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【レビュー:全米フィギュアスケート選手権2021 女子シングル】ブレイディ・テネルが3年ぶり2度目の全米女王「この大会への準備にすべてを注ぎ、自信を深めました」
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ブレイディ・テネル
ゴールドのマスクがよく似合った。ショート、フリーともにクリーンな演技で1位に立つと、ブレイディ・テネルが3年ぶり2度目の全米女王の座を射止めた。2位以下に17.28ptの大差をつけての圧勝だった。
一方で2位から4位までは1.94pt以内にひしめく大接戦。アンバー・グレンが6度目の参戦で生まれて初めての全米表彰台に登り、カレン・チェンは人生5つ目の全米メダルを手に入れた。アリサ・リュウは3連覇こそならなかったが、新たな魅力を武器に、3年連続のメダルに輝いた。
1位 ブレディ・テネル SP1位79.4 FS1位153.21 トータル232.61
ポジションが難解に入れ替わるスピン。全身を使った複雑なステップ。そして前後につなぎがちりばめられたジャンプ。そのすべてを滑らかに、まるでスピードを落とすことなく、今大会のテネルは見事にやりこなした。
しかも過去2年の全米はいずれもSP1位で折り返しながら、2度ともにFS後半のジャンプ転倒が結果に響いたテネルだったが、今回は最後のジャンプまで決して崩れなかった。なんでも新型コロナウイルス軽症で自宅待機中のコーチから、最終ジャンプが上手く行くように、魔法の言葉を授けられていたとのこと。
安定した技術力だけではない。今大会のテネルは表現力でもさらに完成度を高めた。SP「モデレーション」ではブラックのボディースーツ姿で全身を大きく使ってダイナミックにキレのある踊りを披露し、一方のFS「サラエボ/ダウン・オブ・フェイス」では繊細な美を氷上に描いた。長くしなやかな手足のせいか、それともモダンな芸術志向のせいか、どこかカロリナ・コストナーをも思い出させた。
風格さえ漂うパフォーマンスは、スコアに正しく反映された。SPの79.40ptは、1年前の全米で自らの出した大会歴代最高得点78.96ptを上回る新記録。またFSでは珍しくスピンにレベル3がひとつあったものの、4回転や3回転アクセル抜きのプログラムとしては、今季のほぼ天井に近い153.21ptをマークした。
今シーズン練習拠点を変えたのも、これほど完璧なまでに仕上げてきたのも、ただタイトル奪還への強い思いを抱いていたからこそ。「この大会への準備にすべてを注ぎ、自信を深めました。大会に乗り込む段階で、自分が(練習で)毎日クリーンにプログラムを滑れていることは分かっていたんです。あとはただその場に出て、スケートを滑り、楽しむだけでした」
テネルはきっと心から楽しめたに違いない。フリーを滑り終わった直後の、晴れやかな表情がすべてを物語っている。
「重要なのはたどり着いた場所ではなくそこまでの過程である、とよく言われます。でも、たどり着いた場所も、なかなかいいものですね」
2位 アンバー・グレン SP5位70.82 FS2位144.50 トータル215.33
SP5位からの逆転劇。2014年の全米ジュニアチャンピオンが、21歳でついに全米シニア表彰台へ上った。本人曰く「完全なる衝撃」だったが、決してサプライズではない。
そもそもSPで5位と出遅れたのは、プログラム冒頭に大技トリプルアクセルにトライしたから。両足着地やダウングレード判定で大幅にスコアを失った。もしも2Aを成功させていれば、単純計算で3位に食い込んでいた。しかも勇敢に攻めた後、グレンはすぐに立て直すと、それ以降はノーミスで終えている。
FSでは精神力の強さをも証明した。この日は右足の炎症が膝まで広がり、抗生物質で抑えながら本番に挑んだという。「どうにか乗り越えなければならないと分かっていたので、プレッシャーなしで滑ることができました。かなり上手くいきましたよ」と大会後の記者会見でグレンはさらりと語ったが、決して簡単ではなかったはずだ。
つまり痛みの中であのフリーを演じきったのだと思うと、改めて感服する。3Aは封印し、2度の2Aを含むすべてのエレメンツをクリーンに揃えた。ミーシャ・ジーが振り付けたプログラム「レイン、イン・ユア・ブラック・アイズ」はすべての動作が流れるように紡がれ、しかも楽曲の盛り上がりと共に、グレンのスケートもどんどん力強さを増していく。
