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【レビュー:ISU欧州フィギュアスケート選手権2020 ペア】ロシア勢が表彰台独占。コズロフスキー「僕らは過去を振り返らない。常に未来に向かって進んでいる」
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部1位 アレクサンドラ・ボイコワ/ドミトリー・コズロフスキー(ロシア)
もはや完成形に近く、それでいて、はるかなる伸びしろを感じさせる..。2020年欧州フィギュアスケート選手権でペア優勝を果たしたボイコワとコズロフスキーは、そんな印象を私たちに与えてくれた。
特にSP「My Way」は、衝撃的なほどにクリーンでパーフェクトだった。各エレメンツには、インにもアウトにも難しい工夫が散りばめられ、それでいて優雅にさらりとこなす。なにより高速で走るように滑りながらも、ユニゾンが恐ろしいくらいにぶれない!
しかもスコアは歴代最高得点の82.34。つまり中国ウェンジン・スイ/ツォン・ハン組が今季NHK杯でマークした記録を、1点以上も塗り替えたことになる。
「得点にも、クリーンに滑れたことにも、興奮はしています。でも、この得点に、気を取られてはならない。ただ自分たちのやるべきことをやるだけです」(ボイコワ)
こんなコメントには、過去の悪夢を繰り返すまいという、自戒が込められていたのかもしれない。3年前のワールドジュニアではSP1位で折り返しながらも、FSで逆転され2位。「私たちは勝たねばならなかった」と、当時15歳のボイコワは大粒の涙を流した。今季GPファイナルでもSP2位で好発進ながら、FS最終盤のリフトでミス。4位に沈んだ。
「僕らは過去を振り返らない。ただ『今』だけに集中して、常に未来に向かって進んでいるんです」(コズロフスキー)
FS「Writing’s on the Wall」をダイナミックに滑り終えた直後、コズロフスキーは氷上に思わず膝を突いた。まるで大きな重責から解放されたように。序盤の3連続ソロジャンプでわずかに着氷が乱れたが、後はすべてが流れるように進んだ。トータルでは歴代最高得点にわずか0.26及ばなかった。ただし2位以下とは25点以上もの大差をつけた。大会直前に18歳になったばかりのボイコワと20歳コズロフスキーにとっては、生まれて初めての「国際大会ビッグタイトル」だった。
「今この時点では、すごく幸せだし、すごく興奮してます。僕らにとって初めてのタイトルですからね。でも、きっと、あっという間にどうでも良くなってしまうんでしょうね。だってワールドに向けて、すぐに準備を開始しなきゃなりませんから」(コズロフスキー)
ボイコワ/コズロフスキー組は、3月のモントリオールへは、スイ/ハン組の最大のライバルとして乗り込むことになる。ロシアにとっては過去10年で8度目のヨーロッパ選手権ペア制覇だったが、世界選手権では6年間優勝から遠ざかっている。
2位 エフゲーニヤ・タラソワ/ウラジミール・モロゾフ(ロシア)
2020年欧州選手権では、ロシアが全4カテゴリで優勝をさらった。しかも全部で12ある表彰台ステップのうち、なんと10をロシアが占めた。中でも女子とペアは金銀銅をロシアが分け合い、フィギュアスケート古豪としての底力を見せつけた。
中でも現役ロシア最多の、6年連続ヨーロピアン表彰台乗りを成し遂げたのがタラソワ/モロゾフ組だ。欧州制覇は2度経験があり、3年連続ワールド表彰台の実力者にとって、銀メダルは必ずしも満足の行く結果ではないかもしれない。特にSPではリフトでヒヤリとする場面もあり、FSでは2度のソロジャンプでミスを犯した。
ただし2人は、むしろポジティヴな面を見つめる。
「プログラムの『解釈』や表現力、スケーティングスキルに練習時間をたくさん割いてきました。バレエレッスンもしました。僕らにとって、今までとはまったく異なる試みです」(モロゾフ)
