、陸上の長距離や新体操といった競技は、体重管理が厳格にありますし、低体重・軽量化を求められる競技の選手たちはどうしても栄養のバランスだけでは月経が戻らないことが多いので、持久系・審美系の競技に限っては、ホルモン補充をすることがあります。

審美系の選手たちは、実はエネルギー不足で無月経であっても、骨粗鬆症の選手は少ないんです。競技特性上、ジャンプの動作が入りますので、そのジャンプ動作によって、荷重が掛かる部位、例えば腰椎なんかはむしろ骨量が増加しますので、無月経によるエストロゲン低下と骨量増加が相殺されて、一般の方と同じくらいかやや高いことが多いです。一方で陸上の長距離なんかはジャンプ動作による荷重負荷が少ないので、骨粗鬆症の選手が多くなります。

M:逆に月経が来ている人が抱える問題とは何でしょう。

月経前症候群(PMS)

月経前症候群(PMS)

N:月経が規則的に来ている人は、月経痛が酷くて競技に影響がでる場合があります。本当に最悪のケースは、何年間もトレーニングしてきたけど試合と月経が重なってしまって、痛みによって棄権してしまうトップ選手もいます。ホルモンの変動によって、高温期に卵巣から分泌されるプロゲステロンという女性ホルモンがむくみや眠気、食欲を昂進させたりします。それにより月経前の時期にコンディションが落ちてしまう、月経前症候群(PMS)という問題があります。月経が来ている選手では、月経困難症やPMSによってコンディションが落ちることを改善するために治療をしている選手たちもたくさんいます。

月経困難症やPMSでは、月経の量が多くて、毎月月経の度に貧血になってしまう選手もいます。そのような月経に随伴して起こる症状がある選手たちは、ホルモン製剤を使って治療をする。かつ治療をしながら試合と月経が重ならないように、月経の周期をコントロールすることも同時にできますので、月経対策をする選手たちはすごく増えてきています。

M:男性はそういった周期がないので、競技の調子が悪ければ自分の責任となるわけですが、女性の場合は調子が悪かったとしたら、それが生理的な問題によるものなのかを判断しなければいけないということですよね。月経の直前や直後、あるいは最も遠いところといった形で、そもそも身体のコンディションが違うということですよね。

N:コンディションには色々な要素が関わると思うので、重要なことは、毎月月経周期の同じ時期に同じ症状が出ているということであれば、トレーニングによる疲労ということではなくて、月経が影響している可能性が高いです。日々記録をつけて、月経中や月経前にコンディションが悪いということであれば、対策法がたくさんありますので、婦人科に相談していただければと思います。

M:大事な試合の前にトラッキングをしていて、この競技会と自分の月経が重なってしまうと予想されるとなった場合に、具体的にどのように調整していくのでしょうか。

N:月経の周期をコントロールする方法は2つあります。一つは、一時的な月経周期といって、次回の月経が試合に重なってしまう、次回の月経一回だけをずらしたい場合は、ずらしたい月経の一回前の月経の終わりの方からホルモン製剤を使用して、飲んでいる間は月経が来なくて、飲み終わると2〜3日後に月経がきます。ほとんどの選手が月経が終わった直後がコンディションが一番良いと回答しますので、ホルモン製剤を飲み終わって2〜3日後に月経が来て、月経が終わった辺りに試合という形で持っていくことができます。基本的には月経随伴症状や月経困難症、PMSなどがある選手は一時的な調整方法ではなくて、年間を通して月経をコントロールしながら治療も兼ねてやりましょうという方法を取っています。この場合には、一般的に使われるのは低用量ピルを年間を通してずっと服用していきます。日本ですとピルと聞くと避妊の薬のイメージが強いと思いますが、月経困難症の治療として保険適用となっているお薬ですし、PMSや過多月経、月経を来て欲しいときに起こすという目的で、私たち産婦人科医は普段から使っています。

M:月経痛などで悩んでいるのであれば、一度は試した方がいいアプローチなんですかね。

N:産婦人科医の立場からすると、月経困難症が頻繁にある選手は、将来的に子宮内膜症という不妊の原因になったりする病気のリスクが高いことが言われています。低用量ピルというのは、子宮内膜症の治療としても使ったりします。ですので、月経痛で競技に影響が出ている場合は治療を勧めますし、アスリートでない一般の方でも、月経痛が強ければ病気の予防といった点でも私たちは勧めます。ただ、選択は本人たちが行うべきだと思います。

10代に正しい知識を伝えていくことが重要

10代に正しい知識を伝えていくことが重要

私たちは無月経や低用量ピルなんかの問題を啓発してきていますが、一番の課題は、学校教育などできちんとした医学的知識を持っていないということだと感じています。これは女性の身体を知るだけではなくて、男女含めて、女性の身体も男性の身体も知る、あとは月経教育だけではなくて、栄養の教育なんかもヘルスケア教育のような形で、10代のうちから正しい知識を習得しておかないと、今のような問題が起こってしまうんじゃないかなと思っています。色々な指導者の方に講習会をさせていただくと、男性指導者の方も熱心に聞いてくださいますが、はじめて聞きましたという方が多いです。これまでそういった情報を得る機会が無かったことが問題ですし、これはアスリートだけの問題ではなくて、全ての女性につながる問題です。男性も女性も含めたきちとした知識を10代のうちから教育するシステムがないと変わっていかなんじゃないかなと思います。

文:J SPORTS編集部

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