144.50ptのFSスコアが発表された瞬間に、グレンは思わず口を覆った。たとえ国内選手権とはいえ、パーソナルベスト125.44ptを20点近くも上回る評価だった。
「いまだにショック状態です。もちろん(表彰台に上りたいと)考えていましたが、単なる夢であり、実現するなんて思ってもいませんでした」
こじんまりした表彰式では、笑顔が止まらなかった。1年前に表彰台を目の前にしながらフリーで5位陥落した苦い思い出は、銀色の喜びで上書きされた。
3位 カレン・チェン SP4位70.99 FS3位143.99 トータル214.98
今全米参戦した女子の中では最多となる5度目の表彰台。1年前の復活の4位錫メダルから、2017年全米チャンピオンは、さらにひとつ順位を戻した。
SP、FSともにジャンプのミスがあったものの、スピンやステップの流麗さはさすが。カレンの代名詞とも言える、悠々と流れる大河のような、スケールの大きなスパイラルは思わず拝みたくなるほどの美しさ。特にFSのコレオシークエンスのGOE加点は、参加女子選手の中で最も高い2.3。さらにPCSの楽曲解釈は9.4と、昨季の公式戦記録と比較すると女子トップ級のスコアが与えられた。
「全体的には素晴らしいパフォーマンスができたと感じています。自分が披露できた演技を、本当に嬉しく思います」
大会後にはテネルと並んで、世界選手権代表に選ばれた(補欠は1グレン、2ベル、3シン)。もしも予定通り3月末にストックホルムで開催された場合、チェンにとっては初出場で4位に食い込んだ2017年大会以来、2度目の参戦となる(2018大会は棄権)。
4位 アリサ・リュウ SP2位76.36 FS4位137.03 トータル213.39
たしかに3連覇は果たせなかった。3回転アクセルも4回転も飛ばなかった。それでもアリサ・リュウの演技を見て、多くのファンがほっと胸をなでおろしているに違いない。だって15歳の少女は、着実に、素敵に進化していた!
身長は伸びても均整のとれた肢体と、柔らかくのびやかな雰囲気は変わらない。むしろ持ち前の綺麗なスピンポジションが、よりいっそう氷上で際立った。SP「道」は愛くるしさにあふれ、トレードマークの弾ける笑顔が弾けたが、一方のFS「ストーム」ではドキっとするほど艶のある大人びた表情ものぞかせた。難しい動きの多いステップシークエンスにも挑戦し、きっちりレベル4+誰よりも高いGOE加点を得た。
残念ながらFS後半のコンビネーションジャンプのミスがメダルの色に影響して、結果は僅差の4位。それでも成長期と新型コロナウイルスによる移動制限に悩まされた今シーズンの、初めてにして、最後の大会を、無事に乗り切った。
来シーズンからようやくシニアの国際大会転戦が認められるリュウは、ジュニア世界選手権中止により予定より早いシーズンの終わりを、前向きにとらえている。
「ラッキーなことに、4回転や3Aの練習を再開できます。だから本当に興奮しているんですよ。地元に帰って、また4回転練習に励みます!」
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女子としては最多8回目の全米選手権に挑んだマライア・ベルは、ジャンプに苦しめられた。SPでは3回転ルッツで「正直に言って今までしたことがない」という痛恨のミス。FSでもジャンプエレメンツで転倒を含む4度のミスを重ね、4度目の台乗りのチャンスを逃した。ただしフリー最終盤のコレオシークエンスでは真価を発揮。キラキラとしたベルらしい魅力をあたりに振りまきつつ、5位で大会を締めくくった。
昨季のジュニア全米選手権を制し、初めてのシニア全米に臨んだリンゼイ・ソーングレンは堂々6位入賞。アリサ・リュウより4カ月年下の最年少参加選手の、気品あるたたずまいと美しいスピンポジションに多くのファンが目を奪われたに違いない。またスケートアメリカで3位に入り、全米前には表彰台候補として大きな注目を集めたオードリー・シンは、重圧を感じたか、SP、FS共にミスを連発。7位に終わった。もちろん16歳のシンが、今後も注目すべき選手であることには変わりはない。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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