「今大会はベストではなかったし、技術的なミスもありました。でも良いプログラムを『演じる』ことが出来て、満足しているんです。ジャンプの出来よりも、今回はプログラムの出来に集中してきましたから」(タラソワ)
今季から練習拠点をアメリカに移し、新コーチ・ズエワのもとでトレーニングを積んできたタラソワ/モロゾフは、新しい世界感を作り上げている最中だ。しかも独特の緊張感に引きずり込まれていくSP「Bolero」は、2人にとって、キャリアを代表する名プログラムになる可能性を秘めている。
「私たちが正しい道を歩んでいることは分かっています。あるべき場所に、すべてはおさまるのです」(タラソワ)
3位 ダリア・パブリュチェンコ/デニス・ホディキン(ロシア)
1年前の銅から金へと躍進したボイコワ/コズロフスキー組にならって、パブリュチェンコ/ホディキン組も、昨大会5位から3位表彰台へとジャンプアップを成功させた。
2人の魅力は、やはり身長差を活かしたとびっきりアクロバチックなエレメンツの数々だろう。特にFS「Tron: Legacy」でのリフトやスロージャンプのオリジナリティあふれるイン&アウトは、何度見直しても..やっぱり驚愕しかない!
ただFSでは「大きな失敗がひとつと小さな失敗がひとつ」とパブリュチェンコが言ったように、残念ながら完璧ではなかった。がっかりはしていない。むしろ初めての欧州メダルに、2人ともニッコニコだ。
「だって僕らのキャリアは始まったばかり。むしろ今大会で自分たちがどこれからどこを鍛えていくべきなのか、どこを磨き上げるべきなのかがはっきり見えた」(ホディキン)
それに2年前のジュニア世界チャンプ組は、「欧州上位入賞→世界選手権代表決定」という課題を見事にクリアした。3月には大人の部の世界選手権に初挑戦する。
4位 ニコーレ・デラモニカ/マッテオ・グアリーゼ(イタリア)
2年連続の4位。1年前に0.14差で表彰台を逃した時は悔しかった。ただ今年は、本人たちにとっても..ファンたちにとっても、むしろほっと安心させられた気分のほうが大きい。
7月にデラモニカが脱臼し、ほぼ3ヶ月間思うような練習が出来なかった2人は、グランプリシリーズでは(イタリアメディア曰く)「壊滅的」だった。幸いにも11月末に痛みが引き、ようやく思い通りの練習ができるようになった。
「私達にとっては、つまり今大会こそが『シーズンの始まり』なんです。メダルのことは考えず、自分たちのベストを尽くすだけでした」(グアリーゼ)
練習不足と実践不足がたたり、FS「Pilgrims on a Long Journey」では体力面・技術面ともに、すごく苦しんだそうだ。それでも最後まで丁寧に、なめらかに滑りきった直後に、2人が浮かべた表情はとても優しい。
平昌五輪金メダリストのサフチェンコ/マッソ組は、2017/18シーズンを最後に競技会からしばらく距離を置いているが、ドイツペアの伝統の火は消えてはいない。ハーゼ/ジーゲルト組は自己最高の5位入賞。なにより今季ペアを組んだばかりで、早くもジュニアGPファイナルにも進出したホッケ/クンネル組が、堂々7位に飛び込んだ。特にかつてサフチェンコの教えを受けたホッケ/クンネル組の、現振付師はなんとあのパパダキスの母!というからチェックしておきたい。
やはりパパダキス母(カトリーヌ)の指導を受け、なにより1月14日で晴れて40歳になり..ヨーロッパ選手権史上初の40歳超スケーターとなったジョーンズと、10歳年下ボヤジのペアにも注目だ。昨ワールドでは自己最高順位を大幅に更新し17位、今季は初めてのスケートアメリカにも出場(8位)。いまだに進化を辞めないジョーンズは、今季SPでは大胆にもプログラムの締めにスロージャンプを組み込み、FSでは3T+2Tをきっちり飛ぶ!
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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